企業向けAIがついに「実行」のステージに入りました。

2026年5月5日、ServiceNowとNVIDIAはラスベガスで開催されたServiceNow Knowledge 2026の基調講演で、企業向け自律型デスクトップAIエージェント「Project Arc」を発表しました。事前に組んだワークフローを必要とせず、コードを書いてファイルを操作し、問題が起きれば自分で対処しながら複雑な業務を完結させます。

この記事でわかること:

  • Project Arcが従来のRPAやAIアシスタントと何が違うのか
  • NVIDIA OpenShellによるサンドボックス実行の仕組み
  • ServiceNow AI Control Towerによる監査・ガバナンスの概要
  • データセンター側のNVIDIA AI Factory統合の詳細
  • 利用開始のタイムラインと入手方法

「作る」から「動かす」へ—企業AIの次の壁

ChatGPTが登場してから3年以上が経ち、多くの企業がAIで文章を生成したり情報を要約したりできるようになりました。次に来たのは「推論」——複雑な問いに対してステップを踏んで考えるAIです。

しかし、企業現場で本当に必要なのは「実行」です。ファイルを開く、ターミナルでコマンドを打つ、チケットを起票する、異常が出たら対応を変える——こうした一連の作業を人間に代わってやり遂げるAIエージェントは、セキュリティと監査の問題から本格導入が進んでいませんでした。

Project Arcはその障壁に正面から応えます。

Project Arcとは何か

Project Arcは、社員のデスクトップで常駐して動く自律型AIエージェントです。ServiceNowとNVIDIAが共同で設計しており、対象は開発者・ITチーム・システム管理者などのナレッジワーカーです。

特徴は三点あります。

自律的なコード実行と問題対応
指示されたタスクを完了するまで、自分でコードを書き、ターミナルを操作し、アプリを横断して作業を進めます。途中でエラーが出れば、原因を判断してアプローチを切り替えます。従来のRPAのように事前にフローを定義する必要はありません。

ServiceNow Action FabricとCMDBによる企業知識の活用
ServiceNowのワークフローシステム「Action Fabric」と構成情報データベース「CMDB」に接続することで、社内のシステム構成・業務プロセス・過去の作業履歴をもとに行動します。一般的なAIエージェントが持ちえない企業固有のコンテキストを判断材料にできます。

デスクトップアプリ・コラボレーションツール・メールから利用可能
インターフェースを問わず同じガバナンスのもとで動作します。SlackやTeamsからタスクを依頼する形でも使えます。

セキュリティを担う NVIDIA OpenShell

企業が自律型エージェントを導入するうえでの最大の懸念は、「エージェントが何をやっているかわからない」という不透明性です。Project ArcはNVIDIAが開発したオープンソースのランタイム「NVIDIA OpenShell」の上で動作し、この問題を構造的に解決しています。

OpenShellはサンドボックス型の実行環境で、エージェントが参照できるファイルの範囲・使用可能なツール・各アクションの制御方法をポリシーとして事前定義できます。エージェントが実行したファイル読み取り・コマンド実行・API呼び出しはすべてログに残り、後から完全に監査できます。

さらに上位のガバナンス層としてServiceNow AI Control Towerが機能します。Control Towerはエージェントの行動ポリシーを設定し、リアルタイムで行動をモニタリングします。セキュリティ担当者がログを確認し、問題のある動作にはポリシーで制限をかけることができます。

ServiceNow AI Engineering担当エグゼクティブバイスプレジデントのJoe Davis氏は「信頼できるデスクトップ上の自律型AIエージェント、データセンターへのガバナンス拡張、業界全体に責任を持たせるオープンベンチマーク——これが長続きするエンタープライズAIです」と述べています。

データセンター側の統合:NVIDIA Enterprise AI Factory

今回の発表はデスクトップだけにとどまりません。ServiceNow AI Control TowerがNVIDIA Enterprise AI Factoryの検証済み設計に統合され、一般提供(GA)が開始されました。

これにより、大規模なAIモデルのワークロードを実行するデータセンター基盤にも、ServiceNowのガバナンス機能が届くようになります。利用できる機能の例として、モデルのディスカバリーからインベントリ管理・コンプライアンス監視を一元対応するものや、リアルタイムのオブザーバビリティと是正措置、月次の生産性指標やROIを追跡するコスト管理フレームワークがあります。

NVIDIA Blackwellプラットフォームは前世代のHopperと比べて1ワットあたりのトークン出力が50倍以上、1Mトークンあたりのコストが35倍近く低下しています。エージェントが常時起動して数百万のワークフローを処理する用途では、このトークン経済性が普及速度を左右します。

オープンベンチマーク NOWAI-Bench

エンタープライズAIエージェントの性能評価基準が不足しているという課題に対し、ServiceNowとNVIDIAはNOWAI-Benchというオープンソースのベンチマークスイートも公開しました。

二つのフレームワークで構成されています。EnterpriseOps-GymはITサービス管理・カスタマーサービス・HRにまたがる多ステップの業務フローでエージェントを評価します。NVIDIA Nemotron 3 Superはこのベンチマークでオープンウェイトモデルの中でトップの性能を記録しています。EVA-Benchは企業向け音声エージェントの評価フレームワークで、NVIDIA Nemotron VoiceChatモデルの開発にも活用されています。両フレームワークはNeMo Gymに統合されており、自動的なモデル評価に再利用できます。

利用開始のタイムライン

機能 提供状況
Project Arc(デスクトップエージェント) 早期プレビュー
ServiceNow AI Control Tower + NVIDIA AI Factory統合 一般提供(GA)
NOWAI-Bench(EnterpriseOps-Gym・EVA-Bench) オープンソースで公開済み

Project Arcの早期プレビューへの参加はServiceNowのパートナーチャネルを通じて案内されます。

まとめ

ServiceNow × NVIDIAのProject Arcは、企業AIの「生成」フェーズが終わり「自律実行」フェーズが始まったことを示す発表です。NVIDIA OpenShellで実行を封じ込め、AI Control Towerで監査し、Action FabricとCMDBで企業知識を与える——この三層構造が、これまでPoCで止まっていた自律型AIエージェントを本番環境に持ち込む際の解決策になる可能性があります。