発表なしに、ドキュメントだけが更新された。
Anthropicは2026年4月22〜23日、Coworkデスクトップアプリが自社API以外のインフラでも動作することを公式ヘルプで明記した。Amazon Bedrock・Google Cloud Vertex AI・Azure AI Foundry、そして「/v1/messagesエンドポイントを持つ任意のLLMゲートウェイ」が接続先として列挙されている。プレスリリースも発表イベントもなかった。
この記事でわかること
- 第三者プラットフォームで動くCoworkの具体的な接続先
- プロンプトがAnthropicを通らない設計の仕組み
- LLMゲートウェイ経由でGPT-5.5・Geminiを動かせる理由
- EnterpriseプランとのA機能差
- Anthropicがクライアント層に賭ける戦略的な背景
何が変わったか
Coworkはもともと、AnthropicのAPIを直接使うデスクトップアプリとして動作していた。今回の変更で、推論の経路を自社のクラウドプロバイダーに向けたまま、Coworkと同じUI・MCP接続・ファイルツールを使えるようになった。
対応する接続先は4種類。Amazon Bedrock(VPCインターフェースエンドポイント経由も可)、Google Cloud Vertex AI(プライベートサービスコネクト対応)、Azure AI Foundry(リソースキーを使用)、そして任意のLLMゲートウェイだ。
LLMゲートウェイの条件は2つだけ——/v1/messagesエンドポイントを公開していること、anthropic-betaとanthropic-versionヘッダーを転送できること。この条件を満たすゲートウェイ(LiteLLMなど)を通せば、OpenAIのGPT-5.5、Google Gemini、DeepSeek V4もCoworkから呼び出せる。
プロンプトがAnthropicを通らない
アーキテクチャの根幹は「推論トラフィックの迂回」だ。
Coworkアプリはユーザーのマシン上で動作する。エージェントのループ、ファイルツール、ローカルMCPサーバーはすべてローカル実行だ。そこからの外部通信は3種類に分かれる。
推論通信はクラウドプロバイダーへ直接向かう。Anthropicにはプロンプトも返答も届かない。リモートMCPはIT管理者が許可したサーバーリストに従う。テレメトリ(利用状況と障害診断)だけがAnthropicに送られるが、プロンプトや認証情報は含まれず、MDM経由で完全に無効にもできる。
データ残留の管理先はクラウドプロバイダーの契約条件に委ねられる。HIPAAやGDPRへの対応はプロバイダー側の設定で完結できる。
Enterprise版との機能差
この第三者プラットフォーム対応はEnterprise版の機能を一部絞った構成になる。
ローカルファイルアクセス、ローカル・リモートMCP、スキルとプラグイン(ローカルまたはMDM配布)、メモリ(ローカル)は使える。一方、Chatタブ、プロジェクト共有、スキルマーケットプレース、音声モード、コンピュータ操作、モバイル向けDispatchは使えない。アカウント管理UIやコンプライアンス・分析APIもない。
設定方法も異なる。EnterpriseはウェブのA管理UIで操作できるが、第三者プラットフォーム構成はMDM経由でのみ配布できる。
価格は座席課金なし。利用コストはBedrock・Vertex・Azureの既存契約に従うトークン消費ベースになる。
Anthropicがクライアント層に賭ける理由
表面だけ読むと奇妙な判断に見える。自社モデルの競合であるGPT-5.5やGeminiを、自分のアプリから呼び出せるようにするのだから。
ただし時系列を並べると方向性が見えてくる。Anthropicは3月、サードパーティクライアント(ClaudeへのAPI接続をClaudeサブスクリプション経由で利用するOpenCodeやClineなど)を締め出した。4月に同社は逆に、自社クライアントから他社モデルを呼び出す経路を開いた。
Analysts at yage.ai(参考)[https://yage.ai/share/cowork-3p-models-moat-shift-en-20260425.html]はこの動きを「モデル層を消耗品として割り切り、クライアント層で粘着性を確保する賭け」と表現した。モデルは入れ替え可能だが、Coworkがクライアントである以上、サブスクリプション管理・MCPの許可ポリシー・監査・テレメトリはすべてAnthropicの定義に従う。
実際、同社と同じ期間にAWSはBedrock AgentCore Registryをリリースし、Googleは Vertex + ADK + ApigeeのエージェントスタックをA構築し、MicrosoftはEntra Agent IDでエージェントに企業IDを割り当てた。各社が自社の最強レイヤーを固めつつ、相手に譲る場所を選んでいる形だ。AnthropicはモデルよりもクライアントとランタイムをA価値の軸に置いた。
フロンティアモデル企業が自社クライアントで他社モデルを動かすようにしたのは、Anthropicが業界初とされる。Cursor・GitHub CopilotもA複数モデルに対応しているが、それらはプロダクト企業またはクラウドプラットフォーム企業だ。「自分でモデルを作り、自分のクライアントで他社のモデルも動かす」組み合わせは前例がない。
導入時の確認ポイント
既存のLLMゲートウェイ(Claude CodeやAPIへの社内プロキシ)があれば、Coworkはそのエンドポイントをそのまま使える。ゲートウェイの条件を満たしているか確認するだけだ。
APIキーとゲートウェイURLはMDM配布またはA初回起動時の設定で渡す。Anthropicには送られない。FSLogixなどのローミングプロファイルを使っている場合、vm_bundlesフォルダをローカルの一時ストレージにリダイレクトする必要がある(約10GBのベースラインVMデータを含み、ローミングと同期するとプロファイル肥大と遅延が起きる)。
まとめ
Anthropicは静かに、大きな設計変更を実行した。Coworkが扱う推論トラフィックをAnthropicのサーバーから完全に切り離し、企業の既存インフラに乗せられるようにした。発表のなかった今週の更新が意味することは、「このアプリはClaudeを動かすアプリではなく、AIエージェントを動かすクライアントだ」という再定義だ。
