AIエージェントがAPI料金やデータ購入を自分で払う時代が近づいています。ブロックチェーン上の送金は透明性が高い反面、支払い経路や取引相手が丸見えになる課題も抱えます。2026年5月26日、MultiHopperはAIエージェントと開発者向けにAPIアクセスを公開し、Solana上でプライバシーとコンプライアンスを両立する送金基盤「SWIFT 2.0」を打ち出しました。

この記事では、公開内容と公式ドキュメントに基づき、MultiHopperの位置づけ、MCP・OpenAPI対応の中身、エージェント統合の流れを整理します。

この記事でわかること

  • MultiHopperが解決しようとしているAIエージェント決済の課題
  • 今回公開されたAPIとMCP・OpenAPI対応の具体的な内容
  • エージェントが送金を実行する際の3段階フローと注意点
  • ミキサー類との違い、料金体系、今後のロードマップ

https://business.multihopper.com/

何が変わったか

MultiHopperは、デジタル資産を複数のウォレットやスマートコントラクトを経由してルーティングする非カストディ(預託なし)型の送金基盤です。従来はベータ運用が中心でしたが、2026年5月26日に開発者とAIエージェント向けAPIの一般提供を開始しました。

発表時点の実績は次のとおりです。Solanaメインネットで2,800件超の送金を完了し、収益化にも到達しています。Visa主催のSolana Colosseum Berlinハッカソンでは、Visaトラックでトップ3スタートアップに選ばれました。MVPは9週間で出荷したと公表されています。

今回の核心は、人間向けダッシュボードだけでなく、自律エージェントが直接発見・統合できるAPI基盤を整えた点です。同社はこれを法定通貨の国際送金ネットワークSWIFTのオンチェーン版と位置づけ、「SWIFT 2.0」と呼んでいます。

AIエージェント決済が抱える課題

AIエージェントは、有料APIの呼び出し、計算リソースの購入、データフィードの契約、DeFiプロトコルとのやり取りなど、人間の承認なしに価値を移動する場面が増えています。Solanaのようなパブリックチェーンは24時間稼働し、プログラム可能な決済レイヤーを提供します。

一方、公開チェーンの送金はウォレット操作、取引相手、支払い経路、行動パターンがリアルタイムで覗き見られる構造です。データ購入の支払いが調査テーマを漏らし、計算購入がスケールのタイミングを示し、請求書決済が取引関係を晒すリスクがあります。MultiHopper創業者のEnigma氏は、エージェントに必要なのは「ウォレットや署名だけでなく、プライベートかつ安全に、企業や金融機関が使える決済レールだ」と述べています。

MCPとOpenAPIで機械発見に対応

MultiHopperはエージェント連携を前提に設計されています。公式サイトの/.well-known/mcp/server-card.jsonにMCPサーバーカードを配置し、Claude Desktop、Cursor、VS Code、Windsurfなどから自動発見できる構成です。MCPサーバーはSSEトランスポートでhttps://dev-docs.multihopper.com/mcpに接続します。

OpenAPI 3.1仕様はhttps://www.multihopper.com/openapi.jsonで公開されており、mcp-openapi、LangChain、AutoGen、CrewAI、Postmanとの連携を想定しています。llms.txtでAPI能力の要約も提供され、Smithery、GitHub MCP Registry、MCP Market、awesome-mcp-serversに登録済みです。

SDKはTypeScript、Python、Goに対応します。サンドボックス環境ではテストトークンと模擬コンプライアンスフローを利用できます。エージェント向けドキュメントには、エンドポイント名を誤生成しないためのCLAUDE.md用コンテキストブロックも同梱されています。

送金の仕組みとコンプライアンス

MultiHopperのルーティングは、送金元が経路とタイミングをプログラムで制御します。現行版はSolana上の活発な500のスマートコントラクト、ウォレット、コールドストレージアドレスを経由点として使えます。開発者が直接指定する主なパラメータは次の2つです。

