面倒な経理作業を、ダッシュボードではなくターミナルから任せられる時代が来ました。

2026年6月12日、スタートアップ向けネオバンクのMercuryが、公式CLI向けの新機能「Mercury Skills」を公開しました。AIエージェントがインストール可能な金融ワークフローをターミナル内で実行できる仕組みです。

この記事でわかること

  • Mercury Skillsが何を解決するのか
  • 公開されている8種類のスキルと用途
  • インストール手順と前提条件
  • Mercury MCPとの違い

https://mercury.com/api

Mercury Skillsとは

Mercury Skillsは、Mercury公式CLI(mercury)と連携するAIエージェント向けワークフローの集まりです。各スキルはAgent Skills仕様に沿ったSKILL.mdファイルとして配布され、エージェントが手順どおりにmercuryコマンドを実行して金融作業を進めます。

MercuryはX(旧Twitter)で「Your AI agent can now do your most hated finance tasks(AIエージェントが、あなたが最も嫌いな金融作業を代行できる)」と告知しました。ポイントは「real, installable AI workflows that live in your terminal(ターミナル内で動く、実際にインストールできるAIワークフロー)」という表現です。プロンプトの一例ではなく、再利用できる手順書として配布される点が特徴です。

同名の「Mercury Agent」(cosmicstack-labs製の汎用AIエージェント)とは別物です。今回のMercury Skillsは、MercuryTechnologiesが提供するビジネスバンキング向けCLI専用の公式スキル群です。

なぜ今、スキル形式なのか

MercuryはすでにREST API、ターミナルネイティブなCLI、AI向けMCPサーバーの3層で金融データへのアクセスを提供しています。公式サイトでは、残高照会、取引のカテゴリ付け、請求書作成、支払い実行などをCLIやスクリプトから行えると説明しています。

一方、MCP(Model Context Protocol)は読み取り専用に設計されています。公式ドキュメントでは、残高確認や取引分析はMCPで、支払いや請求書作成などの書き込み操作はAPIとCLI側で行うと整理されています。

Mercury Skillsは、このCLIの上に「何をどう実行するか」という業務手順を載せる層です。VP of ProductのRyan Wiggins氏は、初期ユーザーの利用は残高確認や取引の整理、レポート作成が中心だと語っています(参考)。Skillsはまさにその「レポート作成」や「取引整理」をエージェントに任せるための部品です。

収録されているスキル一覧

https://github.com/MercuryTechnologies/mercury-skills

公式リポジトリには、共有ルール用のmercury-sharedと、8種類のエージェント向けスキルが含まれています。

スキル名 用途
mercury-shared 認証、日付処理、ページネーション、金額表示の共通ルール
mercury-analyze-spend カテゴリ別の支出分析と月次比較
mercury-detect-anomaly 90日間のベースラインから異常パターンを検出
mercury-receipt-upload レシート画像と取引を照合し、添付ファイルとして登録
mercury-autocategorize-transactions 過去の取引履歴からカテゴリを提案・適用
mercury-receipt-finder レシート未添付の取引を洗い出し、macOSのPhotosやGmailから検索
mercury-journal-entry-prep 買掛金計上や現金振替の仕訳データを生成
mercury-cash-reconciliation 総勘定元帳との現金残高照合ワークペーパーを作成
mercury-onboarding-apply オンボーディング申請のテンプレート生成・入力・提出

いずれのエージェント向けスキルもmercury-sharedに依存し、読み書きはすべてmercury CLI経由で行います。スキル自体が認証ヘッダーを組み立てることはなく、MERCURY_API_KEY環境変数かmercury loginで保存したOAuthトークンをCLIが自動選択します。

インストール手順

https://github.com/MercuryTechnologies/mercury-cli

前提条件は2つです。まずmercury CLIがPATHに入っていること。インストールは次のコマンドで行えます。

curl -sSf https://cli.mercury.com/install.sh | sh

次に認証です。APIトークンをMERCURY_API_KEYに設定するか、mercury loginでOAuthセッションを保存します。状態確認はmercury statusで行えます。

