Atomの開発者が5年かけて作り直したエディタが、ついに正式版を迎えました。
Zed 1.0は、Rustで書かれたGPU駆動のコードエディタです。AIエージェントの並列実行、独自の編集予測モデル、VS Codeの数倍とされる起動速度を備えています。
この記事でわかること
- Zed 1.0で何が変わったのか
- GPU描画エンジンGPUIの仕組み
- Agent Client Protocol(ACP)によるAIエージェント連携
- 料金プランとVS Codeとの違い
AtomからZedへ 5年越しの再出発
Zedを開発するのは、GitHubのエディタAtomとElectronフレームワークの生みの親であるNathan Sobo氏のチームです。Atomの限界はWeb技術そのものにあったと判断し、2021年にゼロから開発を開始しました。
Electronベースのエディタは柔軟性がある一方、描画やメモリの面でネイティブアプリに及びません。VS CodeもAtomと同じElectron上に構築されており、この制約を共有しています。Zedはこの構造的な問題を根本から解決するため、Rustと独自のGPU描画フレームワーク「GPUI」で全体を書き直しました。
GPU描画で実現する速度
ZedのUIは、ゲームエンジンと同じ方式で描画されます。テキストやUI要素をGPUのシェーダーに直接渡す仕組みで、従来のエディタがCPUで処理していた部分を大幅に高速化しています。
起動は0.12秒、描画は120fps、大規模なコードベースでもメモリ消費は300MB以下です。この性能はElectronベースのエディタでは到達できない領域です。コードベースは100万行を超えていますが、すべてRustで記述されているため、実行時のオーバーヘッドが極めて小さく抑えられています。
AIエージェントを並列で動かす
Zed 1.0はAI機能をエディタの基盤に組み込んでいます。後付けではなく、設計段階からAIとの協働を前提にした構造です。
エージェントの並列実行。 同じウィンドウ内で複数のAIエージェントを同時に動かせます。Claude Agent、Codex、OpenCode、Cursorなどの外部エージェントを、Agent Client Protocol(ACP)経由で接続します。ACPはZedが提唱するオープンな通信規格で、GoogleやJetBrainsと共同で策定しています。エージェントごとにgit worktreeで作業を分離し、複数タスクを同時に進められます。
編集予測。 Zed独自のオープンウェイトモデル「Zeta2」が、次の編集操作をキーストローク単位で予測します。コード補完やセマンティックナビゲーション、リファクタリング提案を、Zedの速度に合わせて処理します。
AI機能の完全無効化。 AIが不要な開発者向けに、すべてのAI機能をオフにする設定があります。純粋なコードエディタとしても使える点は、コミュニティから高い評価を受けています(参考)。
料金プランと対応環境
ZedのPersonalプランは無料です。エディタの全機能を制限なく使えます。AI機能は月2,000回の編集予測が含まれ、自分のAPIキーや外部エージェントは無制限に利用可能です。Anthropic、OpenAI、Google AI、Ollama、Mistralなど多数のプロバイダに対応しています。
Proプランは月額10ドルです。編集予測が無制限になり、月5ドル分のトークンクレジットが付属します。超過分はAPI定価+10%の従量課金です。AnthropicのOpusモデルもProプランで利用可能です。
Enterpriseプランは法人向けで、SSO、利用分析、一括請求などの管理機能を備えています。対応OSはmacOS、Windows、Linuxです。
VS Codeとの違い
最大の違いはアーキテクチャです。VS CodeはElectron(Chromium)ベースで、ブラウザエンジンの上にエディタを構築しています。ZedはRust+GPUIで、OSとGPUに直接アクセスする設計です。
拡張機能のエコシステムには大きな差があります。VS Codeは10万以上の拡張機能を持ちますが、Zedは約1,000本です。C、C++、JavaScript、TypeScript、Python、Markdownなど主要言語のLSP(Language Server Protocol)は標準搭載されていますが、ニッチな言語やツールチェーンへの対応は発展途上です。VS Codeから移行する場合、使っている拡張機能が揃っているか事前の確認が必要です。
AI連携の設計思想も異なります。VS CodeはCopilotを拡張機能として追加する方式です。一方ZedはACPで複数エージェントを並列に接続し、それぞれが独立したブランチで作業を進めます。
DeltaDB 次に来る共同編集の形
Zedチームは現在、DeltaDBという同期エンジンを開発中です。CRDT(Conflict-free Replicated Data Type)をベースに、文字単位の粒度ですべての変更を追跡します。
DeltaDBが完成すると、人間とAIエージェントが同じコードベースの同じビューを共有しながら作業できるようになります。エージェントが生成したコードを、そのコンテキストの中でチームメイトと一緒にレビュー・修正するワークフローが想定されています。Sobo氏はこの体験について「他のブラウザエンジンの中では実現できない」と述べています。
誰に向いているか
Zed 1.0は、エディタの速度にこだわる開発者に最も響くプロダクトです。VS Codeの起動やスクロールに不満を感じている場合、体感差はすぐにわかります。複数のAIエージェントを同時に走らせたい開発者にとっても、ACPによる統合は現時点で独自の強みです。
一方、VS Codeの拡張機能に依存している場合は、移行のハードルがあります。GitHubのスター数は約80,000、1,000以上の拡張機能が公開されていますが、VS Codeのエコシステムとの差は歴然です。メインエディタとして切り替える前に、必要な言語サポートとツール連携を確認することをすすめます。