タイミングエントロピーは、最短・最長の到着時間ウィンドウを設定し、その範囲内で実際の配信時刻をランダム化します。時間ベースのトランザクション相関を抑えつつ、配信期限は開発者が管理できます。

ホップ数は固定値、または最小・最大の範囲でランダム化できます。ホップが多いほど経路の抽象度は上がり、少ないほどレイテンシは下がります。BinanceやCoinbase Primeといった名前付きアドレスも中継点に使えますが、それらのウォレットがルートに署名したり認識したりする必要はありません。

プライバシーはゼロ知識の資金プールやシールド化ではなく、ルーティングのプログラム制御で実現します。同社はこれを「privacy in the open(公開の中のプライバシー)」と呼び、規制当局への選択的開示は常に可能と説明しています。

組み込みのコンプライアンスエンジンは、送金元・送金先だけでなく経路上の全ウォレットをOFAC制裁リストや不正資金フラグでスクリーニングします。ミキサー、タンブラー、シールドプール、資金の混在は行いません。各ルートは単一送金者で分離され、オンチェーンの監査証跡は維持されます。

エージェント統合の実行フロー

公式のエージェント統合ガイドでは、送金ライフサイクルをAPI管理とクライアント管理の2つに分けています。秘密鍵はクライアント側に留め、MultiHopperのサーバーには送りません。

基本フローは3つのAPIコールです。

  1. POST /transfersで送金を作成し、transferIdを取得
  2. POST /transfers/:id/prepareで未署名トランザクションを受け取り、クライアント側で署名・ブロードキャスト
  3. POST /transfers/:id/confirm-broadcastで署名を記録し、送金を有効化

keeperFundingTxは他のトランザクションより先にブロードキャストし、直後にconfirm-broadcastを呼ぶ必要があります。途中で失敗した場合は/prepareを再実行でき、すでにチェーン上で確認済みの項目はnullで返るため、再開時に二重資金供給を防げます。Solanaのブロックハッシュは/prepareから約60秒で失効するため、エージェント実装ではリトライ処理が必須です。

MCP対応エージェントでは、estimate_transfercreate_transferprepare_transferなどを個別ツールとして公開し、sign_and_broadcastだけをローカルツールに置く設計が推奨されています。Webhookでポーリングの代わりにライフサイクルイベントを受け取ることもできます。

料金とパートナー制度

手数料は送金額の0.5%に加え、ホップごとのネイティブトークン手数料が発生します。余剰ガスは自動返金されます。資格を満たす統合パートナーには手数料収益の50%を分配し、先着500名のTier 1開発者は恒久的な50/50レベニューシェアが付与されます(利用規約の範囲内)。APIキーはmh_live_...(本番)とmh_test_...(テスト)の形式です。

ミキサー類との違いと今後の展開

オンチェーンのプライバシー需要は高まっていますが、RAILGUNのようにシールド型インフラを使うと、制裁対象者の利用による評判汚染で無関係の利用者までブラックリスト化される事例も報告されています。MultiHopperはミキサーではなく、ルーティングによる観測プライバシーとコンプライアンスの両立を訴求しています。

ロードマップでは、Solanaメインネット稼働中にEVM対応と追加チェーン統合を2026年Q2に予定しています。クロスチェーンホップ抽象化のv2は研究段階、バリデータプログラムの検討は2026年Q4を目標としています。

AIエージェントに決済能力を持たせる開発では、ウォレット接続だけでなく、送金経路の制御と規制対応をAPIに委ねられるかが実装コストを左右します。MultiHopperはMCPとOpenAPIでその入口を揃え、Solana上で実運用データを積み上げた段階に入りました。エージェント開発者は、サンドボックス環境とdev-docs.multihopper.com/guides/agentic-integrationの手順から、自社の鍵管理ポリシーに合わせた統合可否を検証するのが現実的な第一歩です。