スキルのインストールは、公式READMEが推奨するnpxコマンドが最短です。

npx skills add git@github.com:MercuryTechnologies/mercury-skills.git

手動で導入する場合は、リポジトリをクローンしてskills/配下のディレクトリをエージェントのスキルフォルダ(例: ~/.claude/skills/)にコピーします。mercury-sharedは他のスキルと一緒に配置してください。

スキルの動き方

SKILL.mdはYAMLフロントマターとMarkdown本文で構成されます。フロントマターにはスキル名、説明、必要なAPIスコープ(accounts:readtransactions:readなど)、依存スキルが記載されます。

たとえばmercury-analyze-spendは、まずmercury accounts listで口座一覧を取得し、続けてmercury transactions listで指定期間の取引を--format jsonlで一括取得します。支出集計ではMercuryのデビット(出金)が負の値になる仕様に合わせ、金額の絶対値で合計を計算する手順が明記されています。

mercury-sharedでは、リスト系コマンドに--max-items -1を付けて全ページを取得すること、日付はdate +%Y-%m-%dで当日を基準にすること、--format jsonではなくトークン効率の良いjsonlを使うことなど、エージェントが迷いやすいポイントがルール化されています。

MCPやAPI単体との使い分け

手段 得意なこと 制約
Mercury MCP 自然言語での残高・取引照会、支出傾向の分析 読み取り専用。OAuth認証が必要
Mercury CLI 支払い、カテゴリ更新、請求書作成などの書き込み コマンド構文の理解が必要
Mercury Skills レシート照合や仕訳準備など多段階の業務フロー 対応エージェントとCLIのセットアップが前提

MCPはhttps://mcp.mercury.com/mcpに接続し、ClaudeやChatGPTから口座データを参照する用途に向いています。SkillsはClaude Codeのようなターミナル常駐型エージェントが、Mercury CLIを段階的に呼び出して業務を完遂する用途を想定しています。

活用シーン

スタートアップの経理担当が月末に行う作業を想定すると、次のような流れが組み立てやすくなります。

  1. mercury-receipt-finderでレシート未添付の取引を洗い出す
  2. mercury-autocategorize-transactionsで未分類取引にカテゴリを付与する
  3. mercury-analyze-spendで部門別の支出レポートを生成する
  4. mercury-journal-entry-prepで会計ソフトへの仕訳データを用意する

創業者が投資家向け資料を作る場面では、残高・支出・収益データをCLI経由で集め、エージェントにレポート形式へ整形させる使い方も想定できます。Wiggins氏が挙げた「バーン率計算機」や「投資家向けメモ」の需要に直接応える構成です。

注意点

金融データを扱うため、APIトークンのスコープは最小限に設定してください。公式ドキュメントでは、スコープ付きトークン、IP許可リスト、読み取りと書き込みの分離を推奨しています。

MCPはベータ段階であり、LLMの回答は必ずMercuryのダッシュボードと照合するよう注意喚起されています。Skillsも同様に、支払いやカテゴリ変更などの書き込み操作はエージェントの判断だけで確定させず、人間の確認を挟む運用が安全です。

mercury-receipt-finderはmacOSのPhotosとGmailにアクセスする手順を含むため、実行環境の権限設定にも注意が必要です。

Mercuryはフィンテック企業であり、預金保護は提携銀行(Choice Financial Group、Column N.A.)を通じてFDICの範囲で提供されます。Skillsは口座そのものではなく、CLIを介した操作手順の提供です。

ターミナルから金融業務を自動化する流れは、RampやSlashなど他社のMCP・CLI連携とも同方向に進んでいます。Mercury Skillsは、その中で「定型の経理フローをエージェントに委譲する」ための公式パーツとして位置づけられます。CLIとAPIトークンの準備ができていれば、まずはmercury-analyze-spendから試すのが現実的です。