AIコーディングツールのCursorが、欧州・中東・アフリカ(EMEA)の拠点をロンドンに置き、年末までに地域採用を約200人まで拡大します。SpaceXによる600億ドル規模の取得オプションが話題になるなか、企業向け需要の急増に応える動きです。
この記事では、ロンドン選定の理由、採用計画、欧州企業が求めるデータ所在への対応、GitHub Copilotなど競合との位置づけを整理します。
- Cursorがロンドンに欧州本社を開設し、EMEA採用を約200人に拡大する計画
- EMEAの売上が四半期で3倍に伸び、British AirwaysやNokiaなど大手企業が導入済み
- 規制産業向けにデータを地域内に留めるニーズに応える体制を整える方針
- SpaceXの取得オプションについてはCursor側がコメントを控えている
ロンドンに欧州本社を開設する背景
Cursorは2026年6月9日、EMEA向けの専任チームを設置し、今夏ロンドンに欧州本社を開くと発表しました。親会社のAnysphereは2022年にサンフランシスコで設立されたAIコーディングスタートアップで、自然言語の指示からコードを生成するIDE(統合開発環境)を提供しています。
公式発表によると、EMEAはCursorで最も成長が速い地域で、今年の四半期ごとの売上は3倍に伸びています。年間換算のB2B売上は約26億ドルに達し、企業向け販売も急拡大しているとReutersの報道は伝えています(参考)。
EMEA担当上級副社長のIsmail Elmas氏は「米国からだけではビジネスが回らない。欧州市場には独自の要求があり、現地にいることが重要だ」と述べています。規制の厳しい業界では、プライバシーとコンプライアンスの観点からデータを地域内に留めたいという要望が強まっており、Cursorはその対応を強化する方針です。
採用200人と拠点展開の中身
EMEAの従業員は現在おおよそ70〜80人で、年末までに約200人へ増員する計画です。採用対象はエンジニアリング、営業(go-to-market)、カスタマーサクセス、オペレーションの各領域に及びます。
ロンドンを選んだ理由は、深い技術人材の蓄積と多言語人材へのアクセスです。1つの拠点から複数の欧州市場を支えられる点も重視されています。ロンドンは欧州最大、世界ではサンフランシスコに次ぐ規模のテック人材が集まる都市とされています。
加えてパリ、ミュンヘン、フランクフルト、アムステルダム、ストックホルムにも小規模オフィスを開く予定です。地域別のパートナー体制も整え、導入支援を現地で行う考えです。
導入企業と欧州での使われ方
CursorのEMEA顧客には、British Airways、BP、Deliveroo、Nokia、Sanofiなどが名を連ねます。プラットフォーム全体では5万以上の企業が利用し、Fortune 500の67%が導入していると公式発表に記載されています。1日あたり1億5000万行超のエンタープライズ向けコードがCursor経由で書かれているとも公表されています。
NokiaのChief Technology and AI OfficerであるPallavi Mahajan氏は、同社の2万人超のエンジニアにCursorを導入したことを「生産性の判断ではなく、どのようなエンジニアリング組織にするかという戦略的判断」と位置づけています。複雑なコードベースにAIエージェントを向け、開発速度と運用効率を上げているとのことです。
AccentureのSalesforce Business Group Global CTOであるCameron Cronin氏も、Cursorとの連携を通じて導入支援とアドバイザリーを提供し、品質と統制を損なわずに開発を加速できると述べています。
GitHub Copilotなど競合との違い
AIコーディング市場では、Microsoft傘下のGitHub CopilotやOpenAI、Googleの製品が広く知られています。Cursorは「モデル非依存(model-agnostic)」を掲げ、OpenAIやAnthropic、Googleなど複数のAIモデルから選べる点を差別化にしています。MCP(Model Context Protocol)の制御やシステムレベルのエージェントルール設定など、エンタープライズ向けの管理機能も備えています。
自社モデルのComposerも開発しており、複雑な既存コードベース向けの設計を強みにしています。レガシーシステムの近代化や開発スピードの短縮を狙う企業が、Cursorを選ぶ流れが広がっています。
SpaceXの600億ドル取得オプションとの関係
2026年4月、Elon Musk率いるSpaceXは、年内にCursorの親会社Anysphereを600億ドルで買収するオプションを取得したと発表しました。買収を行使しない場合は、共同事業の対価として100億ドルを支払う構造です。SpaceXはIPO準備のなか、AI開発ツール市場への参入を加速させる狙いがあると報じられています。
今回の欧州拡大発表に際し、Elmas氏はSpaceXのオプションについてコメントを控えました。欧州本社の開設は、取得交渉とは切り離して、地域顧客への対応を前に進める動きと読めます。
欧州ではOpenAIがキングスクロスに大規模オフィスを借り、Anthropicも同エリアで拠点拡大を計画するなど、AI企業のロンドン集中が続いています。Cursorの200人規模の採用は、その流れのなかで最も具体性の高い事業拡大の一つです。
