増収で過去最高売上を記録した四半期に、全社員の20%を解雇する——AIが本格的に企業組織を変える局面に入った。

2026年5月8日、Cloudflareは全社員の約20%にあたる1,100人の人員削減を発表した。16年の社歴で初の大規模レイオフとなる。CEO Matthew Princeは「コスト削減ではない」と明言し、AIを使いこなせる少数精鋭に組織を再構成する判断だと説明した。

この記事でわかること:

  • Cloudflareが増収のタイミングで1,100人を削減した理由
  • AIが社内にどう浸透し、組織変革を引き起こしたか
  • 「AIでは代替されない人材」に関するCEOの見解
  • Meta・Microsoft・Amazonと共通するテック業界の構造変化

過去最高売上と最大規模の解雇が同時に起きた

Cloudflareは2026年第1四半期に6億3,980万ドル(約940億円)の売上を記録した。前年同期比34%増で、同社史上最高の四半期売上だ。受注残(RPO)も前年比34%増の25億ドル超と好調な指標が並んでいた。

その決算発表の場で、Matthew Princeは1,100人の解雇を発表した。「今回の決断は業績が悪いからでも、個人のパフォーマンス評価でもない。エージェントAI時代において、世界トップクラスの高成長企業がどう価値を生み出すかを再定義するための行動だ」とPrinceとMichelle Zatlyn共同創業者はブログで述べた。

削減対象は営業目標を持つセールス担当を除く全チーム・全地域。解雇前の社員数は約5,500人だった。

転換点は2025年11月

PrinceはAIの社内活用に当初は慎重だったと認めている。転換点になったのは2025年11月だ。「その時点から、チーム全体で生産性の急上昇が見え始めた。2倍、10倍、中には100倍生産的になったメンバーもいた。手動のドライバーから電動ドライバーに変わったようなものだ」と彼は決算説明会で話した。

この変化は数値にも表れている。Cloudflareの社内AI利用量は直近3か月で600%以上増加した。

コーディングから人事・経理まで AIが全社に浸透

具体的な活用領域として、Princeはエンジニアリングチームの事例を挙げた。R&Dチームのほぼ全員が、Cloudflare自身が開発したWorkersプラットフォームをコーディングに活用している。WorkersはコードをCloudflareのグローバルネットワーク上で直接動かせる開発環境で、バイブコーディング機能を含む。さらに、Workersでビルドされて本番投入されるコードの100%を「自律型AIエージェント」がレビューしている。

エンジニアに限らず、HR・経理・マーケティングなど全部門で社員が「毎日何千ものAIエージェントセッションを活用して仕事をこなしている」という。

生産性が上がった社員の周辺にいたサポート役の人員が不要になった、というのがPrinceの説明だ。「そうした補助的な役割は、これからの企業を前進させるポジションではない」と彼は話した。

「コスト削減ではない」は本当か

Cloudflareは増収でありながらも当四半期に6,200万ドルの最終損失を計上した(前年同期は5,320万ドルの損失)。増収基調にあっても赤字が拡大するという構造は続いており、「コスト削減ではない」という主張に懐疑的な見方もある。アナリストが「好決算なのになぜここまで大規模な削減が必要なのか」と問うと、Princeは「体が引き締まっていても、さらに引き締めることはできる」と答えた。

「増収とリストラの同時発表」パターンはMetaやMicrosoft、Amazonでも繰り返されており、AI活用を大義名分にした費用効率化なのか、それとも真の構造転換なのかは業界全体の議論になっている(参考)。

AIを使いこなす人材は採用を続ける

Princeは採用自体をやめるわけではないと強調した。「AIツールを積極的に活用する人材は、これまで見てきた中で圧倒的に生産性が高い。2027年には2026年のどの時点より多くの社員がいると思う」と語った。

削減の対象となるのは「AIを使いこなす人材の周辺で補助的な役割を担っていた人員」であり、AI活用を推進できる人材の採用は今後も続けていく方針だ。

AI活用企業の組織像が変わりつつある

今回のCloudflareの判断が示すのは、AI導入が「生産性を上げる補助ツール」の段階から「組織構造そのものを変える力」へと移行しつつあるという現実だ。AIを使いこなす少数の社員が、かつての数倍の仕事量をこなせるようになったとき、人員規模の判断基準が変わる。

売上成長と雇用削減が両立する企業モデルが標準になるのか、あるいはAI活用で生まれた余裕が新たな雇用に回るのか——Cloudflareのケースは、テック業界が今後数年で向き合い続ける問いを先取りしている。