AIエージェント向けプロトコルが次々と登場し、名前だけ並ぶと競合のように見えます。実際には多くが別のレイヤーを担っており、設計の勘所は「どの層を今採用するか」と「まだ空いているtransport層をどう扱うか」にあります。

この記事では、各プロトコルの役割分担と、HTTPでは解けないtransport問題、実務での設計判断の指針を整理します。

この記事でわかること

  • MCP・A2A・ANPがそれぞれ解く問題の違い
  • ACPがA2Aに統合された経緯と現在地
  • transport層が未解決である理由
  • アーキテクチャを組むときの層分離の考え方

https://venturebeat.com/orchestration/mcp-solved-tool-calling-a2a-solved-coordination-what-solves-transport

プロトコル乱立は「層の違い」で整理できる

過去18か月で、MCP(Anthropic、2024年後半)、ACP(IBM Research、2025年3月)、A2A(Google、2025年4月)、ANP(コミュニティ主導)の4つが相次いで公開されました。W3CのAI Agent Protocolコミュニティグループが標準化トラックを開き、IETFにもエージェント向けtransportのInternet-Draftが提出されています。

混乱の多くは、各プロトコルが「AIエージェント通信の標準」と紹介される一方で、どの通信面を指すのかが曖昧なことに起因します。分散コンピューティングの歴史では、CORBAやSOAPが乱立したあとRESTがHTTPネイティブさで収束したように、エージェント領域もまず層ごとに整理する必要があります。

MCPはツール呼び出し層を担う

MCP(Model Context Protocol)は、AIアプリケーションと外部システムをつなぐオープン標準です。モデルがサーバーが公開する機能を発見し、呼び出し、結果を解釈するまでの型付きRPC契約を定義します。公式ドキュメントでは「AIアプリケーション向けのUSB-C」に例えられています。

Linux Foundationの調査では、2026年4月時点で公開MCPサーバーが1万以上、Python SDKの月間ダウンロードが1億6400万回に達したと報じられています(参考)。Anthropicは2025年12月にMCPをAgentic AI Foundation(AAIF)へ寄贈し、Claude、ChatGPT、VS Code、Cursorなど主要プラットフォームが採用しています。ツール接続の標準化は実質的に収束段階に入っています。

A2Aはエージェント間のタスク調整を担う

A2A(Agent2Agent)は、異なるフレームワークやベンダーで作られたエージェント同士が協調するためのプロトコルです。GitHub上の公式READMEによると、JSON-RPC 2.0 over HTTP(S)をベースに、Agent Cardによる能力公開、同期・ストリーミング(SSE)・非同期プッシュの3モードを備えます。

MCPが「エージェントとツール」の接続を担うのに対し、A2Aは「エージェントとエージェント」のタスク委譲とライフサイクル管理を担います。Googleは2025年6月にA2AをLinux Foundationへ寄贈し、2026年3月にはv1.0がリリースされました。エンタープライズ向けのマルチエージェント連携では、ここが主戦場になっています。

ACPはA2Aへ統合された

ACP(Agent Communication Protocol)は、IBM Researchが2025年3月にBeeAI向けに公開した、軽量なエージェント間メッセージ形式でした。RESTベースでシンプルなメッセージ交換に特化し、A2Aのフルなタスク調整が不要な場面向けに設計されていました。

2025年8月、Linux FoundationはACPをA2Aへ正式統合すると発表しました(参考)。ACPチームは単独開発を終え、技術と知見をA2Aへ移管しています。新規プロジェクトはA2Aを採用し、既存のACP実装は移行ガイドに沿ってA2Aへ移すのが現実的な選択です。

ANPは発見とアイデンティティを担う

ANP(Agent Network Protocol)は、W3Cの分散識別子(DID)を基盤にした発見・認証プロトコルです。did:wba(Web-Based Agent)方式でエージェントの身元を検証し、JSON-LDグラフで能力を記述します。中央レジストリに依存しない、分散型エージェントマーケットプレイスを想定した設計です。

W3C AI Agent Protocolコミュニティグループの白書でもANPが参照実装として位置づけられており、エージェント同士が初対面で身元を確認する場面に向いています。エンタープライズ内の閉じた連携より、オープンなエージェントネットワークを見据えた層です。

