オープンAIモデルをオンプレ環境に展開するまで、これまで数週間かかっていた作業が数分に短縮される。Dell TechnologiesとHugging Faceが共同運営する「Dell Enterprise Hub」は、企業がAIをクラウドに頼らず自社インフラで動かすための実践的な基盤だ。
この記事でわかること
- Dell Enterprise Hub の概要と解決する課題
- 利用可能なモデルの種類(Llama 4、DeepSeek R1、Kimi K2.5 など20種超)
- デプロイの流れと対応ハードウェア
- 2025〜2026年の主な機能アップデート
オープンモデルのオンプレ運用はなぜ難しいか
LLMをクラウドではなく自社環境で動かしたい理由は明確だ。顧客データや機密情報をクラウドに送らずに済み、セキュリティ・コンプライアンス要件を満たしやすくなる。また、モデルの重みを自社で保持することで、ベンダーのサービス変更や障害に左右されにくい。
問題はその難しさにあった。LLMのオンプレ展開には、コンテナ設定・モデルの並列化・量子化・メモリ不足への対応など、専門的なエンジニアリングが必要で、試行錯誤だけで数週間が消えることも珍しくなかった。
Dell Enterprise Hub(以下、DEH)はこの壁を取り除くことを目的に設計されている。Dellのサーバーハードウェアとの組み合わせをあらかじめ検証済みのDockerコンテナを提供し、デプロイ作業を数分に圧縮する。Hugging Faceとの深いエンジニアリング連携の成果として、2024年5月に公開された。
20種超のモデルカタログ
DEHのモデルカタログには、2026年4月時点でオープンモデルが20種以上揃っている。
Dell CEOのMichael Dell氏が言及したように、Kimi K2.5、Mistral、Cohere、Arcee AI Trinity Large、Google Gemma、Meta Llama(Llama 4 Maverick含む)、Qwen、Nvidia Nemotron、Grok OSS、DeepSeek R1、Microsoft Phi など、主要なオープンモデルをほぼ網羅している。
更新速度も速い。Meta が Llama 4 Maverick を公開してから1時間以内にDEH対応コンテナが提供されたケースがあり、最新モデルへのアクセスが遅れにくい体制が整っている。
モデル一覧はライセンス種別やモデルサイズで絞り込めるため、用途に合ったものを選びやすい。
対応ハードウェアとデプロイ手順
DEHが動作確認済みのDellプラットフォームは3系統ある。NVIDIA H100・H200 搭載の Dell PowerEdge サーバー(XE9680など)、AMD MI300X 搭載の Dell PowerEdge サーバー、Intel Gaudi 3 搭載サーバーだ。
デプロイの流れはシンプルだ。モデルカタログからモデルを選択し、使用するDellプラットフォームとGPU数を指定する。するとハードウェア構成に最適化されたDockerコマンドが自動生成される。あとはそのコマンドをDell環境のターミナルで実行するだけでモデルがAPIとして起動する。
起動後のエンドポイントはOpenAI互換のMessages APIに対応しているため、OpenAI向けに書いたコードをそのままオンプレ環境に移行できる。
アプリケーションカタログの追加
2025年のDell Tech Worldで発表された大型アップデートで、モデルのデプロイに加えて「AIアプリケーション」のカタログが追加された。
OpenWebUI は、MCPを通じて社内データや外部サービスと連携できるオンプレチャットインターフェイスだ。ベクターデータベースやストレージを組み合わせたRAG構成にも対応し、エージェント体験を社内で完結させられる。
AnythingLLM は、複数のMCPサーバーへの接続、画像・ドキュメント処理、ロールベースのアクセス制御をサポートするアシスタントツールだ。組織内の権限管理を細かく設定できる点が大きい。
どちらもKubernetesのHelmチャートでデプロイでき、MCPサーバーが登録済みの状態で立ち上がる設計になっている。
Dell AI PCへの対応
サーバー以外に、Dell AI PCでのオンデバイス推論にも対応している。Intel または Qualcomm NPU 搭載のAI PCで、Whisperによる音声文字起こし、Phi・Qwen 2.5 によるチャットアシスタント、画像アップスケーリング、埋め込み生成を実行できる。
デプロイには Dell Pro AI Studio を使い、Microsoft Intune などのPC管理ツールとの統合も可能だ。IT部門がPC全台に一括展開するユースケースを想定している。
CLIとPython SDK
ターミナルやコードから直接DEHを操作したい場合は、オープンソースライブラリ dell-ai を使う。
pip install dell-ai
CLI経由でモデル一覧の確認、ハードウェアごとのデプロイコマンドの生成、ソフトウェア・ハードウェアの互換性チェックが行える。Python SDKを使えばスクリプトからの自動化にも対応する。
セキュリティ機能
DEHはHugging Faceのエンタープライズ向けセキュリティ機能を継承している。SSO(シングルサインオン)、細かいアクセス制御、監査ログ、マルウェアスキャンがあらかじめ組み込まれており、規制の厳しい業種でも導入しやすい構成だ。
2026年の仕様変更
2026年2月以降、DEHが提供するコンテナにモデルの重みが含まれなくなった。コンテナサイズの削減と、モデルと実行環境のライフサイクルを分けることが目的だ。重みは実行時にHugging Face HubからダウンロードするためHFトークンと MODEL_ID 環境変数の指定が必要になる。
自社でファインチューニングしたモデルをDEHのコンテナ上で動かす「Bring Your Own Model」機能は引き続き利用できる。ローカルパスを指定するだけでカスタムモデルをOpenAI互換エンドポイントとして公開できる。
利用開始方法
DEHはHugging Faceアカウントがあれば無償でアクセスできる。モデルカタログの閲覧やデプロイコマンドの生成まで試せる。Meta LlamaなどアクセスにHugging Faceの許可申請が必要なモデルも、DEH上で同じアカウント権限が引き継がれるため別途申請は不要だ。
クラウドのAIサービスとの最大の違いは、データが一切外部に出ないことだ。AIを自社インフラで完結させたい企業にとって、現時点でもっとも整備されたオープンソースベースの選択肢の一つといえる。