健康データはスマホ、病院、検査会社に散らばったまま、自分ではつながりが見えない——そんな悩みにMicrosoftがCopilot Healthで踏み込んできました。2026年5月29日にプレビュー公開されたこの機能は、医療記録やウェアラブル、検査結果をCopilot上の専用スペースに集約し、個別の質問に答える仕組みです。
この記事では、公式発表とZDNETによる実機試用レビューをもとに、Copilot Healthの機能、使い方、プライバシー設計、実際の使い心地を整理します。
この記事でわかること
- Copilot Healthで何ができるのか、誰が使えるのか
- 医療記録・ウェアラブル・検査結果の連携方法
- Microsoftが掲げるプライバシーと安全性の仕組み
- 実機試用で判明した強みと技術的な課題
https://copilot.microsoft.com/health
Copilot Healthが解く課題
一般的な生成AIに健康相談をすると、利用者の既往歴や服薬内容を知らないため、回答はどうしても一般論にとどまります。Microsoftの公式ブログでも、睡眠データと血液検査の結果が別々に存在し「つながりが見えない」ことが課題だと説明されています(Microsoft Copilot Blog)。
Copilot Healthは、Copilot内の独立した専用スペースとして設計されています。健康プロフィール、ウェアラブル、電子カルテ(EHR)、検査結果を一か所に集め、個人の状況に沿った回答やフォローアップの質問を返します。医師の代わりではなく、受診前の準備やデータの読み解きを支援する位置づけです。
2026年5月にプレビューへ移行
Copilot Healthは2026年3月12日に発表され、当初はウェイトリスト制でした(Microsoft AI)。5月29日、安全性テストと評価を経てプレビューへ移行し、条件を満たすユーザーが直接試せるようになりました。
利用条件は次のとおりです。
- 米国在住の18歳以上
- Microsoft 365 Personal、Family、Premiumのいずれかに加入
- 仕事用アカウントは対象外
アクセス先はWebのcopilot.microsoft.com/health、Windows版Copilotアプリ、iOS版Copilotアプリです。Android版は2026年6月時点では未対応で、Microsoft Supportは追加プラットフォームへの展開を進めていると記しています。
主な機能とデータ連携
Copilot Healthの中核は4つに分けられます。
健康プロフィール — 年齢、性別、既往歴、生活習慣、目標などを登録し、回答の文脈に使います。過去のCopilot会話から健康関連の情報を取り込むことも選べます。
データ連携 — 50種類以上のウェアラブル(Apple Health、Oura、Fitbitなど)と、HealthEx経由で5万以上の米国医療機関の電子カルテを接続できます。検査結果はFunction経由で取り込みます。Microsoft公式発表では、診療サマリー、薬一覧、検査結果が対象とされています。
インテリジェントな健康インサイト — 接続データと会話内容から、睡眠傾向やフォローアップの提案などをホーム画面のカードとして表示します。
ケアナビゲーション — 専門分野、言語、性別、保険、所在地で医療提供者を検索できます。米国のリアルタイム提供者ディレクトリと連携しています。
回答の根拠として、全米医学アカデミー(National Academy of Medicine)が公表した原則に基づき選定した信頼できる健康機関の情報と、Harvard Healthの専門家執筆カードが引用されます。
使い方の流れ
ZDNETの実機レビュー(Yahoo Tech)によると、利用開始時に年齢と出生時の性別を入力し、過去のCopilot会話を使うか新規作成するかを選びます。
医療記録を接続する場合、第三者サービスのClearが生体認証で本人確認を行い、複数の医療機関から記録を検索します。共有する機関はユーザーが選べます。Apple Healthを使う場合はiOS版Copilotアプリを最新版に更新し、メニューからHealthを選んで接続します。
初期設定後は、症状の相談、受診準備、睡眠改善の提案、薬の副作用確認などをチャット形式で行えます。
実機試用で見えた強みと課題
