コーディングエージェントが、自分の本番実行ログを自分で調べられる時代が来ました。
Vercelは2026年7月3日、Agent RunsをVercel MCPとVercel CLIから操作できる機能を公開しました。eve(イーブ)で構築したエージェントをVercelにデプロイすると、トレースは自動で取り込まれ、CursorやClaude Codeなどのコーディングエージェントから直接参照できます。
この記事でわかること
- Agent Runsとは何か、なぜ今回のアップデートが重要か
- 追加されたMCPツール4種とCLIコマンドの使い分け
- 導入手順と、ダッシュボードとの役割分担
Agent Runsが解決する課題
AIエージェントを本番運用すると、次のような壁にぶつかります。
- 関数ログにエラーは残るが、どのターンで何を判断したか追えない
- ダッシュボードを開いて手作業で調査するため、開発エージェントと運用画面が分断される
- トークン消費やツール呼び出しの詳細を、エージェント自身が参照できない
Vercelは6月26日にダッシュボード上のAgent Runsビューを先行公開していました。今回の更新で、その観測データをMCP(Model Context Protocol)とCLIの両経路から引き出せるようになりました。MCPはAIツールが外部サービスと安全に連携するための標準プロトコルです。
何が変わったか
eveはVercelが公開するオープンソースのエージェントフレームワークです。agent/ディレクトリにファイルを置くだけで、耐久性のあるバックエンドエージェントを組み立てられます。
eveエージェントをVercelへデプロイすると、トレースは追加設定なしで自動取り込みされ、Agent Runsとして保存されます。instrumentationファイルがなくてもダッシュボードに表示されるのが標準動作です。
今回追加されたのは次の2系統です。
Vercel MCPツール(4種)
list_agent_run_projects:チーム内でAgent Runsの活動があるプロジェクトを検索list_agent_runs:プロジェクトの直近ランを一覧(ステータス、モデル、トリガー、トークン使用量つき)get_agent_run:メタデータ、ライフサイクルイベント、サブエージェント情報を取得get_agent_run_trace:ターン、メッセージ、推論、ツール呼び出しの入出力まで含むフルトレースを取得
Vercel CLIコマンド(4種)
https://vercel.com/changelog/agent-runs-vercel-mcp-cli
vercel agent-runs projectsvercel agent-runs listvercel agent-runs inspect <run-id>vercel agent-runs trace <run-id>
CLIの全サブコマンドは--jsonで機械可読な出力に対応します。パイプで渡すとトレースはMarkdown形式で描画されるため、MCPを使えない環境でもコーディングエージェントがCLI経由でデバッグできます。
ダッシュボードとの違い
Agent RunsのデータソースはダッシュボードとMCP・CLIで共通です。違いは「誰が」「どのUIで」見るかだけです。
ダッシュボードでは、DeveloperモードとBusinessモードの2種類の表示があります。Developerモードはツール名や入出力JSON、ステップごとのトークン数をそのまま見せます。Businessモードはツール名を平易な表現に置き換え、非エンジニア向けの要約を生成します。
MCPとCLIは、この同じデータをプログラムやエージェントから引き出す窓口です。「直近の本番Agent Runsを見せて」「このランのツール呼び出しを確認して」といった指示を、CursorやClaude Code、Codex CLIなどに任せられます。Vercel MCPはCursor、VS Code、Claude Code、Codex CLI、Gemini CLIなど主要なコーディングツールに対応しています。
データ保持期間はプランにより異なります。Hobbyは12時間、Proは1日、Enterpriseは3日が標準です。ProとEnterpriseはObservability Plusで最大30日まで延長できます。外部のOpenTelemetryバックエンドへ送りたい場合は、従来どおりagent/instrumentation.tsでBraintrustやDatadogなどへエクスポートできます。
使い方
MCPの導入
https://vercel.com/docs/agent-resources/vercel-mcp
ターミナルで次を実行します。
npx add-mcp https://mcp.vercel.com
add-mcpはインストール済みのAIクライアントを自動検出し、Vercel MCPを設定します。OAuthでVercelアカウントと連携するため、初回はブラウザでの認証が必要です。
CLIの更新
npm i -g vercel@latest
更新後、vercel agent-runs --helpでサブコマンドを確認できます。listでは環境(production / preview)、時間範囲、タイトル検索、ページネーションで絞り込めます。
実践的な使い方の例
Vercelの公式changelogでは、次のようなプロンプト例が示されています。
- 「プロジェクトの直近の本番Agent Runsを見せて」
- 「最近のランに基づいてスキルを更新して」
本番でエージェントが想定外のツールを呼んだとき、ダッシュボードを開かずにエージェント自身へトレース解析を任せる、という運用が現実的になります。
注意点
Agent Runsはeveフレームワーク向けの観測レイヤーです。Vercel AI SDKだけで組んだエージェントや、eve以外のフレームワークでは対象外です。
eveプロジェクトのAgent Runsタブはチーム単位で段階的に有効化される場合があります。ダッシュボードに表示されない場合は、Vercelのデプロイガイドで有効化条件を確認してください。
MCPはプロジェクト操作権限をAIに渡す仕組みです。Vercelのドキュメントでは、ツール実行に人間の確認を有効にし、他のMCPサーバーとの併用時はプロンプトインジェクションに注意するよう推奨されています。
既存の観測手段との位置づけ
6月26日のAgent Runsダッシュボード公開以降、Vercelはエージェント観測を3層で揃えました。
- ダッシュボード:人間がブラウザでセッションを俯瞰・監査
- MCP / CLI:コーディングエージェントやスクリプトが同じデータを自律参照
- OpenTelemetryエクスポート:既存の監視基盤へスパンを送信
今回の更新は2番目の層が埋まったことで、エージェント開発と運用のループが短くなります。本番トレースをエージェントが読み、修正やスキル改善に反映する、という自己改善サイクルの土台として位置づけられます。