「自分が欲しいアプリが市場にない」という状況は以前なら開発会社への依頼か諦めかの二択だった。Claude Codeはその選択肢に「自分で作る」を加えつつある。

この記事でわかること:

  • Jason Aten氏がContextlyを作った背景と解決した課題
  • Claude Codeを使ったMacアプリ開発の実際の流れ
  • 開発経験のある人でも変わるClaude Codeの体験
  • App Storeに出せるレベルのアプリを作るための実践ポイント

Apple Notesの「書けるが引き出せない」問題

Inc.comのテクノロジーコラムニストJason Aten氏は、会議のメモ・ポッドキャストのアイデア・メールの下書きなど、仕事に必要な情報のほぼすべてをノートアプリで管理していた。Apple Notesは情報を書き込む場所としては優秀だ。問題は「書いた後」にある。

Apple Notesにはメモをカレンダーの予定と紐づける機能がない。アクションアイテムを抜き出す仕組みもない。後から必要な情報を取り出すには自分で読み返すしかなく、書いた情報が有効活用されないまま溜まっていく。

既存のノートアプリを渡り歩いても、このギャップを埋めるものは見つからなかった。ならば自分で作る——これがAten氏の結論だった。

Claude Codeで作ったContextly

2026年5月、Aten氏はClaude Codeを使って「Contextly」をMac App Storeで公開した。無料で配布されているこのアプリは、ノートをカレンダーの予定と連携させ、アクションアイテムを自動で浮き上がらせることに特化している。

Apple Notesと実際の業務の間に生じていた「情報を書いた後に活用できない」というギャップを解消するために設計されたアプリで、Aten氏自身が「最大の生産性問題」と表現していた課題を正面から解決している。

Claude Codeは自然言語で機能の要件を伝えると、コードの生成・ビルド・テスト・デバッグをほぼ自律的に処理するAIコーディングエージェントだ。テクノロジーコラムニストという立場のAten氏が、自分が欲しいアプリを自分でApp Storeに出せたこと自体が、Claude Codeが変えた開発体験を示す事例になっている。

開発経験者にも変化をもたらす

同じように「Claude Codeでアプリを作ってApp Storeに公開した」事例は他にもある。

ソフトウェアエンジニアのIndragie Karunaratne氏は2025年7月、MCP(Model Context Protocol)サーバーをデバッグするネイティブmacOSアプリ「Context」をGitHubで公開した。2008年からMac向けのソフトウェア開発を続けてきた同氏のプロジェクトで、約20,000行のコードのうちClaude Codeが書いた量は19,000行以上に及ぶ(参考)。

経験豊富なエンジニアが感じた最大の変化は「サイドプロジェクトをまた出荷できるようになった」という点だ。6年間出荷できずにいた理由は、実装の最後の20%が時間と手間を食い、本業との両立が難しかったためだ。Claude Codeはその最後の20%のコストを大きく下げた。

ソフトウェアエンジニアのFranco Torriani氏も同様の経験を語っている。2025年12月から2026年3月にかけて、週末だけを使ってiOS向け読書管理アプリ「Read It Now」を開発した。実質の作業日数は約15日。以前なら最低2ヶ月はかかっていたと見積もっており、Claude Codeによる生産性向上を実感している(参考)。

アプリを仕上げるための実践ポイント

これらの事例からは、Claude Codeでアプリ開発を進める上での共通した実践ポイントが見えてくる。

CLAUDE.mdでコードの方針を固める

プロジェクトルートに CLAUDE.md ファイルを置くと、Claude Codeは起動のたびに読み込む。「SwiftUIを優先する」「最新のmacOS APIを使う」といった開発方針をここに書いておくと、毎回同じ指示を入力する手間が省ける。コードの一貫性も保ちやすくなる。

仕様を先に書いてから実装させる

「1文のプロンプトで完全なアプリが完成する」という情報もあるが、実際には要件をまとめた仕様書が開発の質を左右する。機能の要件を詳しく書いてから実装に入ると、Claude Codeが誤った方向に進む確率が下がり、やり直しが減る。Karunaratne氏は「代理店に仕事を頼んでいると思えば、詳細な指示がなければいい仕事は期待できない」と表現している。

「ultrathink」で計画を先に立てさせる

タスクを渡すときに ultrathink というフレーズを含めると、Claude Codeは拡張思考モードで計画を立てながら処理する。複雑な機能ほど計画段階で問題を先取りしやすくなり、実装の品質が上がる。計画の内容を確認してから実装に入るよう指示することで、方向のズレを防げる。

ビルドとテストのループを自動化する

Claude Codeは書いたコードを自分でコンパイルし、エラーがあれば修正するループを自律的に回す。iOSやmacOSアプリ開発では XcodeBuildMCP のような補助ツールを組み合わせると、このループが安定して動くようになる。テストを事前に書いておくと、Claude Codeが自律的に修正を進められる範囲も広がる。

ツールの進化と個人開発の変化

Torriani氏は3ヶ月の開発期間を通じて、Claude Codeが目に見えて速く進化したことにも触れている。開発初期はSpec Kitなどの外部フレームワークを試したが、最終的にはClaude Codeの標準機能だけで要件定義・タスク管理・実装まで対応できるようになっていたという。セットアップをシンプルに保つことが結果的に最善だったと結論づけている。

Karunaratne氏は「今が開発ツールとして最も出来が悪い時点だ」と述べている。現在のVS CodeやJetBrainsのIDEは20年前とほとんど見た目が変わっておらず、AIエージェントが主役の開発環境はこれらとは根本的に異なる形になると予想する。エージェントに文脈を与え、フィードバックループを設定することに特化したUIが登場すると見ている。

Contextlyのような事例は、欲しいツールが市場にないとき、自分でそれを作って配布できる可能性が現実的になったことを示している。アプリを数分で完成させることはできないが、以前は数ヶ月かかっていた作業が数週間・数日に縮まっているのは確かだ。