ZDNETのレビュアーは実際の医療記録とApple Watchのデータを使って5つの質問を試しました。結果は「好坏半々」と評価されています。
うまくいった例
- GLP-1受容体作動薬の用量と食欲の関係について、記録上の処方履歴を参照しながら、用量が低い段階である点を指摘
- Apple Watchのデータから活動量や心拍の傾向をグラフ化し、短い散歩から始めるよう提案
- 長年の「のどの違和感」について、既往歴と服薬内容から候補を絞り、ENT(耳鼻咽喉科)受診を勧める
- 保険・専門分野・地域を指定した医師検索で、条件に合う候補を提示
技術的な課題
一方で、共有済みの医療記録の一部を取得できなかったケースがありました。Apple Healthに登録されている薬一覧も自動では引き出せず、手動でコピー&ペーストが必要でした。データ連携の完成度は、公式の説明ほどスムーズではない場面がある点は押さえておく必要があります。
レビュアーは回答の正確性には一定の評価をしつつも、難しい質問では限界が出る可能性があると指摘しています。最終的には接続したデータをすべて削除し、必要なときだけ手動で情報を渡す方針に戻したとも書かれています。
プライバシーと安全性の設計
健康情報を扱う以上、プライバシーは利用判断の中心です。Microsoftは次の点を公式に説明しています。
- Copilot Healthの会話は通常のCopilotと分離され、AIモデルの学習には使わない
- データは保存時・転送時ともに暗号化
- 健康データの削除、コネクタの切断はいつでも可能
- 広告プロファイル作成や第三者への販売は行わない
- デフォルトで会話は18か月保存されるが、設定から一括削除できる
開発面では、社内の臨床チームと24か国以上の230〜250名の外部医師パネルが関与し、ISO/IEC 42001(AIマネジメントシステムの国際規格)の認証を取得しています。Microsoft Supportによれば、Copilot Healthは消費者向けウェルネス製品であり、HIPAA(米国の医療情報保護法)は原則として適用されません。ただし、同ページではMicrosoftのセキュリティポリシーで保護すると明記されています。
The Vergeの取材では、Microsoft AIのDominic King副社長が「直接消費者向け体験ではHIPAAは義務ではないが、最高水準の基準を満たすことが重要」と述べ、今後HIPAAコントロールに関する更新を予告しています(The Verge)。
他社の健康AIとの違い
OpenAIは2026年1月にChatGPT Healthを発表し、隔離された環境で医療記録を扱う類似機能を提供しています。企業向けにはChatGPT for HealthcareやAmazon Health AI、AnthropicのClaude for Healthcareなど、HIPAA対応を謳う製品も存在します。Copilot Healthは現時点で消費者向けプレビューに留まり、医療機関向けのHIPAA準拠版はありません。
差別化の軸は、Microsoft 365エコシステムとの統合と、HealthEx・Function・Clearといった米国向けデータ連携パートナーとの組み合わせです。すでにApple Healthや複数病院の記録を日常管理している米国ユーザーにとって、一元的な相談窓口としての価値が出やすい設計です。
使う前に確認すべき注意点
Microsoftは全公式ページで、Copilot Healthは疾病の診断・治療・予防を目的とせず、専門的な医療助言の代替にならないと明記しています。プレビュー期間中は機能や利用制限が変わる可能性もあります。
実務的な使い分けとしては、次の点が現実的です。
- 受診前の質問整理や検査結果の意味づけなど、補助的な用途に留める
- AIの回答は必ず医師や薬局に確認する
- 連携エラーやデータ欠落を想定し、重要な情報は手動でも渡せるようにする
- プライバシーポリシーの変更リスクを踏まえ、不要になったデータは削除する
Copilot Healthは、散在する健康データを一つの文脈にまとめる試みとして、機能の幅と設計の丁寧さは際立っています。一方、実機レビューが示すように、データ連携の安定性はまだプレビュー段階の課題を抱えています。米国のMicrosoft 365ユーザーが、自分の健康情報をAIに預けるかどうかを判断する材料として、機能とリスクの両面を見極める時期に入ったと言えます。