ロボティクススタートアップにとって、モデル開発より重いのはシミュレーション環境とGPUクラウドの確保です。2026年6月9日、NebiusはNvidiaと共同で英国・欧州のスタートアップ向け「Physical AI Living Lab」を発表しました。6ヶ月間の支援プログラムで、初回コホートは同年9月に始まります。
この記事では、Physical AI Living Labが何を提供するのか、対象者と申し込み方法、NvidiaとNebiusの既存連携との関係を整理します。
この記事でわかること
– Physical AI Living Labの目的と提供内容
– 参加スタートアップが使えるNvidia製ツールとNebiusのインフラ
– 申し込み経路と初回コホートの開始時期
Physical AI Living Labとは
Physical AI Living Labは、英国および欧州のロボティクススタートアップを対象とした6ヶ月の支援プログラムです。物理AI(Physical AI)とは、ロボットや産業機械のように現実空間で動作するAIシステムを指します。この分野では、大規模シミュレーション、合成データ、高速なGPU計算が不可欠です。初期段階の企業がこれらを自力で揃えるのは難しく、研究と実用化の間にギャップが生じやすい状況です。
Nebiusは公式発表で、同ラボがこの障壁を取り除き、創業者がインフラ構築ではなくロボット開発に集中できる環境を提供すると説明しています。プログラムはNebiusとNvidiaの協業によるロボティクス向けクラウド基盤の延長線上にあり、将来的には他地域への展開や複数コホートの実施も予定されています。
何が変わるのか
参加企業は、Nebius AI Cloud上でNvidiaの物理AI開発スタックを実際のワークロードに使いながら学べます。提供される主な技術は次のとおりです。
- Nvidia OSMO: ワークロードのオーケストレーション。複数の計算タスクを統合管理する仕組みです
- Nvidia Cosmos: 世界基盤モデル(World Foundation Model)。現実に近いシーンを生成し、シミュレーションや合成データ作成に使います
- Nvidia Isaac Sim / Isaac Lab: ロボットのシミュレーション、テスト、学習向けプラットフォームです
- Nvidia Physical AI Data Factory Blueprint: 大規模なデータ生成と評価のための参照アーキテクチャです
- Voxel51 FiftyOne連携: Cosmos上の合成データ生成機能を提供します
インフラは英国拠点のNebiusクラウドで、初期フェーズはNvidia RTX PRO 6000 Blackwell Server Edition GPUを搭載した環境で動きます。シミュレーションと学習だけでなく、モデルの構築、ファインチューニング、本番デプロイまでNebius AI Cloud上で一貫して進められます。
NebiusとNvidiaのエンジニアがプログラム期間中、技術的なガイダンスを提供します。Nebius Physical AI責任者のEvan Helda氏は「多くのロボティクスチームは優れたモデルを作れるが、シミュレーション・合成データ・計算資源の整備がボトルネックになる」と指摘し、ラボではNvidiaのフルスタックをNebius AI Cloud上で利用し、エンジニアと直接協業できると述べています。
背景となっているNvidiaとの連携
同ラボは2026年3月16日に発表されたNebiusとNvidiaの協業を土台にしています。両社はロボティクスのライフサイクル全体——シミュレーション、学習、実環境への展開——をカバーするエンドツーエンドのクラウド基盤を構築する方針を掲げ、Nvidia Physical AI Data Factory BlueprintをNebiusのグローバルAIクラウドに組み込んでいます。
先行事例として、屋外の非構造環境向けロボットを開発するRoboForceがNebiusクラウド上のNvidia Cosmosを活用し、パイプライン構築時間を70%以上短縮したとNebiusは紹介しています。Living Labでも同様のツールセットを初期段階のスタートアップが使える形で提供する狙いがあります。
Nvidia英国・アイルランド担当ディレクターのAnthony Hills氏は「英国には世界水準のロボティクスとAI研究がある一方、物理AIの実用化にはまだギャップがある」と述べ、Nebius上のクラウド規模の学習とNvidiaのシミュレーション・合成データ基盤を安価に使えることが、プロトタイプから実運用システムへの道筋になると説明しています。
参加方法とスケジュール
申し込みはNvidia Inceptionのパイプラインを通じて受け付けます。Nvidia Inceptionは、AIスタートアップ向けの支援プログラムで、採択企業に技術リソースやコミュニティへのアクセスを提供します。初回コホートの開始は2026年9月です。
対象は英国および欧州のロボティクススタートアップに限定されています。NebiusとNvidiaは将来的に他地域へプログラムを拡大する意向を示しています。欧州以外の開発者にとっては直接の参加対象外ですが、両社が物理AI向けクラウドを標準化しようとしている方向性は、ロボティクス分野全体の開発コスト構造に影響し得ます。
市場での反応
発表を受けて、Nebius(NASDAQ: NBIS)の株価は一週間で16%以上下落した後、発表当日のプレマーケットで約4%上昇したと報じられています(参考)。Nvidia株も同様の期間で6%以上の下落後、小幅な回復が見られたといいます。Living Lab自体が収益を直接生む事業ではなく、Nebiusの物理AI向けクラウドインフラ事業への注力を示す動きとして注目を集めています。
開発者にとっての意味
物理AI開発では「強いモデルは作れるが、シミュレーションと計算資源が追いつかない」という課題が繰り返し語られます。Living Labはその課題にインフラとツールをセットで応える試みです。参加企業にとってはGPUクラウドとNvidiaのシミュレーション基盤を一体で試せる場となり、9月の初回コホート以降に展開地域が広がるかが次の注目点になります。