AIエージェントがコードを書き、PRを出し、CIを回す。その波がGitHubのインフラを限界まで押し上げました。
2026年4月28日、GitHub CTOのVlad Fedorov氏が公式ブログで異例の謝罪を公開しています。4月に連続した大規模障害の原因と対策、そして今後の方針を明かした内容です。同日、HashiCorp共同創業者のMitchell Hashimoto氏がターミナルエミュレーター「Ghostty」のGitHub離脱を表明し、開発者コミュニティに衝撃が走りました。
この記事でわかること
- GitHubで何が起きたのか:4月の2大インシデントの詳細
- 障害の根本原因:AIエージェント開発ワークフローの急増
- GitHubが打ち出した30倍拡張計画の中身
- Ghostty開発者がGitHubを離れる理由
4月に何が起きたのか
4月23日、マージキューに深刻なバグが発生しました。スカッシュマージを使う設定で、マージグループに複数のPRが含まれる場合、以前にマージ済みのPRの変更が意図せず巻き戻されるという問題です。影響は658リポジトリ、2,092件のPRに及びました。コミットデータ自体は失われていませんが、デフォルトブランチの状態が不正になり、自動修復もできないケースが残っています。
4月27日にはElasticsearchクラスタが過負荷に陥りました。ボットネット攻撃が原因とみられ、検索結果が返せなくなったことでPR・Issue・Projectsなど検索に依存するUIが軒並み停止しました。Git操作やAPIは影響を受けていません。
Fedorov氏はブログの中でこの2件について「受け入れられない(not acceptable)」と明言し、「We’re sorry」と締めくくっています。
AIエージェントがインフラを追い込んだ
障害の背景にあるのは、2025年12月後半から急加速したAIエージェント開発ワークフローです。リポジトリ作成数、PR数、API呼び出し、大規模リポジトリの操作——あらゆる指標が同時に跳ね上がりました。
GitHubは2025年10月に10倍のキャパシティ拡張計画を開始していました。ところが2026年2月の時点で、現在の30倍のスケールを前提に設計し直す必要があると判明しています。想定の3倍を超える需要増です。
問題を深刻にしているのは、負荷が一箇所に集中しないことです。1つのPRがGitストレージ、マージチェック、ブランチ保護、GitHub Actions、検索、通知、権限、Webhook、API、バックグラウンドジョブ、キャッシュ、データベースに同時にアクセスします。スケールが大きくなると、小さな非効率が連鎖的に拡大します。キューが詰まり、キャッシュミスがDB負荷に変わり、インデックスが遅れ、リトライがトラフィックを増幅するという悪循環です。
30倍拡張に向けたGitHubの対策
Fedorov氏が示した優先順位は「可用性 → キャパシティ → 新機能」です。具体的な対策は短期・中期・長期に分かれます。
短期対策として、WebhookのバックエンドをMySQLから別システムへ移行し、ユーザーセッションキャッシュの再設計、認証・認可フローの見直しでDB負荷を削減しました。Azureへの移行を活用して、コンピューティングリソースも大幅に増強しています。
中期的には、GitやGitHub Actionsなど重要サービスの分離と、単一障害点の排除を進めています。パフォーマンスに敏感なコードをRubyモノリスからGoへ移行する作業も加速中です。
長期的にはマルチクラウド対応を計画しています。単一クラウドへの依存から脱却し、耐障害性・低レイテンシ・柔軟性を確保する狙いです。
ステータスページも刷新され、可用性の数値がリアルタイムで表示されるようになりました。大小問わずインシデントを公開する方針も打ち出しています。
Ghostty開発者が18年のGitHub生活に別れ
GitHub CTOの謝罪と同日、Mitchell Hashimoto氏がGhosttyのGitHub離脱を発表しました。Hashimoto氏はGitHubの1,299番目のユーザーで、2008年2月から18年以上にわたり毎日GitHubを使い続けてきた人物です。HashiCorpの共同創業者であり、VagrantやTerraformの生みの親としても知られています。
同氏は直近1か月間、GitHub障害で作業に支障が出た日に「X」を記録するジャーナルをつけていました。結果、ほぼ毎日にXがついたといいます。ブログ執筆日にも、GitHub Actionsの障害で約2時間PRレビューができなかったと記しています。
移行先は現在複数のプロバイダー(商用・FOSS両方)と協議中で、GitHubには読み取り専用のミラーを残す予定です。個人プロジェクトは当面GitHubに置くとしています。
開発者が考えるべきこと
今回の事態は、AIエージェントの普及がインフラ側に想定外の負荷をかけるという構造的な問題を浮き彫りにしました。GitHubに限らず、CI/CDサービスやクラウドプロバイダーも同様のスケーリング課題に直面する可能性があります。
開発チームとしては、GitHubへの依存度を見直す契機になります。具体的には、クリティカルなワークフローのバックアップ手段の確保、セルフホスト型Gitサーバーの検討、GitHub Actionsに代わるCI/CDの選択肢の調査などが挙げられます。
GitHubの30倍拡張計画が実を結ぶかどうかは、今後数か月の可用性で明らかになります。Fedorov氏が「言葉ではなく結果で示す」と述べた以上、開発者コミュニティはその結果を見守ることになります。
