CPUクーラーを外すたびにシリコングリスを塗り直す手間は、自作PCユーザーにとって定番の悩みです。2026年5月末、AMDとNoctuaがCarbiceの「Ice Pad」を採用・販売する提携を発表し、衛星やデータセンター向けに開発されたカーボンナノチューブ(CNT)ベースの熱伝導材が、AM4・AM5の自作市場でも手に入る道が開きました。
この記事では、Carbice Ice Padの技術概要、AMDのRyzen 7 5800X3D同梱、Noctua経由の単体販売、従来のグリスとの違いを整理します。
この記事でわかること
- Carbice Ice Padがどんな素材で、何が変わるのか
- AMDのRyzen 7 5800X3D 10周年版に同梱される理由と発売情報
- Noctua NT-CP1 AM5/4の対応ソケットと販売時期
- 再塗布が不要になるメリットと、グリスとの使い分け
Carbice Ice Padとは何か
熱伝導材(TIM)は、CPUの天板(IHS)とクーラーのベースプレートの間に挟み、熱を逃がすための部材です。従来はシリコングリスが主流でしたが、乾燥やポンプアウト(クーラー締め付けでグリスがはみ出す現象)により、数か月〜数年で性能が落ちることがあります。
Carbice Ice Padは、垂直配向のカーボンナノチューブをアルミ骨格の上に載せ、ナノスケールのポリマーコーティングで表面を仕上げたパッド型TIMです。Carbiceの公式発表(PR Newswire)では、構造が安定しており、設置当初から機器の寿命まで一貫した熱伝導性能を維持できると説明されています。
主な特徴は次のとおりです。
- 剥がして貼るだけの設置: グリスの量を気にせず、はがき状に貼り付けられる
- 再塗布不要: 定期的なメンテナンスを前提にしない設計
- 中古転売時の汚れが少ない: グリス残りが付きにくく、CPUの状態を保ちやすい
- 用途の広がり: 衛星・航空宇宙・AIインフラ向けに供給してきたIP90技術を、CPUサイズに合わせた形で提供
2025年後半からはCyberPowerPCのカスタムPCで事前貼り付けオプション(約10ドルの追加料金)として提供されていました。今回の発表で、個人が単体購入できる販路が大きく広がります。
AMDが5800X3Dに同梱する背景
AMDは、AM4向けのRyzen 7 5800X3Dを「10周年記念版」として再発売し、同梱物にCarbice Ice Padを加えます。TechPowerUpの報道(参考)によると、CPU本体の仕様は2022年発売の初代と同一で、8コア16スレッド、最大4.5GHz、L3キャッシュ96MB、TDP 105Wです。パッケージに記念ロゴが入るほか、箱にIce Padが同梱されます。CPUクーラー本体は付属しません。
発売日は2026年6月25日、希望小売価格は349ドルです。2022年の初版449ドルから100ドル下がっており、AM4を維持したままゲーミング性能を底上げしたいユーザー向けの再投入と読めます。
AMDのDavid McAfee氏(Ryzen CPU・Radeon Graphics担当CVP)は、公式リリースで「開封時の性能が、数か月後も数年後も維持される」とコメントしています。Carbice CEOのBaratunde Cola氏も、「性能低下の原因となる故障モードを設計段階で排除している」と述べています。
注目すべきは、最新のAM5フラッグシップではなく、旧世代AM4の人気CPUにこの素材を組み合わせた点です。DDR5メモリの価格高騰でAM5への全面移行が難しい層に向け、既存マザーボードを活かした延命策として位置づけられています。
NoctuaがDIY市場の独占販売元に
オーストリアのクーラーメーカーNoctuaは、Carbiceと長期提携を結び、DIY市場向けのCarbice IP90パッドの独占小売販売元になります。最初の製品名は「Noctua NT-CP1 AM5/4」で、AMD RyzenのAM5・AM4両ソケット向けに調整・検証済みです。
VideoCardzの報道(参考)によれば、グラファイト系パッドに比べて取り回しやすく、設置中のずれも起きにくい設計です。熱サイクルを繰り返すほど接触が改善する、という説明も出ています。これは乾燥やはみ出しで性能が落ちやすいグリスとは対照的なアプローチです。
Computex 2026(6月2〜5日、台北)のNoctuaブースで実物展示が行われ、小売販売は2026年9月開始が予定されています。価格は未発表ですが、CyberPowerPCでのオプション料金が約10ドルであることから、単体でも手頃な価格帯になる可能性はあります。確定するまでは推測にとどめてください。
Noctuaは今後もCarbiceと共同研究開発を進めると表明しており、冷却パッド以外の製品展開にもつながる見込みです。
グリスからパッドへ切り替える意味
シリコングリスは手軽で安価な一方、量の調整や塗り方のムラが性能差につながります。中古CPUを買った際に固着したグリスを削る作業も、経験者なら避けたい手間のひとつです。
Carbice Ice Padは、こうした「消耗品としてのTIM」という前提を変える製品です。完全にグリスを置き換える万能品ではありません。Thermal Grizzlyなど他社の高性能グリスやパッドも市場には存在し、極限のオーバークロック用途では従来品の方が選ばれる場面もあります。
ただし、メンテナンスフリーと設置の簡単さを優先するユーザーには、今回の販路拡大は実用的な選択肢になります。5800X3D 10周年版を買えばパッド付きで試せ、気に入れば9月以降にNoctuaから追加購入して他のAM4・AM5 CPUにも使えます。
いつ、どう手に入るか
入手経路は3つに整理できます。
- Ryzen 7 5800X3D 10周年版: 2026年6月25日発売、349ドル、Ice Pad同梱
- Noctua NT-CP1 AM5/4: 2026年9月小売開始、AM4・AM5対応、価格未定
- CyberPowerPCカスタムPC: 引き続き事前貼り付けオプションとして選択可能
AM4プラットフォームの延命、DDR5高騰下での現実的なアップグレード、再塗布不要の冷却部材——3つの文脈が重なった発表です。自作PCを長く使い続けたいユーザーは、6月のCPU再発売と9月のパッド単体販売をチェックしておく価値があります。