AIエージェントツールの多くは、クラウド経由でしか動かない設計になっている。ローカルで動かしたい、APIキーをサーバーに渡したくない、プロバイダーを自由に切り替えたい——そういった要求に応えるOSSが、タイのThaiGPT Co.,Ltd.から登場した。

https://github.com/thClaws/thClaws

thClaws(ト・クロウズ)は、Rustで書かれたオープンソースのAIエージェントワークスペースだ。コードの編集、ワークフローの自動化、ナレッジベースの検索、エージェントチームの統括——これらをすべて1つのバイナリで担う。2026年4月20日に公開されてからわずか1週間でv0.6系へ到達し、活発に開発が続いている。

この記事でわかること:

  • thClawsが生まれた背景と「ローカル完結」の意味
  • GUI・CLI・ワンショットの3インターフェース
  • 7つ以上のAIプロバイダーに対応したマルチプロバイダー設計
  • スキル・MCP・プラグインによる拡張の仕組み
  • インストールから初回起動までの手順

背景——Claude Codeのソースマップ流出が発端

thClawsが生まれたきっかけは、2026年3月に起きたAnthropicの誤公開だ。@anthropic-ai/claude-code のnpmパッケージ v2.1.88 に59.8MBのソースマップファイルが混入し、TypeScript製の内部コード約51万2000行が誰でも読める状態になった。Vibe Coding Thailandのメンバーはこの出来事に着目し、Claude Codeのエージェントアーキテクチャをリバースエンジニアリング。Rustでゼロから書き直したのがthClawsの出発点だ。

コードは MIT / Apache-2.0 のデュアルライセンスで公開されており、クライアント本体は永続的にオープンソースとして提供される。エンタープライズサポートやホスティングは商用扱いだが、ツール自体の使用は無料だ。

3つのインターフェース、1つのバイナリ

thClawsの大きな特徴のひとつは、同じバイナリが3つの異なる使い方に対応していることだ。

Desktop GUIthclaws)は、Terminal・Chat・Files・Teamの4タブを持つネイティブウィンドウだ。コードを書きながら隣タブでナレッジベースを参照したり、チームタブで複数エージェントの状況を俯瞰したりできる。ライト/ダーク/システムのテーマ切り替えにも対応している。

CLI REPLthclaws --cli)はSSH越しやヘッドレスサーバーで使うための対話型プロンプトだ。GUIで使えるスラッシュコマンドはすべてCLIでも動く。設定やセッション履歴はGUIとCLIで共有されるため、手元のGUIで始めた作業をサーバー上のCLIで続けることも自然にできる。

ワンショットモードthclaws -p "プロンプト")は1ターン実行して終了するモードだ。シェルスクリプトのパイプラインに組み込んだり、CIジョブの中で使ったりするのに向いている。

どのインターフェースを選んでも、エンジン・セッション・設定は同じ。表面だけが変わる。

プロバイダーに縛られない設計

thClawsはモデル名のプレフィックスで使うプロバイダーを自動検出する。対応しているのは以下のプロバイダーだ。

  • Anthropicclaude-*
  • OpenAIgpt-*o*
  • Geminigemini-*
  • Alibaba DashScope
  • OpenRouter(300以上のモデルに1つのキーでアクセス)
  • Ollama(ローカルモデル/ネットワーク不要)
  • Agentic Press
  • OpenAI互換エンドポイントoai/<モデルID> プレフィックスで指定)

セッションの途中でも /provider anthropic/model gpt-4.1 と入力するだけでプロバイダーとモデルを切り替えられる。午前はAnthropicのClaudeで、機内ではOllamaのローカルモデルで、用途に応じてプロバイダーを変えてもスキルも設定もそのまま使い続けられる。

OpenAI互換エンドポイントの対応(v0.6.1で追加)により、LiteLLM・Portkey・vLLM・社内プロキシなど、OpenAIの/v1/chat/completions仕様に準拠したサービスであれば oai/<モデルID> の形式で接続できる。

スキル・MCP・プラグインによる拡張

スキル(Skills)

スキルは SKILL.md を中心に構成された再利用可能なワークフローのパッケージだ。SKILL.md にはトリガー条件(whenToUse)と手順が書かれており、ユーザーのリクエストがトリガーに合致すると、エージェントが自動的に該当スキルを選んで実行する。明示的に呼びたい場合はスラッシュコマンド(/<スキル名>)でも起動できる。スキルはgit URLや.zipアーカイブからインストール可能で、チーム共有にも対応している。

MCPサーバー

Model Context Protocol(MCP)により、サードパーティのツールサーバーを接続できる。GitHub・ファイルシステム・データベース・ブラウザ・Slackなど、MCP対応のサーバーであればstdioとHTTP Streamableの両トランスポートで接続可能だ。認証にはOAuth 2.1 + PKCEをサポートしており、/mcp add コマンドで追加できる。

