AIチャットを離れずに買い物が完結する時代が来た。

GoogleはGeminiアプリとAI Modeに購入機能を追加し、ユーザーがチャット内で商品を選んで決済まで終えられるようにした。ウォルマートやWayfair、Shopifyなど複数の米国小売業者が対応しており、今後も拡大予定だ。

この記事でわかること:

  • GeminiのECチェックアウトが何を変えたか
  • 購入の仕組みとGoogleのインフラ(UCP・Shopping Graph)
  • ウォルマートとの提携が持つ戦略的な意味
  • 対応リテーラーの一覧と今後の展開

https://blog.google/products/ads-commerce/agentic-commerce-ai-tools-protocol-retailers-platforms/

何が変わったか

2026年1月、GoogleはNRF(全米小売業協会)のカンファレンスで、GeminiアプリとAI Modeに新しいチェックアウト機能を発表した。商品を見つけてから決済まで、チャット画面を一切離れずに完結できる。

従来、GoogleのAIアシスタントに「この商品を買いたい」と伝えても、購入ページに遷移する必要があった。新機能では、対応リテーラーの商品リストに「Buy」ボタンが表示され、支払いと配送先の確認画面に進む。支払いはGoogle PayとGoogle Walletに登録済みの情報があらかじめ入力されており、操作は最小限で済む。PayPalによる支払いも近く対応予定だ。

Googleが長年解決できなかった課題

Googleはこれまで長年にわたり、Amazonのショッピング支配に対抗しようとしてきた。ショッピングタブ、比較エンジン、商品広告——いずれもAmazonへの検索行動を変えるには至らなかった。

理由は明確だ。Amazonプライムの会員(推定2億人以上)は、商品を探す際にGoogleではなくAmazonの検索バーに最初に向かう。Amazonはこの「購買意向」を自社の中に囲い込んでいた。

Googleが今回取った戦略は異なる。商品ページへ誘導するのではなく、チャットの中で購入体験そのものを作ることで、Amazonへのトラフィックが流れる前に取引を完結させる設計だ。

UCPとShopping Graphが支えるインフラ

https://9to5google.com/2026/01/11/gemini-ai-mode-checkout/

チェックアウト機能を支えるのが、Googleが発表したUniversal Commerce Protocol(UCP)だ。AIエージェント間で商品の発見・購入・サポートを処理するための共通言語として設計されたオープン規格で、ShopifyやEtsy、Wayfair、Target、Walmartとの共同開発を経て公開された。AdyenやAmerican Express、Best Buy、Mastercard、Stripe、The Home Depot、Visa、Zalandoを含む20社以上がUCPを支持している。

UCPはMCP(Model Context Protocol)やAgent Payments Protocol(AP2)、Agent2Agent(A2A)など既存のプロトコルとの互換性を持つ。

商品データの基盤となるのはGoogle Shopping Graphだ。500億件以上の商品リストを管理しており、そのうち20億件以上が毎時更新されている。Geminiが表示する価格や在庫情報がリアルタイムに近い精度で反映されるのは、このインフラによるものだ。

ウォルマートを最初に選んだ理由

対応リテーラーはWayfair、Chewy、Quince、Shopify加盟ストアなどが含まれるが、戦略的な重みを持つのはウォルマートとの提携だ。

ウォルマートはAmazonの最大の国内競合であり、独自のAIコマース機能にも積極的に投資している。GoogleがWalmartを主要パートナーに選んだことは、対象を絞った勝負をしていることを示す——ECエコシステム全体ではなく、Walmartの顧客がAmazonの代わりに使うインターフェース層を狙い打ちにする戦略だ。

ウォルマートアカウントと連携することで、過去のオンライン・店舗での購入履歴に基づいた商品提案が受けられ、Walmart+やSam’s Clubのメンバーシップ特典もそのまま適用される。

実際の購入の流れ

Geminiでの購入は次の手順で進む。

  1. GeminiアプリまたはGoogle AI Modeで欲しいものを自然言語で説明する
  2. GeminiがShopping Graphから関連商品を表示する
  3. 対応リテーラーの商品に「Buy」ボタンが表示される
  4. Google Pay・Google Walletの決済情報と配送先が自動入力される
  5. 内容を確認して購入を完了する

購入の最終確認は必ずユーザーが行う。ユーザーの承認なしにGoogleが自動決済することはない。

従来のGoogle Shoppingとの違い

従来のGoogle Shoppingは「比較と誘導」の役割だった。価格を並べてリテーラーのページへリンクするところで止まる。新しいチェックアウト機能は、その先の決済まで一貫して処理する点が根本的に異なる。

2025年11月のホリデーシーズン向け発表では、「価格が予算内に下がったらAIが購入する」というエージェント型チェックアウトも追加されていた(参考)。ユーザーが追跡中の商品の価格が設定額を下回ると、Googleが許可を求めた上で自動的に購入手続きを進める機能で、Wayfair、Chewy、Quince、Shopify加盟ストアで利用できる。

Google SearchではAI Modeと連携したBusiness Agentも登場した。小売業者の検索結果画面に「Chat」ボタンが表示され、ブランドの声でAIが商品質問に答えるバーチャル販売員として機能する。Lowe’s、Michaels、Poshmark、Reebokなどが初期参加している。

Amazonへの影響

Geminiチェックアウトが消費者行動を大規模に変えるかは、まだわからない。購買習慣の変化は遅く、Amazonプライム会員の購買意向はEC業界で最も強固なブランドロイヤルティのひとつだ。

ただ、Googleが「検索から購入への誘導」という役割を超え、購入体験の完全な運営者になろうとしているのは確かだ。チェックアウトをチャット内に取り込むことで、Amazonが強みとするステップの削減という設計原理に、初めて同じ土俵で対抗できる機能を手に入れた形になる。