AIインフラの供給不足が深刻化するなか、Nvidiaが韓国の主要企業4社と大型提携を発表しました。半導体メモリからクラウド、ロボティクスまで一気通貫で結ぶ内容です。

この記事では、2026年6月に発表されたNvidiaとSK Hynix・Naver・SK Telecom・Doosan Groupの協業内容を整理します。

  • SK Hynixとの複数年メモリ共同開発とVera Rubin向け供給
  • NaverとSK Telecomが目指すギガワット規模のAI工場
  • Doosan Groupが担うエネルギー供給とPhysical AI
  • 共通基盤となるNvidia DSXプラットフォームの役割

Nvidiaが韓国で一括発表した提携の全体像

2026年6月7日から8日にかけて、Nvidia CEOのJensen Huang(ジェンスン・フアン)氏がソウルを訪れ、韓国の主要企業との提携を相次いで公表しました。Reutersの報道によると、各社は契約金額を開示していません。

今回の発表は、GPU(グラフィックス処理装置)単体の供給にとどまりません。AI工場と呼ばれる大規模データセンター、次世代メモリ半導体、Physical AI(現実世界で動くAI)まで、NvidiaのAIインフラ構想を韓国側が担う形です。Huang氏はSK Group本社で記者会見を開き、SK Hynixとの提携について「SKとの非常に重要で長期的なパートナーシップを結んだ」と述べました(参考)。

SK Hynix:次世代メモリの共同開発と供給安定化

SK Hynixとは、AI工場向け次世代メモリの共同開発を目的とした複数年の技術提携を結びました。従来のメモリ供給に加え、Nvidiaの製品ロードマップに沿った共同設計が中心です。

供給対象は、次世代AIスーパーコンピュータ「Vera Rubin」、Vera CPU、個人向けAI PC向け「RTX Spark」、ロボット向け「Jetson Thor」です。Yonhap通信の報道では、SK HynixはSamsung ElectronicsやMicron TechnologyとともにVera Rubin向けHBM4(高帯域幅メモリ第4世代)を供給しており、Vera Rubinは量産段階に入り2026年第3四半期から出荷開始予定とされています。

Huang氏は、これまでの協力がメモリ中心だったのに対し、今後はAIインフラやPhysical AI分野へ協業範囲を広げると説明しました。SK Group会長のChey Tae-won(崔泰源)氏も、パートナーシップが新たな段階に入ったと評価しています。

半導体製造面では、NvidiaのCUDA-XライブラリやPhysicsNeMoを使い、TCAD(Technology Computer-Aided Design、半導体設計支援)のシミュレーションを高速化します。さらにOmniverseとOpenUSDでファブ(半導体製造工場)のデジタルツインを構築し、cuOptによる自律搬送の最適化も進めます。

Naver:55メガワットから始まるソブリンAI工場

Naverは、Nvidia DSXプラットフォーム上にソブリンAI(各国・各組織が自国のデータと規制に沿って運用するAI基盤)インフラを拡張します。初期規模は55メガワット、最終的にはギガワット(1GW)規模を目指します。

拠点は韓国世宗市の「GAK Sejong」データセンターです。Asia Business Dailyの報道では、2027年上半期に55メガワットのAI工場を稼働させ、同年中に海外インフラを100メガワット、2028年までに200メガワットへ拡大する計画とされています。1ギガワットはGAK Sejong最大容量の約4倍で、Nvidia最新GPUを数十万基規模で収容できる水準です。

NaverはNvidia Nemotron 3 Ultraをベースに自社データでHyperCLOVA Xを強化し、韓国初のNemotron Coalition参加企業にもなりました。2026年後半にはNemoClawブループリントを使ったAI Agent Platform(エージェント型AIの開発・運用基盤)を韓国で立ち上げる予定です。Physical AI分野では、Nvidia Cosmos上に自社の街並みデータを活かした「Seoul World Model」を開発します。

SK Telecom:2027年稼働のギガワット級AI Cloud

SK Telecom(SKT)は、Nvidia DSXを基盤としたギガワット規模のAI Cloudを韓国に建設し、最初のAI工場を2027年に稼働させる計画です。AI Cloudは、一般クラウドとは異なり、AI向けGPU計算に特化した大規模インフラを指します。

SKTはNvidia Cloud Partnerにも加入し、ソブリンAI、Physical AI、エージェント型AIの各ワークロードを韓国企業向けに提供します。Chey Tae-won氏は、Nvidiaとの協力でチップからデータセンター運用までフルスタックのAIインフラ能力を確保したと述べました。

NvidiaとSK Groupは、インフラ展開にとどまらず次世代AI工場アーキテクチャの共同研究も進めます。研究対象は、加速計算、メモリ技術、データセンター運用を横断する「シリコンから送電網まで」の最適化です。

Doosan Group:エネルギー供給とPhysical AIの現場展開

Doosan Groupは、Physical AI、ロボティクス、AI工場インフラの分野で協業を拡大します。対象はDoosan Robotics、Doosan Bobcat、Doosan Enerbility、Doosan Corporation Electro-Materialsの各事業です。

Nvidia公式ブログによると、Nvidiaのフルスタック加速計算基盤と、Doosanの産業自動化・発電・先端電子材料の技術を組み合わせ、次世代AIインフラを支える方針です。Reutersの報道では、DoosanはNvidia最高性能チップBlackwell向け材料も供給しており、自社のエネルギーソリューションをNvidiaのデータセンター基盤に組み込む見込みとされています。

Huang氏は韓国訪問のなかで、ロボティクスが韓国の次の主要分野になると語り、Physical AIへの投資機会を強調しました。

DSXが各提携の共通基盤になる理由

Nvidia DSXは、AI工場の設計・建設・運用を一貫して担う参照アーキテクチャです。チップ、システム、ソフトウェア、施設、パートナー技術を統合し、メガワットあたりのトークン(AIが処理する言語単位)コストを下げることを目的にしています。

NaverとSK Telecomの両社がDSXを採用した点が、今回の発表の共通項です。Huang氏は「有用なAIの時代が到来し、AI工場への需要は並外れている」と述べ、韓国のソブリンAIインフラ拡大をDSXで支援する構図を示しました。

メモリ供給面では、AI工場の拡大ペースに高度メモリの開発サイクルが追いつかない問題があります。SK Hynixとの複数年契約は、Nvidiaのインフラロードマップとメモリ供給を同期させる狙いです。Huang氏はVera Rubinが量産入りしており、2026年後半は非常に忙しくなると語り、サプライチェーン全体の調整が今回の韓国訪問の焦点だったと説明しています。

読者への示唆

今回の提携は、AI需要の急増に対し、GPUメーカーが単体供給から「工場+メモリ+電力+現場AI」まで束ねる段階に入ったことを示します。韓国は通信、メモリ、製造、ロボティクスの強みを活かし、NvidiaのAI工場構想の実装拠点として位置づけられています。

2027年を起点に55メガワット規模のAI工場が動き出す計画は、エンタープライズ向けAIやソブリンAIの本番運用が加速するタイムラインとも重なります。メモリ、クラウド、Physical AIのいずれかに関わる読者にとって、Nvidiaと韓国勢の結びつきは今後の供給体制を読むうえでの重要な指標になります。