AIエージェントを「つながる」ものにする仕組みが、2026年に入ってから急速に普及している。
OpenAIの共同創業者でAIエンジニアのAndrej Karpathyは2026年4月、Claude Skills・MCPサーバー・AIエージェントについて「ハイプは過ぎた。これがAIを作る新しいベースラインだ」と明言した。エージェント開発のスタックに何が起きているのかを整理する。
この記事でわかること:
- MCP(Model Context Protocol)とは何で、なぜ必要なのか
- Claude Skillsが解決するAIエージェントの行動問題
- なぜ今この2つが「開発標準」と呼ばれているのか
- 実際に使い始める方法
AIエージェントが抱えていた根本的な問題
LLM(大規模言語モデル)は推論と文章生成において急速に進化した。しかし外部のツールやデータと連携する部分は長い間、場当たり的な実装が続いていた。
たとえばSlackのデータを読むにはSlack専用のコネクタ、GitHubの情報を取るにはGitHub専用の実装、データベースへのアクセスにはまた別のコードが必要だった。AIモデルが賢くなっても、データとの接続部分がバラバラのままでは、実用的なエージェントを作るたびに同じ実装を繰り返すことになる。
もう一つの課題は「行動の一貫性」だ。プロジェクトをまたいでAIに同じ開発ルールを守らせるには、毎回プロンプトで指示するしかなかった。エージェントは「なんとなく動く」のに、「チームのルール通りに動く」のが難しかった。
MCPとは何か
https://www.anthropic.com/news/model-context-protocol
MCPはAnthropicが2024年11月に公開したオープン標準プロトコルで、AIアシスタントと外部データソースをつなぐ統一インターフェースを提供する。USBポートのようなものだと考えるとわかりやすい。デバイスの種類に関わらずUSBポートに差せば使えるように、MCPに対応したAIはMCPサーバーに接続するだけでその機能を利用できる。
アーキテクチャはシンプルな3層構造だ。MCPホスト(AIアプリやエージェント)がMCPクライアントを通じてMCPサーバーに接続する。サーバー側は自分が提供できるツール・リソース・プロンプトテンプレートを宣言し、クライアントはそれを読んで動的に使う。AnthropicはGoogle Drive・Slack・GitHub・PostgreSQLなど主要サービス向けのMCPサーバーをオープンソースで公開している。
2026年1月、AnthropicはMCPをLinux Foundation傘下の「Agentic AI Foundation」へ寄贈し、業界標準のガバナンス体制に移行した。2026年3月には累計インストール数が9,700万件を超え、Claude・ChatGPT・GitHub Copilot・Cursor・VS CodeなどすべてのメジャーAIプラットフォームがMCPに対応している。
SerpApiの技術ブログによると、MCPは「データサイロを解消し、AIエージェントが文脈に沿った正確な応答を返せるようにする」設計で、ツール呼び出しのたびにカスタムコードを書く必要をなくす(参考)。
Claude Skillsとは何か
Claude Skillsは、AIコーディングエージェントの「ふるまい方」を定義する再利用可能な指示パッケージだ。Claude Code(AnthropicのCLI型AIコーディングツール)向けに設計されており、CLAUDE.mdというMarkdownファイルを通じてエージェントにポリシーを伝える。
Karpathyが観察したAIコーディングエージェントの失敗パターンは主に3つある。1つ目は「暗黙の仮定」—曖昧な指示を勝手に解釈して進める。2つ目は「過剰設計」—不要な抽象化や巨大な変更差分を作る。3つ目は「スコープ外の編集」—指示と関係ないコードを触る。
これらへの対策をCLAUDE.mdに書いてプロジェクトに置くと、エージェントはプロジェクト横断的にそのルールに従う。開発者forrestchangがKarpathyの観察をもとにCLAUDE.mdをClaude Codeプラグインとしてパッケージ化したリポジトリは、公開後数週間でGitHub上で3万以上のスターを集めた(参考)。
Skillsは4原則で構成される。コーディング前の明示的な思考(Think Before Coding)、最小限の実装(Simplicity First)、指示範囲のみへの変更(Surgical Changes)、検証可能なゴール設定(Goal-Driven Execution)だ。プロンプトで毎回指示するのではなく、リポジトリに設定ファイルとして置かれるため、チーム全員のエージェントに同じ基準が適用される。
なぜこの2つが「新しいベースライン」なのか
MCPがエージェントの「外への接続」を標準化し、Claude Skillsがエージェントの「内なるふるまい」を標準化する。この2つがそろうことで、AIエージェントはようやく「スポット的に賢い」から「チームで継続的に使える」存在になる。
MCP以前は外部連携のたびにカスタム実装が必要だった。Claude Skills以前はプロジェクトをまたぐ行動ルールを維持する手段がなかった。2026年に入り、この両方がエコシステム全体で支持されていることが「ベースライン」という表現の背景にある。
OpenAIがMCPをChatGPTとAgents SDKへ統合し、MicrosoftがCopilot Studioで対応するなど、業界全体の採用が進んだことで、MCPはいまや「選択肢の一つ」ではなく「出発点」になっている。Karpathyの発言が注目されたのも、特定のツールの宣伝ではなく、この技術トレンドの変曲点を端的に示す観察だったためだ。
実際に使い始めるには
MCPはAnthropicの公式ドキュメントにクイックスタートガイドがある。Claude Desktop Appを使えばGUI上で既製のMCPサーバーを追加できる。カスタムサーバーを開発する場合はPython・TypeScript向けのSDKが提供されており、最小限の実装は数十行で書ける。
Claude SkillsはプロジェクトルートにCLAUDE.mdを置くだけで動作する。Claude Codeをインストールしている環境では、コマンド/plugin install andrej-karpathy-skills@karpathy-skillsでKarpathyインスパイアドのSkillsをプロジェクトに追加できる。
AIエージェント開発のスタックが固まってきた
MCPはAIと外部世界をつなぐプロトコルを統一した。Claude Skillsはエージェントが従う行動ルールをファイルとして持ち運べるようにした。この2つは個別の新機能ではなく、AIエージェント開発の基盤そのものを変えている。
Karpathyが「新しいベースライン」と呼んだのは、これらを採用しない開発が今や例外になりつつあることを指している。モデルの性能向上と並行して、エージェントをどうつなぎ、どう動かすかの標準が固まってきた。