毎月同じプロンプトを打ち直す負担が、チームのノウハウとして再利用できる形に変わります。
Microsoftは2026年6月25日、Excel向けCopilotの大規模アップデートを発表しました。財務チーム向けに「Skills(スキル)」による再利用可能なワークフロー、金融データコネクタの拡充、編集内容の追跡強化が中心です。CEOのSatya NadellaもXでSkillsの提供を告知しています。
この記事でわかること
- Skillsで自動化できる財務作業の種類と仕組み
- 新たに追加されたデータコネクタ6社の概要
- Plan with CopilotとShow Changesによる変更追跡の仕組み
- 機能の提供状況と今後の展開スケジュール
何が変わったか
今回のアップデートは、Copilot in Excelを「都度プロンプトを書くチャットボット」から「チームの手順を覚えて実行するアシスタント」へ寄せる動きです。Microsoftはこれを「Frontier Finance(最先端の財務)」の時代に向けた強化と位置づけています。
主な変更点は3つです。
- Skills: DCF(ディスカウントキャッシュフロー)モデル構築、決算処理、差異分析など定型作業の手順を定義し、Copilotが繰り返し実行
- 金融データコネクタ: CB Insights、Daloopa、FactSet、Morningstar、PitchBook、S&P Globalの6社を新規追加(5月に追加済みのLSEGとMoody’sに加算)
- 変更追跡の強化: 編集前に計画を確認するPlan with Copilotと、Copilotと人間の編集を区別するShow Changes
背景:財務業務がAIに求める条件
財務の現場では、正しい答えだけでなく「どのセルから導いたか」が問われます。Microsoft公式ブログでは、FP&A(財務企画・分析)、会計、税務、コンプライアンス、トレジャリーなどの部門がCopilot in Excelを実運用で検証してきたと説明しています。
また、Financial Modeling Institute(FMI)の実務ケースをベンチマークに組み込み、多段階のワークフローを正確にこなせるかを評価する枠組みも公開しています。単発の質問応答ではなく、決算や予測更新のような一連の作業をこなすことを前提に設計されています。
Skillsで定型作業をチーム資産にする
Skillsは、Copilotに「この手順で進めて」と教える仕組みです。DCFモデルの構築、決算処理、月次レポートモデルの更新、差異分析など、毎回同じ流れで行う作業に向いています。
使い方は2通りあります。
- Microsoftが用意した財務向けサンプルスキルをそのまま使う
- OneDriveに
SKILL.md(オープン標準のMarkdownファイル)を保存し、独自の手順を定義する
カスタムスキルを作成すると、三表連結モデルやボード向け資料など、チーム固有のフォーマットや計算手順に沿った出力が得られます。Copilotペインからスキルを選択するか、プロンプト内で@スキル名と指定して呼び出します。
2026年第3四半期には、LSEG、Ramp、Rogo、Samaya AI、Velixo、VenaなどのパートナーがMicrosoft Marketplace経由で独自スキルを提供する予定です。
金融データをワークブックに直接取り込む
手作業でのコピー&ペーストを減らすため、Copilot in Excelは外部データソースへ直接接続できます。今回追加された6社のコネクタは次のとおりです。
| プロバイダ | 主な用途 |
|---|---|
| CB Insights | 非公開企業・市場の予測インテリジェンス、M&A候補のスクリーニング |
| Daloopa | SEC提出書類などから取得した監査対応のファンダメンタルズデータ |
| FactSet | 機関投資家向けの金融・オルタナティブデータ(2026年7月に一般提供予定、現在プレビュー) |
| Morningstar | アナリストレポート、格付け、ポートフォリオ分析 |
| PitchBook | プライベート資本市場の企業プロファイル、取引履歴、ファンドデータ |
| S&P Global(Kensho開発) | 構造化されたAPI経由のS&P Globalデータ、決算トランスクリプト分析 |
各コネクタはプロバイダ側の別途ライセンスが必要な場合があります。Work IQと組み合わせることで、社内の予算資料や投資委員会資料などの文脈も踏まえた分析が可能になります。
Plan with Copilotで編集前に計画を確認
AIが財務シートを書き換える際の最大の不安は「何をどこまで変えたか分からない」ことです。Plan with Copilotは、実行前にCopilotが触る予定のセル範囲、数式、前提条件を一覧表示します。確認用の質問も提示されるため、意図しない変更を未然に防げます。
編集後はShow Changesペインで、Copilotによる変更と人間の共同編集者による変更が区別されます。影響を受けたセルへのリンクも残るため、四半期決算前のレビューでも追跡がしやすくなります。
加えて、Personalization(個人設定の一括適用)とworkbook rules(ブック内の命名・数式規則をシートとして記録)により、チームの書式や構造の慣習にCopilotが合わせることもできます。
提供状況と今後の展開
以下の機能は、Microsoft 365 Copilotライセンスを持つユーザー向けに、Excel for Web・Windows・Macで一般提供されています。
- プリビルトスキル、Personalization、workbook rules
- 外部データコネクタ(フェデレーテッドCopilotコネクタ)
- Plan with Copilot、Show ChangesでのCopilot帰属表示
カスタムスキルは2026年6月25日時点でWindows/MacのMicrosoft 365 Insiders向けに提供開始。翌月にはWeb・Windows・Mac全体への一般提供を予定しています。パートナー製スキルは2026年Q3に登場します。地域やライセンス条件によって利用可否が異なる点には注意が必要です。
既存のAgent Modeとの関係
Microsoftは以前、Excel向けにAgent Modeを導入し、複数ステップにわたる作業を計画・実行できるようにしています。今回のSkillsとPlan with Copilotは、その延長線上にあります。Agent Modeが「何をするか」を自律的に進める力を持つのに対し、Skillsは「どう進めるか」をチームが定義する層を担います。
また、財務AIスタートアップFintoolの買収も最近発表されており、Microsoftが財務領域への注力を強めている流れと合致します。
財務チームが得るメリット
Excel版Copilotは、財務チームが毎日繰り返す作業の「手順」と「データ源」を標準化する方向へ進んでいます。Skillsでノウハウをファイル化し、コネクタで信頼できるデータを直接引き、Plan with CopilotとShow Changesで変更を可視化する。この3点が揃うことで、AIを財務の実務に組み込む際の信頼性が一段上がります。Microsoft 365 Copilotを利用中の財務・経営企画チームは、サンプルスキルから試す価値があります。
