AIエージェントが業務に浸透する速度が上がっている。そのインフラ争いの最前線に、ネットワーク・セキュリティ企業のCloudflareが立っている。

この記事でわかること:

  • CloudflareがAIエージェント基盤に転換している背景
  • Pool of Funds(PoF)契約とは何か、なぜ収益モデルが変わるのか
  • 2026年4月のAgents Week 2026で発表された主な新機能

https://www.cloudflare.com/agents-week/

ChatGPT以降、Cloudflareは何が変わったか

Cloudflareは2009年創業のネットワーク・セキュリティ企業で、企業のWebトラフィックを高速化・保護するインフラを提供してきた。2022年末にChatGPTが登場すると、同社のプラットフォーム戦略は急速にAIシフトした。

転換の核心は「エージェントが次のユーザーになる」という認識だ。CEO Matthew PrinceはCloudflareを「エージェントインターネットのグローバルコントロールプレーン」と位置づけている。人間のユーザーの代わりに、AIエージェントが自律的にWebトラフィックを生成し、APIを呼び出し、サービスを連携させる世界を想定している。

実際の数字でも変化は現れている。2026年1月、CloudflareのネットワークでAIエージェントが生成するリクエスト数は前月比で2倍以上に増加した。WorkersプラットフォームのアクティブDeveloper数は2025年末時点で450万人を超え、前年から大幅に拡大している。

Pool of Funds契約が収益構造を変える

CloudflareはAI移行と並行して、エンタープライズ向けの契約形態を刷新した。2024年に導入した「Pool of Funds(PoF)」は、従来のサブスクリプション型から使用量ベース課金への転換を示している。

従来は製品ごとに別々の定額サブスクリプションを契約する形だった。PoFでは、企業がまとまった予算をCloudflareの「プール」に積み立て、必要に応じてどの製品・サービスにも使えるようにする仕組みだ。

CFO Thomas SeifertはMorgan Stanleyのカンファレンスでこう説明した。「レートカードと契約が一度決まれば、新しい製品を試すのはマウスクリック一つになる。ネットワーク上に乗ったら、あとの製品採用は非常にスムーズだ」

2025年第4四半期、PoF契約は新規ACV(年間契約価値)の20%を占め、2024年末の10%から倍増した。同四半期の新規ACVは前年比50%近い成長で、過去4年間で最速だった。AIスタートアップとみられる「大手AI企業」との2年・8500万ドルの契約もPoF形式で締結している。

PoF導入の課題は収益の変動性だ。使用量に連動するため、定額課金と比べて四半期業績が振れやすくなる。Morgan Stanleyのレポートは「大型案件の受注タイミングのばらつきと、PoF比率上昇による変動リスクが、四半期の予想未達につながりうる」と指摘している。

Agents Week 2026:エージェント基盤の全貌

2026年4月13〜17日、CloudflareはAgents Week 2026を開催し、AIエージェント向けインフラの大規模アップデートを一斉に発表した。発表は「コンピューティング」「セキュリティ」「エージェントツールボックス」「プロトタイプから本番へ」「エージェンティックWeb」の5分野に整理されている。

コンピューティング:サンドボックスとGitストレージ

CloudflareサンドボックスGA:AIエージェント専用の隔離実行環境が一般提供になった。シェル・ファイルシステム・バックグラウンドプロセスを持つ仮想コンピュータで、オンデマンドで起動し、前回の状態を引き継げる。

Artifacts:Git互換のバージョン管理ストレージで、エージェントが生成したコードやデータを保管できる。数千万のリポジトリを作成でき、外部のGitクライアントからもアクセス可能。

Dynamic Workers:AIが生成したコードをオンデマンドで実行するサンドボックス環境。V8の実行コンテキストはミリ秒単位で起動し、数メガバイトのメモリで動く。各Dynamic WorkerはDurable Objectsを通じて独自のSQLiteデータベースを持てる。

セキュリティ:エージェントのアクセス管理

Cloudflare Mesh:ユーザー、サーバーノード、AIエージェントに対してゼロトラストのプライベートネットワークアクセスを提供。手動でトンネルを設定せずに、エージェントが内部のデータベースやAPIに安全にアクセスできる。

Managed OAuth for Access:AIエージェントが社内アプリを安全に操作するためのOAuth管理機能。RFC 9728に準拠し、エージェントがユーザーに代わって認証できる。

スキャン可能なAPIトークン:APIトークンの漏洩検知と、リソース単位のスコープ付き権限管理。最小権限のアーキテクチャを実装しやすくする。

エージェントツールボックス:推論・記憶・音声

Cloudflare AI Platform:14以上のAIモデルプロバイダーを統一APIで呼び出せる推論レイヤー。マルチモーダルモデルにも対応しており、エージェントが必要なモデルを選んで使える。

Agent Memory:AIエージェントが何を覚え、何を忘れるかを管理するサービス。エージェントがセッションをまたいで学習し続ける基盤になる。

AI Search:エージェント向けの検索プリミティブ。ファイルをアップロードし、ハイブリッド検索で関連情報を取り出せる。

音声パイプライン:Agents SDK向けの音声対話機能。WebSocketを使ったリアルタイムの音声認識(STT)とテキスト読み上げ(TTS)が30行程度のコードで実装できる。

Cloudflare Email Service:エージェントがメールを送受信・処理できるメール基盤がパブリックベータに。

エージェンティックWeb:ボット対策とサイト対応

Agent Readiness Score:サイトがAIエージェントにどれだけ対応できているかを数値化するスコア。Webオーナーがエージェント対応状況を確認できる。

Redirects for AI Training:AIクローラーを古いコンテンツから正規ページへ自動リダイレクトする機能。コンテンツの最新版をAIに学習させるためのコントロールをサイト側に渡す。

OpenAIとの連携とCybersecurityの二本柱

CloudflareはOpenAIとの関係も深めている。ChatGPTに登録する際のクラウドサービスへの安全な接続をCloudflareが担っている。

中長期の成長軸はAIだが、短期ではSASE(Secure Access Service Edge)などのサイバーセキュリティサービスも安定した収益源だ。企業がネットワークのソフトウェア化を進める中で、支店やリモートワーカーのセキュリティ基盤として需要が続いている。

2025年のCloudflare株は83%上昇した。2028年末時点での年間経常収益50億ドルを目標に掲げており、AIエージェント向けインフラの需要取り込みが達成の鍵となる。

まとめ

CloudflareはAIエージェントの爆発的な普及を見据え、コンピューティング・セキュリティ・推論・記憶・音声・メールといたエージェント基盤全体の整備を一気に進めている。収益面ではPool of Funds契約への移行が加速しており、大企業向けのクロスセルを容易にする構造に変わりつつある。

AIエージェントが「次のユーザー」になるという視点は、クラウドインフラ全体に当てはまる変化だ。Cloudflareがその通過点として機能できるかどうかは、今後1〜2年の導入事例の積み上がりで判断できるようになるだろう。