新しいチャットを開くたびに、エージェントは何も知らない状態から始まります。OpenHumanは、OS上で動くデスクトップエージェントとして、この「冷えた初回」をSuper Contextで解消します。

この記事では、GitHubスター数3.3万超のオープンソースプロジェクトOpenHumanと、v0.58.0で本格搭載されたSuper Contextの仕組みを解説します。

この記事でわかること

  • OpenHumanがOSレベルで何を目指しているか
  • Super Contextとread-onlyのcontext_scoutの動作
  • perceive→gather→ground→actという処理の流れ
  • 有効化・無効化の方法と注意点

OpenHumanとは

https://github.com/tinyhumansai/openhuman

OpenHumanは、RustコアとReactフロントエンド、Tauri v2デスクトップシェルで構成されたオープンソースのエージェントハーネスです。GNU GPL-3.0ライセンスで公開されており、2026年6月時点でGitHubスター数は3.3万以上です。開発は早期ベータ段階にあり、READMEでも「Early Beta」と明記されています。

ブラウザ内のチャットボットではなく、ネイティブデスクトップアプリとして動作します。GmailやSlack、GitHub、Notionなど100以上のOAuth連携、20分間隔の自動データ取得(auto-fetch)、音声入出力、画面認識など、OS上の活動と結びついた機能を備えています。

記憶の中核はMemory Treeです。接続したデータソースをMarkdownに正規化し、3,000トークン以下のチャンクに分割して、ローカルのSQLite(memory_tree/chunks.db)とObsidian互換のMarkdownボルト(wiki/)に保存します。ベクトル検索だけに頼らず、ソース別・トピック別・日次の3層サマリーツリーで検索できる設計です。

公式ドキュメントは「OpenHumanはAGIではない」と述べています。ただし、個人のデータを継続的に取り込み、バックグラウンドでも思考を続けるアーキテクチャは、個人向けAGIに近い体験を目指していると言えます。

なぜSuper Contextが必要か

多くのAIエージェントは、新しいスレッドの最初のターンでコンテキストを持ちません。モデルが「調べる」ツールを呼び出せば情報は得られますが、1往復のレイテンシとトークンコストが発生し、モデルがツールを選び損ねれば的外れな初回応答になります。

OpenHumanは接続済みのメール、カレンダー、リポジトリ、ドキュメントをMemory Treeに蓄積しています。にもかかわらず、初回メッセージだけはその記憶を使わずに応答してしまうのは、設計上のもったいなさです。Super Contextは、このギャップをハーネス側で埋める機能です。

Super Contextの仕組み

https://tinyhumans.gitbook.io/openhuman/features/super-context

Super Contextは、新しいスレッドの最初のターンで、ユーザーのメッセージをモデルに渡す前に関連文脈を自動収集する機能です。プロンプトで「調べて」と頼む必要はなく、ハーネスが決定的(deterministic)に実行します。

処理は次の4段階に分けて理解できます。

perceive(認識) — ハーネスが新スレッドの初回ターンであることを検知し、super_context_enabledが有効なら処理を開始します。Super Contextはデフォルトでオンです。

gather(収集) — read-onlyのcontext_scoutサブエージェントが起動します。Memory Tree、ワークスペース内のファイル、接続済みインテグレーションを走査し、関連情報を集めます。scoutは読み取り専用のため、新スレッド開始時にメール送信やファイル書き込みなどの副作用は起こしません。

ground(接地) — scoutの出力は[context_bundle] … [/context_bundle]タグで囲まれます。タグ内の内容だけが抽出・検証され、Prepared context (super context)ヘッダー付きでユーザーメッセージの先頭に付加されます。タグが欠落・破損・空の場合、文脈なしで通常通り進みます。壊れた文脈を注入するより、冷えた開始の方が安全という設計判断です。

act(実行) — 文脈が付いたメッセージがオーケストレーターモデルに渡され、初回応答から関連背景を踏まえた回答が返ります。scoutがハーネス内で動くため、同ターンのagent_prepare_contextツールは抑制され、二重収集を防ぎます。

v0.58.0での正式リリース

Super Contextは、2026年6月26日に公開されたOpenHuman v0.58.0のハイライト機能です。v0.57.53から124のプルリクエストがマージされ、メモリ、音声、エージェント、信頼性の各領域が更新されています。

X(旧Twitter)では、開発者コミュニティから「OSレベルで動くパーソナルAGI」「read-only context scoutがプロンプトなしで文脈を集める」といった評価が寄せられ、Super Contextの実装が話題になっています。

設定と使い方

Super Contextのオン・オフは次の方法で切り替えられます。

  • チャット入力欄下の「Super Context」トグル(新スレッド開始時に読み取られる)
  • 設定ファイルのcontext.super_context_enabled(デフォルトtrue
  • 環境変数OPENHUMAN_SUPER_CONTEXT
  • RPCのset_super_context_enabled(value)

トグルはスレッド構築時にフラグを読むため、既存スレッドではなく新しく始めたスレッドに反映されます。

インストールはmacOS(Homebrew)、Linux(apt)、Windows(MSI)向けのネイティブパッケージが推奨されています。ソースから動かす場合は、Node.js 24+、pnpm 10.10.0、Rust 1.93.0が必要です。

他機能との関係

Super Contextだけでは記憶は生まれません。scoutが読むMemory Treeを維持するauto-fetch(20分間隔)と、TokenJuiceによるツール出力圧縮(最大80%のトークン削減を謳う)がセットで機能します。

また、Super Contextが「会話開始時の文脈注入」であるのに対し、Subconscious Loopは「ユーザーが入力を止めた後もバックグラウンドで思考を続ける」側面を担います。前者が初手の精度、後者が継続的な能動性を補完する関係です。

OpenClawやClaude Coworkとの違い

READMEの比較表によると、OpenClawやHermes Agentはターミナル中心でプラグイン依存のコンテキスト取得が多く、Claude Coworkはチャットスコープの記憶に留まります。OpenHumanはUIファーストのデスクトップ体験、100以上のOAuth連携、20分間隔のauto-fetch、Memory Tree+Obsidianボルトを一体で提供します。

モデルルーティング(推論・高速・ビジョンの自動切替)や、Ollama経由のローカルAIも選べます。ただし、LLM呼び出しやOAuthプロキシはOpenHuman管理バックエンド経由がデフォルトであり、完全オフライン運用ではありません。

押さえておきたい点

OpenHumanは個人データをローカルに保持する設計ですが、チャットでその内容をモデルに送る場合や、統合OAuth・Web検索プロキシ利用時はバックエンドを経由します。Privacy & Securityのドキュメントで境界を確認してください。

AGIという言葉に期待を寄せすぎず、早期ベータのエージェントハーネスとして評価するのが現実的です。それでも、read-only scoutによる決定的な初回文脈注入は、エージェント設計の実践的な一手として、他プロジェクトにも参考になるパターンです。