NvidiaのAIチップ市場シェアは86%で変わっていない。それでも、2026年5月時点でNvidiaの株価はS&P500並みの上昇にとどまり、フィラデルフィア半導体指数(+55%)の構成銘柄中で最下位に沈んでいる。
この記事では、Google・Meta・Amazonがそれぞれ発表した自社AIチップの実態と、それがNvidiaの市場支配に与える影響をまとめます。
この記事でわかること:
- なぜテック大手が自社AIチップ開発を急ぐのか
- Google TPU第8世代の外部販売開始と規模感
- MetaのMTIA 4世代の性能と展開計画
- AmazonのTrainium3が集めた2,250億ドルのコミットメント
- Nvidiaの競争優位は本当に揺らいでいるのか
自社チップへ向かう3つの動機
テック大手が独自のAIチップを作る理由は、大きく3つに整理できます。
第一はコストです。NvidiaのGPUはAIワークロードに最適化されていますが、価格も非常に高い。自社チップをNvidiaの補完として使えば、単価を下げられます。
第二は供給の安定です。特定ベンダーへの集中は調達リスクになります。MetaのエンジニアリングVP Yee Jiun Song氏は「シリコン供給の多様化が価格変動への保険になる」と明言しています。
第三は競争優位の確保です。GoogleのTPUのように特定ワークロード向けに最適化されたチップは、汎用GPUより高い効率を発揮します。この3つの動機が重なって、各社の独自チップ投資が一気に本格化しています。
Google TPU第8世代、外部販売という転換点
Googleは2026年4月のGoogle Cloud Nextで、第8世代TPUを2種類発表しました。学習向けの「TPU 8t」と、推論・強化学習向けの「TPU 8i」です。
TPU 8tは1データセンター内で13万4,000チップを単一ファブリックとして接続でき、複数拠点にまたがれば100万チップ超を一つの学習クラスターとして扱えます。
もう一つの大きな変化は外部販売の開始です。Alphabetは「select group of customers」向けに、顧客の自社データセンターへTPUを売却すると発表しました。AnthropicはすでにTPU100万台以上のコミットを表明しており、2027年以降の複数ギガワット規模の展開へ契約を拡大しています。
Citizens証券のアナリストAndrew Boone氏は、Alphabetが2026年にTPU関連で約30億ドル、2027年には250億ドルを超える収益を上げると試算しています(参考)。
Amazon Trainium3、2,250億ドルのコミット
Amazonの自社AIチップ「Trainium」シリーズも急拡大しています。
Trainium2は同クラスのGPUと比べて約30%のコストパフォーマンス優位を持ち、ほぼ完売状態です。2026年初に出荷を開始したTrainium3は、Trainium2比でさらに30〜40%の効率向上を実現しており、こちらもすでに大半が予約済みです。
シリーズ全体への売上コミットメントは2,250億ドル超に達しています(参考)。
MetaはGraviton CPU(Amazon製)に数十億ドル規模で発注しており、エージェントAIのCPU集約型ワークロードをAWS上で動かしています。TrainiumとGravitonを合わせると、MetaにとってAmazonは重要なNvidia以外の計算資源になっています。
MetaのMTIA、4世代一挙公開でNvidia依存を段階的に下げる
Metaは2026年3月、独自AIチップ「MTIA」の4世代を一度に発表しました。すでに展開中のMTIA 300に続き、MTIA 400・450・500をおよそ6ヶ月ごとに投入していく計画です。
性能面では、MTIA 300から500にかけてHBM帯域が4.5倍、演算性能(FLOPs)が25倍に向上します。製造プロセスはTSMCの2nmノードを採用する予定で、AIシリコンとして世界初となります。アーキテクチャはオープンソースのRISC-Vを採用しており、Broadcomとの共同開発です。
ルイジアナ州のHyperionデータセンター(目標容量5ギガワット)には1GW分のMTIAを展開します。
ただし、MetaはNvidiaやAMDとの複数年・数十億ドル規模の契約を引き続き維持しています。MTIAはNvidiaを置き換えるものではなく、供給の多様化と価格交渉力を高めるための手段という位置付けです。
Nvidiaのシェアは変わっていないが、投資家は長期を疑い始めている
Nvidiaの2025年AIアクセラレータ市場シェアは86%で、前年から変わっていません。今期の売上成長率は70%超が見込まれており、数字だけ見れば圧倒的です。
それでも投資家が株を売っているのは、長期見通しへの疑念からです。Nvidia株の2026年上昇率は約5%でS&P500並みですが、フィラデルフィア半導体指数の55%上昇と比べると大きく見劣りします。Nvidiaは同指数の構成銘柄30社中で今年最もパフォーマンスが低い銘柄です。
Bank of Americaのアナリスト・Vivek Arya氏は、テック大手がNvidiaのGPUと自社チップの「同等比重での混在展開」を進めていると指摘しています。Google、Amazon、Meta、Microsoftの4社はNvidiaの売上の約45%を占めており、この4社の調達方針が変わればNvidiaの収益に直接影響します。
Prime Capital FinancialのポートフォリオマネージャーClayton Allison氏はこう述べています。「Nvidiaの競争上の立ち位置が根本的に脅かされているとは言えない。しかし市場がNvidiaのシェア、競合の壁、マージンを疑い始めているのは事実だ」(参考)。
一方、NvidiaをカバーするBloombergの調査対象80人のアナリストのうち、売り推奨はわずか1名です。2027・2028年の業績予想は上方修正が続いており、AI需要の絶対量はまだ増え続けるとみる見方が主流です。
成長率鈍化が予測される2027〜2028年が試金石
Google、Amazon、Meta、Microsoftの4社が2026年に投じるcapex合計は最大7,250億ドルとされています。この規模の投資が続く限り、Nvidiaへの絶対的な発注量は急減しません。
問題はその先です。NvidiaのAI関連売上成長率は今期の70%から、2028年には32%に鈍化すると予測されています。ちょうど同じ時期に、Trainium3がほぼ満席になり、Google TPUの外部収益が250億ドル規模に達し、MetaのMTIA 500が量産に入ります。
テック大手の自社チップは、Nvidiaを壊滅させる武器ではありません。しかし調達の選択肢を増やすことで、発注先の分散と価格交渉力の強化を実現します。Nvidiaが「唯一の選択肢」ではなくなる時代が、着実に近づいています。
