クライアントとの商談前に、担当バンカーがポートフォリオ分析・市場動向の整理・シナリオ試算に数時間を費やす。この作業をAIエージェントが肩代わりする仕組みが、大手銀行で本格始動しています。

Citiは2026年4月30日、社内AIエージェント基盤「Arc」を発表しました。調査・要約・準備・実行といった定型業務を複数のエージェントが担い、バンカーはより高度な判断と顧客対応に集中できるようになります。

この記事でわかること

  • Arcが解決する銀行業務の課題
  • エージェントのガバナンスと監視の仕組み
  • 段階的な展開計画と対象範囲
  • BNYやMorgan Stanleyとの比較
  • バンカーの役割がどう変わるか

Arcとは

https://www.citigroup.com/global/news/perspectives/2026/introducing-ai-agents-next-phase-citi-artificial-intelligence-journey

CitiのCTO David GriffithsはArcを「AIエージェントの集中管理OS」と位置づけています。単体ツールではなく、社内のあらゆるビジネスライン・地域・部門にエージェントをデプロイするためのインフラ基盤です。

従来のCiti AIツールは個別のチャット支援や文書処理が中心でした。Arcはそれらを一元化し、複数のエージェントが連携してひとつの業務フローを完結させる設計になっています。

どの課題を解決するか

Citiが示す具体例は、ウェルス部門のバンカーです。顧客との面談前に、ポートフォリオデータの収集・市場トレンドの分析・シナリオのモデリングに数時間を費やすのが現状です。

Arcでは、エージェントがこの作業を事前に自動で完了させ、必要なタイミングで情報を届けます。Citiはバンカーの役割が「コーディネーターからアーキテクトと顧問へ」と変わると表現しています。自動化の対象は準備作業にとどまらず、調査・要約・実行まで幅広く含まれます。

ガバナンスと監視の仕組み

金融機関特有の規制対応として、Arcではエージェントの動作を監視・監査できる仕組みが組み込まれています。「何が・どのように行われ・どんな価値を生んだか」をすべて追跡できます。

行員と管理者はエージェントの挙動をリアルタイムで確認でき、必要に応じてタスクを停止できます。エージェントが意図しない動作をとった際に人間が介入できる設計は、銀行の内部統制基準への対応でもあります。

展開計画

現時点では、Arcへのアクセスは開発者に限定されています。特定の内部ユースケースに絞ったエージェントを構築する段階から始め、その後全行員へ段階的に拡大する計画です。

拡大後は、エージェントが日常業務のワークフローに組み込まれた形で提供されます。ツールを個別に起動するのではなく、既存の業務フロー上でエージェントが自動的に動く設計を目指しています。

既存のAI活用基盤

Arcは白紙から始まるプロジェクトではありません。Citiは過去2年間で180,000名の行員にAIツールのアクセスを付与し、そのうち80%以上が定期的に利用しています。大半の行員がプロンプト研修も修了済みです。

この基盤の上にArcを構築することで、ツール普及フェーズからエージェント活用フェーズへ移行するという段階的な戦略です。2026年3月には元Google幹部のBrian Saluzzoを新CIOとして迎え、AIのスケール推進を強化しています。

他行の動向

エージェント基盤の整備は、Citi単独の動きではありません。

BNYは「Eliza」プラットフォームで約13体のエージェントを稼働させています。流動性・担保・決済などを管理するプロダクトエージェントと、顧客情報を管理するクライアントエージェントが協調して最適な提案を生成する仕組みです。Morgan Stanleyは2023年からOpenAIと連携した社内AIアシスタントの利用率が約98%に達しており、ウェルス部門でのルーティン業務自動化を進めています。

Accentureの「Top Banking Trends for 2026」によると、銀行経営者の約6割が3年以内にAIエージェントがリスク管理・コンプライアンス・不正検知業務へ全面的に組み込まれると予測しています(参考)。KYC・与信評価・ローン処理への広範な導入を見込む層も56%に上ります。

Arcが示す方向性

Arcの最大の特徴は「規模」と「ガバナンスの両立」にあります。180,000名規模の組織に対してエージェントを一元管理しながら展開できる基盤は、金融機関の規制要件に対応した設計が前提です。

Citiは「世界で最もAI活用が進んだ金融機関」を目標として掲げています。BNYやMorgan Stanleyと同様に、エージェントの活用が銀行の差別化要因になる段階に入りました。Arc自体は内部インフラですが、エージェントが日常業務に組み込まれていく過程は、顧客サービスの品質にも直結します。