AIコーディングツールがアプリ開発の入口を広げるなか、バックエンドのデータベース基盤も別のスピードで伸びています。2026年6月4日、オープンソースのPostgres開発プラットフォームSupabaseは、評価額105億ドル(投資後)のSeries Fで5億ドルを調達したと発表しました。同時に、大規模Postgres向けのスケーリング基盤Multigres v0.1 alphaのプレビューも公開されています。

この記事では、調達の規模と投資家構成、AIエージェントがもたらした利用急増、Multigresが解く課題の3点を、公式プレスリリースとSupabase公式ブログの内容に沿って整理します。

この記事でわかること

  • Series Fの金額・評価額・資金使途
  • Claude CodeなどAIツールがSupabaseの成長に与えている影響
  • Multigresの位置づけと、現時点で使える範囲

5億ドル調達で何が変わったか

https://supabase.com/blog/supabase-series-f

今回のSeries Fは、シンガポールの政府系ファンドGICがリードしました。Accel、Y Combinator、Craft、Felicis、Peak XV、Coatueなど既存投資家は全員参加し、Stripeは2回目の投資、Salesforce VenturesとGeorgianが新規参画です。評価額は投資前100億ドル、投資後105億ドルと公表されています。

2025年10月のSeries E(1億ドル・評価額50億ドル)からわずか7か月での大型調達で、累計調達額は10億ドルを超えました。Supabase CEOのPaul Copplestone氏は、資金を「オープンソース/Postgresツールの開発加速」「事業成長の支援」「従業員向けセカンダリー(流動性提供)」の3つに充てると説明しています。

単なる資金調達ニュースではなく、AIエージェント時代のインフラ投資として位置づけられています。公式プレスリリースでも、Supabaseは「エージェンティック・インフラストラクチャのリーダー」と名乗り、エンタープライズがAIネイティブアプリのバックエンドとして採用する流れを強調しています。

AIエージェントがデータベース作成の主役になった背景

Supabaseの成長指標は、従来のSaaS指標とは少し違う見え方をしています。公式発表によると、過去1年でプラットフォーム上のデータベース立ち上げ数は前年比600%増。Series E以降、利用者数は2倍以上に伸び、開発者数は約1,000万人規模とされています(プレスリリースでは9百万人以上、公式ブログでは1,000万人に迫る規模と記載)。

特筆すべきは作成主体の変化です。Copplestone氏は「2026年の年初から最大の貢献源はClaude Code」「新規データベースの過半数はエージェントがデプロイしている」と述べています。AnthropicのClaude Codeに加え、OpenAIのCodexも成長要因として公式ブログで触れられており、AIコーディングツールが「書ける人の母数」を広げ、その結果としてバックエンド需要が増えている構図です。

プラットフォーム事業者向けの「Supabase for Platforms」は、過去6か月で顧客数が370%増と報告されています。Bolt、Figma、Lovable、Replitなど、AIアプリビルダー系のサービスがSupabaseをバックエンドに据える流れが、調達額の大きさを裏付ける材料になっています。TechCrunchの報道でも、バイブコーディング(自然言語でのアプリ生成)の普及が評価額の急伸と結びつけられています(参考)。

MultigresがPostgresのスケール限界に答える

https://supabase.com/blog/multigres-vitess-for-postgres

調達発表と同時に公開されたMultigresは、Postgres向けの水平スケーリング基盤です。Vitessの共同作成者であるSugu Sougoumarane氏がSupabaseに参画し、MySQL向けシャーディング基盤Vitessの思想をPostgresエコシステムに持ち込むプロジェクトとして位置づけられています。

MultigresはPostgresの前段に置くプロキシで、接続プーリングから高可用性、将来的にはペタバイト規模のシャーディングまで段階的に提供する設計です。公式プレスリリースでは、単一インスタンスを超えたチームが別DBへ移行せざるを得ない課題に対し、シャーディング・ゼロダウンタイム移行・高可用性をPostgresのまま実現する、と説明されています。

ライセンスはApache 2.0で、セルフホストも可能です。ただし現行のv0.1 alphaは「試すには十分だが本番運用には未対応」という位置づけで、数か月後の本番対応を目指すとSupabase公式ブログに書かれています。大規模ワークロードを抱えるチームは、パートナープログラム(https://supabase.link/mg-partner)への申請で早期フィードバックに参加できます。

Postgresカンファレンスの講演資料では、MultiGateway(クエリルーティング)、MultiPooler(接続プーリング)、MultiOrch(フェイルオーバー制御)といったコンポーネント構成が紹介されています。Supabaseは既存の接続プーラーSupavisorやストレージエンジンOrioleDBとの関係を整理しつつ、Postgres特化の方針は変えないと明言しています。

開発者・スタートアップにとっての意味

今回の発表は、Supabaseが「Firebase代替の開発者向けDB」から「AI時代のデフォルト・バックエンド」へ役割を広げているサインです。エージェントが1日に数千の顧客DBを立ち上げる、という公式説明は、マルチテナントSaaSやAIアプリビルダーが抱える運用負荷の増大を前提にしています。

一方で、一般の開発者がすぐ触れる変化はMultigresのalpha公開に限られます。既存のSupabaseプロジェクトをそのまま使い続けられる設計で、小規模ワークロード向けの体験は当面維持されます。大規模化の選択肢がPostgresの外に出なくて済むようになるかどうかは、Multigresの本番化とプラットフォーム統合の進み具合次第です。

競合環境も動いています。DatabricksがNeonを買収するなど、開発者向けPostgres基盤の再編が進んでおり、AIアプリのバックエンド市場は資金と技術の両面で競争が激化しています。Supabaseはオープンソースと開発者体験を前面に出し、エージェント経由の利用増を評価額に反映した形です。

押さえておきたい数字と今後の注目点

調達額5億ドル、評価額105億ドル、DB立ち上げ600%増、エージェント経由が過半数、Claude Codeが2026年最大の貢献源——この並びは、AIコーディングがインフラ需要を直接動かしていることを示します。

今後の注目は2点です。1つはMultigresがalphaから本番品質に到達するスピードと、Supabaseプラットフォームへの統合時期。もう1つは、エージェント主体のDB作成が続くなか、パフォーマンス・信頼性・サポートといった「目に見えにくい基盤投資」がどこまで効くかです。Copplestone氏は公式ブログで、大規模運用の難しさに対し自律的なDB運用ツールへの投資を続けると述べています。

AIでアプリを作る流れが当たり前になるほど、バックエンド選定は「人間が手で選ぶ」段階から「エージェントがデフォルトで選ぶ」段階へ移りつつあります。その変化の中心にSupabaseが置かれている、というのが今回の調達とMultigres公開が示す構図です。