プラグイン

プラグインはスキル・コマンド・エージェント定義・MCPサーバーをひとつのマニフェストにまとめたものだ。インストールもアンインストールもバージョン固定も1つの単位でできるため、チームの標準ツールセットを共有するのに使いやすい。

メモリとナレッジベース

thClawsには、長期的な情報を保持する2つの仕組みがある。

メモリuserfeedbackprojectreference の4カテゴリに分類された永続ストアだ。中身はMarkdownファイルとして保存されるため、エディタで直接読み書きでき、Gitに含めることもできる。

ナレッジベース(KMS)は、プロジェクトごとまたはユーザーごとに持てるWikiだ。.thclaws/kms/<名前>/pages/ にMarkdownページを置き、index.md に1行のエントリを書くと、エージェントは毎ターン目次を参照し、必要に応じて KmsRead / KmsSearch ツールで内容を読み込む。埋め込みベクトル(embeddings)は不要——grep + readで完結する軽量な設計だ。Andrej KarpathyのLLM Wikiパターンを参考にしている。

プロジェクト指示AGENTS.md または CLAUDE.md をカレントディレクトリから上位に向かって自動探索し、見つかったものをシステムプロンプトに注入する。既存のClaude Codeプロジェクト設定をそのまま引き継げる。

エージェントオーケストレーション

thClawsは単一エージェントとしてだけでなく、複数エージェントの統括役としても動く。

サブエージェント(Task ツール)は、孤立した環境でサブタスクを処理する。独自のツールレジストリを持ち、最大3レベルまで再帰的に委任できる。

エージェントチームは、複数のthClawsプロセスが共有メールボックスとタスクキューを通じて連携する仕組みだ。各プロセスは独立したtmuxペーンとgit worktreeで動き、リードエージェントが全体を統括する。バックエンドとフロントエンドを別エージェントが並行して書き、完成したらリードがブランチをマージする——そんな開発フローを実現できる。

セキュリティとオフライン対応

ファイルシステムサンドボックスにより、ファイル操作ツールはカレントディレクトリ以下にスコープされる。破壊的なシェルコマンドは実行前にフラグが立ち、ユーザーの承認が必要だ。自動承認モードも設定で有効化できる。

APIキーはデフォルトでOSのキーチェーン(macOS Keychain・Windows Credential Manager・Linux Secret Service)に保存される。CIパイプライン向けには .env ファイルへのフォールバックもある。

Ollama対応により、クラウドへの通信なし・APIキーなし・ネットワーク不要でローカルモデルだけで動かすことも可能だ。

インストール方法

thClawsはmacOS(Apple Silicon・Intel)、Windows(x86_64・ARM64)、Linux(x86_64・ARM64)向けにビルド済みバイナリを配布している。

# macOS Apple Silicon
curl -L https://github.com/thClaws/thClaws/releases/latest/download/thclaws-v0.6.2-aarch64-apple-darwin.tar.gz \
  | tar -xz && sudo mv thclaws /usr/local/bin/

# Linux x86_64
curl -L https://github.com/thClaws/thClaws/releases/latest/download/thclaws-v0.6.2-x86_64-unknown-linux-gnu.tar.gz \
  | tar -xz && sudo mv thclaws /usr/local/bin/

ソースからビルドする場合はRust 1.85以上・Node.js 20以上・pnpm 9以上が必要だ。

git clone https://github.com/thClaws/thClaws.git
cd thClaws/frontend && pnpm install && pnpm build && cd ..
cargo build --release --features gui --bin thclaws

初回起動時にシークレットの保存先(OSキーチェーンまたは.env)を選択し、/provider/model でプロバイダーとモデルを設定すれば使い始められる。

Claude Codeや類似ツールとの違い

Claude CodeはAnthropicのClaude専用に設計されたCLIツールだ。thClawsは同じエージェントループの設計思想を持ちながら、プロバイダーの多様化・デスクトップGUI・ローカル優先の哲学を付け加えた位置づけにある。CLAUDE.md.mcp.json といった既存の設定ファイルをそのまま読み込めるため、Claude Codeから移行する際の摩擦は小さい。

OpenClawやSwarmClawといった他のOSSエージェントも同様の問題を解こうとしているが、thClawsの特徴は「1バイナリで完結」「Rustによるパフォーマンスと安全性」「Thai発ながら英語ドキュメントを整備したグローバル志向」の3点にある。リリースから1週間でv0.6系に到達したペースは、活発なコントリビューターコミュニティが育ちつつあることを示している。

ローカルでデータ主権を持ちながら、複数のAIプロバイダーを自由に切り替えて使いたいという用途には、試す価値がある1本だ。