4層で見ると競合ではなく補完関係になる

整理すると、次のようなスタックが形になりつつあります。

  • ツール呼び出し:MCP
  • タスク調整:A2A(ACPの機能を統合)
  • 発見・アイデンティティ:ANPまたは簡易レジストリ

いずれもHTTP上で動く設計が主流です。研究チームやAPIプロバイダー、エンタープライズソフトウェア企業がHTTPを前提に開発してきた結果であり、デモや社内導入では十分機能します。課題は、アプリケーション層の意味論が固まりつつある一方で、エージェント同士がどう接続するかは別問題だという点です。

transport層が残す課題

HTTPは「到達可能なサーバー」が存在することを前提にします。ネットワーク機器の88%がNAT(ネットワークアドレス変換)の内側にあり、NATの背後には外部から直接到達できるサーバーがありません(参考)。クラウド、家庭内ネットワーク、エッジにまたがるエージェント群がピア間でタスクを直接ルーティングしたい場合、すべての通信をリレー経由にする必要が生じます。レイテンシ、コスト、単一障害点が増えます。

MCP、A2A、ACP、ANPのいずれも、このセッション層(OSIモデルの第5層)相当の問題には手を入れていません。アプリケーション層のプロトコルは「何を言うか」を定義し、「どう接続するか」は定義しません。

transportを埋める技術候補

解決のための技術要素自体はすでに存在します。STUN(Session Traversal Utilities for NAT)を使ったUDPホールパンチは、おおよそ70%のネットワーク構成でNAT越えを実現します。X25519 Diffie-HellmanとAES-256-GCMでトンネル暗号化を行い、QUIC(RFC 9000)やカスタムUDPプロトコルでTCPのヘッドオブラインブロッキングを避ける構成も、WireGuardやWebRTCと同系統の手法です。

エージェント文脈で新たな要件となるのは、能力ベースのルーティングです。ホスト名ではなく「リアルタイムの為替データを持つピアはどこか」と問い合わせ、応答する仕組みが必要になります。DNSに近いが、サービスレジストリに近い設計が求められます。

Pilot Protocol

Pilot Protocolは、IETFにInternet-Draft(draft-teodor-pilot-protocol-01、2026年4月)として公開されたオーバーレイネットワークです。自律AIエージェントに仮想アドレス、ポート多重化、信頼性のあるストリーム、NAT越え、暗号化トンネルを提供し、A2AやMCPの下位層として位置づけられています。仕様書は「TCP/IPがHTTPの下にあるのと同様に、Pilotがアプリケーション層プロトコルの下にある」と説明しています。

NAT越えは3段階で行います。beaconサーバーによるSTUN的なエンドポイント発見、制限付きコーンNAT向けのホールパンチ調整、対称NAT向けのリレーフォールバックです。直接接続に失敗してもアプリケーション層は同じインターフェースを使える設計になっています。

libp2p

libp2pは、ピア発見・NAT越え・暗号化通信の実績ある基盤ライブラリです。Pilot Protocolのドラフトでも既存プロトコルとの関係として言及されています。自前でtransport層を組む場合の選択肢の一つになります。

収束の見通しと設計判断

HTTPベースのMCPとA2Aは安定版に向かっています。今後12か月は、セキュリティ強化、ステートレスMCPサーバーによる水平スケール、A2Aのフェデレーション改善といった実運用の硬化が中心になる見込みです。一方、transport層はアプリケーション層より18〜24か月遅れており、IETFとW3Cの正式標準は2027〜2028年頃が想定されます(参考)。

実務での指針は層分離です。MCPによるツール接続は低リスクで採用できます。マルチエージェント連携にはA2Aを選び、プロトコル進化は見込んでおきます。transport層は、早期実装を評価するか、カスタム実装を入れるなら将来の置き換えを前提にします。マイクロサービス時代に観測性やサーキットブレーカーを後付けした苦労と同様、アプリケーション意味論(MCP・A2A)とtransportを最初から分けておくコストは小さく、後から分離するコストは大きいです。

エージェント通信の標準化は、ツール呼び出しとタスク調整で大きく前進しました。次の焦点は、NATの壁を越えてエージェント同士を直接つなぐtransport層に移っています。