新薬の候補化合物を絞り込む作業は、AIによる計算予測と実験室での検証を何度も往復するため、1サイクルに最大1年かかるのが当たり前でした。AWSはその常識を変えるプラットフォームを2026年4月14日に公開しました。
Amazon Bio Discoveryは、40種類以上のAI生物学モデルと実験室(ウェットラボ)を一つのアプリで直結する創薬AIサービスです。コードを書かずに抗体設計のワークフローを構築でき、実験結果がモデルの精度改善に自動でフィードバックされる「ラボ・イン・ザ・ループ」を実現します。
この記事でわかること:
- Amazon Bio Discoveryが解決する創薬現場の連携ボトルネック
- 抗体設計の4ステップワークフローの詳細
- MSK癌センターとの実証事例(30万候補を数週間で処理)
- 統合ラボパートナーの種類と料金体系
計算と実験の間にある壁
創薬研究には、AIモデルで候補化合物を予測する計算生物学者と、実際に合成・試験する実験科学者という2つの役割があります。この2つの連携が、実際の現場では機能しにくい構造になっています。
計算予測の結果を実験に引き継ぐには、データ変換や手動確認の工程が挟まります。どのAIモデルを使うべきかの判断も、モデルが増えるほど難しくなります。さらに、ウェットラボでの実験結果は計算システムとは切り離されたまま蓄積されるため、結果が次の予測の改善に活かされにくい構造です。
Amazon Bio Discoveryは計算設計とウェットラボ検証を一つのアプリに統合することで、この連携のボトルネックを解消します。
4ステップのワークフロー
Amazon Bio Discoveryは抗体設計を4段階で進めます。
Step 1: Build — モデルの選択とパイプライン構築
40種類以上の生物学AI基盤モデル(bioFM)を収録したカタログから目的に合うモデルを選びます。結合親和性の予測、開発可能性評価など、用途ごとに専門化されたモデルが揃っています。コード不要で複数モデルを組み合わせたワークフローを構築でき、完成したパイプラインはチーム全員が再利用できるテンプレートとして公開できます。自社の独自データを使ってカスタムモデルを学習・アップロードすることも可能です。
Step 2: Design — AIエージェントによる設計支援
標的タンパク質の構造をアップロードすると、AIエージェントが結合に重要な「ホットスポット残基」(アミノ酸)を特定し、設計パラメータを提案します。推薦には科学的な根拠と参考文献が付与されており、なぜその設計が有効なのかを確認しながら進められます。パラメータを変更したい場合もノーコードで調整でき、数千の候補が構造信頼性・結合親和性・ヒト化スコアで順位付けされて生成されます。
Step 3: Test — 候補選定とラボへの自動送信
インシリコ(計算)実験が完了すると、AIエージェントがパレート最適化を使って複数の条件を同時に満たす上位候補を絞り込みます。化学修飾による安定性の問題がある候補はあらかじめ除外されており、選別の根拠も確認できます。選んだ候補はGinkgo Bioworks、Twist Bioscience、A-Alpha Bioといった統合CROパートナーに直接送信でき、費用と納期の見積もりがリアルタイムで表示されます。手動の引き継ぎ作業は発生しません。
Step 4: Learn — 結果がモデルを強化する
ウェットラボでの実験結果はAmazon Bio Discoveryに自動で戻ってきます。インシリコ予測と実測値を比較し、自社データでモデルをファインチューニングすることで、次のサイクルの予測精度が上がります。実験を重ねるほどパイプラインは精度を高め、同じ工数でより質の高い候補を出せるようになります。
実証事例:MSKと数週間で30万候補を処理
Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSK)は小児がん向けの抗体開発でAmazon Bio Discoveryを活用しました。
AIエージェントが複数モデルを連携させ、新規の抗体候補を約30万種生成。そこから上位10万種に絞り込み、ウェットラボに送るまでに要したのは数週間でした。従来の手法では同じ工程に最大1年かかります(参考)。
同様の活用事例はVoyager TherapeuticsやBroad Instituteでも報告されており、それぞれの研究チームが独自データとAmazon Bio Discoveryを組み合わせて候補の最適化を進めています。
統合ラボパートナー
現在統合されているCROパートナーは次の3社です。
- Ginkgo Bioworks:合成生物学に特化したCRO。DNA合成から発現試験まで対応
- Twist Bioscience:高精度のDNA合成サービスを提供
- A-Alpha Bio:結合親和性測定に特化(近日対応予定)
候補送信の画面でアッセイを選ぶと、費用と納期の見積もりが即時表示されます。実験完了後はデータが自動で戻ってくるため、結果確認のための追加作業は不要です。
料金
料金はExperiment Unit(EU)という計算量の単位で管理します。EUの消費量は候補数・配列長・使用モデルの組み合わせによって変わり、実行前に見積もりが表示されます。
| プラン | 月額(早期アクセス価格) | EU/月 |
|---|---|---|
| Academic | 無料 | 5 |
| Starter | $180 | 5 |
| Pro | $486 | 15 |
| Pro+ | $2,142 | 70 |
| Enterprise | 要問い合わせ | 70以上 |
Academicプランは .edu/.org メールアドレスで登録した学術・非商用ユーザー向けの無料枠です。すべてのプランはコラボレーター追加が無制限で、座席課金はありません。新規ユーザーはクレジットカード不要の無料トライアルとして5EUが付与されます。現在は早期アクセスとして2026年10月15日まで定価の50%オフで提供されています。ウェットラボ実験の費用はEUとは別途、統合ラボパートナーへの支払いとして発生します。
Amazon Bio Discoveryを使うべき状況
抗体医薬品の研究開発を行うチームで、次のいずれかに当てはまる場合、Amazon Bio Discoveryは導入を検討する価値があります。計算生物学者と実験科学者の引き継ぎ工程に時間がかかっている、AIモデルの選定と運用に工数が取られている、ウェットラボへの発注と結果管理がバラバラのシステムで行われているといった状況です。
一方で、現在の対応範囲は主に抗体設計です。小分子化合物や遺伝子治療など他のモダリティへの対応は今後の拡張を待つ必要があります。また、EUの消費量はモデルや候補数によって大きく変動するため、本格的な高スループット研究では月額コストの試算が重要です。
Amazon Bio Discoveryは、計算予測と実験の間にある手動工程を自動化することで、創薬サイクルを大幅に短縮します。無料トライアルは公式サイトから申し込めます。