メールサービスを自前で持とうとすると、サーバー代・設定の複雑さ・維持費が重なる。VPSを借りてPostfixを動かすか、有料のSaaSに頼るかという二択が長く続いてきた。
「cloud-mail」はその状況を変えるオープンソースプロジェクトだ。Cloudflare Workersにデプロイするだけで、カスタムドメインを使った自前のメールサービスをほぼコストゼロで構築できる。受信・送信・添付ファイル管理・転送・管理ダッシュボードまで揃っており、Gmail代替として十分に機能する。
この記事でわかること:
- cloud-mailが解決する課題と動く仕組み
- 送受信・転送・管理者機能など搭載機能の全容
- デプロイに必要な環境と手順の概要
- 無料で使える範囲と料金の考え方
cloud-mailとは
https://github.com/maillab/cloud-mail
Cloudflare Workersは、JavaScriptをエッジネットワーク上でサーバーレスに実行できるプラットフォームだ。1日10万リクエストまでの無料枠があり、個人ユースであればコストが発生しない。cloud-mailはこのWorkers上で動くメールサービスで、GitHubでMITライセンスのもと公開されている。
2025年4月に公開されてから約1年で約8,000スターを獲得し、フォーク数は8,300超に達した。フォーク数がスター数を上回っているのは珍しく、自分のカスタムドメインに合わせて改変して使うユーザーが多いことを反映している。最新バージョンはv2.9.0(2026年2月リリース)で、現在も開発が続いている。
主な機能
メール送受信と添付ファイル
受信メールの閲覧・返信と、新規メールの送信に対応する。送信はResendと統合されており、単体送信だけでなく一括送信も使える。添付ファイルはCloudflare R2オブジェクトストレージに保存され、受信・送信どちらでも扱える。
メール転送
受信したメールをTelegramボットや他のメールサービスに自動転送できる。受信専用のドメインから普段使いのGmailへ転送する用途に向いている。v2.9.0でメール転送機能が新たに追加された。
管理者機能
ユーザー管理とメール管理を備えた管理者パネルが付属する。RBAC(ロールベースアクセス制御)による権限設定で、複数ユーザーが利用する組織内サービスとしても運用できる。
開放API
REST APIが公開されており、ユーザーの一括作成やメールの多条件検索をプログラムから実行できる。n8nや自作スクリプトとの連携に使いやすい。
カスタマイズ
サイトタイトル・ログイン背景・透明度を管理画面から変更できる。Cloudflare Turnstile統合も設定可能で、ボットによる自動登録を防げる。
技術スタック
バックエンドはHono(Cloudflare Workers向けの軽量Webフレームワーク)とDrizzle ORMで構成されている。フロントエンドはVue3とElement PlusによるSPA(シングルページアプリケーション)で、EChartsによるデータ可視化ダッシュボードが組み込まれている。
データストレージはすべてCloudflareのサービスで完結する。データベースはCloudflare D1(SQLiteベース)、キャッシュはCloudflare KV、ファイル保存はCloudflare R2だ。外部サービスへの依存はメール送信のResendのみになっている。
デプロイの概要
デプロイ方法は3種類用意されている。CloudflareのDashboard GUIから進める「Dashboard Deployment」、GitHub Actionsで自動化する「Action Deployment」、wranglerコマンドで進める「Command Deployment」だ。
事前に必要なものは3点ある。Cloudflareアカウント(無料)とカスタムドメイン、CloudflareのEmail Routingを有効化したドメイン設定、そしてResendのアカウント(送信用)だ。
セットアップの大まかな流れは、CloudflareダッシュボードでD1・KV・R2を有効化し、wrangler.tomlに接続情報を設定してデプロイするという手順になる。詳細な手順は公式ドキュメントで英語と中国語の両方で確認できる。
料金
Cloudflare Workersの無料枠は1日10万リクエスト、D1は1日500万行の読み取り、R2は月10GBだ。個人や小規模チームの使い方であれば、Cloudflare側のコストはほぼゼロになる。
送信で使うResendの無料プランは月3,000通まで対応している。送信量がそれを超える場合は有料プランへの移行が必要になるが、3,000通で足りる用途は多い。ドメインのレジストラ費用(年1,000〜2,000円程度)を除けば、ランニングコストをほぼゼロに抑えられる。
Cloudflare Email Routingとの違い
CloudflareにはEmail Routingという標準機能があるが、これは受信メールを別のアドレスに転送する機能に留まる。送信・管理UI・添付ファイル管理などは持っていない。cloud-mailはEmail Routingを基盤にしながら、その上に完全なメールサービスとしての機能を乗せた実装だ。
Cloudflare公式が公開しているagentic-inboxは、AIエージェント機能を組み込んだメールクライアントで方向性が異なる。cloud-mailはシンプルなメールサービスとして独立して動き、RBAC管理やAPIによる操作が可能な点でより「プロダクト」として完成している。
まとめ
cloud-mailは、カスタムドメイン1つとCloudflareアカウントで、自前の本格的なメールサービスを構築できるOSSだ。インフラはCloudflare上に完結するため、VPSのようなサーバー管理が不要で、個人から小規模チームまでの用途に十分対応する。
v2.9.0ではcloud-mail内のアドレス宛送信が外部サービス不要になり、メール転送機能も追加された。GitHubのフォーク数がスター数を上回るほど実用的なプロジェクトとして広まっており、Cloudflareの無料枠を最大限に活用するOSSとして注目に値する。