政府が管理するソースコードを、外部プラットフォームに預けるリスクをどう考えるか。オランダが1つの答えを示しました。

この記事では、オランダ政府が公開したセルフホスト型Gitプラットフォーム「code.overheid.nl」について、以下の内容を解説します。

  • code.overheid.nlとは何か
  • GitHubやGitLabから離れる理由
  • 採用されたForgejoの特徴
  • 今後の展望と他国への影響

code.overheid.nlとは

https://code.overheid.nl/

code.overheid.nlは、オランダ政府が2026年4月にソフトローンチした政府向けGitプラットフォームです。オープンソースソフトウェアの公開・開発を目的としており、政府のハードウェア上でセルフホストされています。

運営はオランダ内務省のOpen Source Program Office(OSPO)が主導し、SSC-ICTやdeveloper.overheid.nlと協力して構築を進めています。現在はパイロット段階で、一部の政府機関のみが登録・利用できます。

なぜGitHubとGitLabから離れるのか

オランダ政府はこれまで、オープンソースソフトウェアのホスティングにGitHubやGitLabを使用してきました。しかし、どちらも政府の管理下にない外部プラットフォームです。

政府の見解はこうです。ソースコードのホスティングは国家インフラの重要な構成要素であり、リポジトリ内のコードやバイナリが改ざんされるリスクを許容できない、と。ユーザーがバイナリを直接実行する以上、その生成過程の完全性を政府自身が保証する必要があります。

GitHubはMicrosoftの傘下にあり、GitLabも完全なフリーソフトウェアではありません。政府は両プラットフォームを「リスクあり」と分類しました。米国企業が運営するサービスに依存する構造そのものが、デジタル主権の観点から問題だと判断した形です。

Forgejoを選んだ理由

https://forgejo.org/

Forgejo(フォージョ)は、セルフホスト型の軽量なソフトウェアフォージです。Giteaからフォークされ、ドイツの非営利団体Codeberg e.V.が運営しています。GitHubに似たUIを持ち、リポジトリ管理、Issue追跡、プルリクエスト、CI/CDなど基本的な機能を備えています。

オランダ政府がForgejoを選んだ決め手は、ソースコードの自由度です。Forgejoはすべてのコードを調査・修正・配布する権利を保証しています。これは政府の目標と一致します。

OSPOは次のように述べています。Forgejoへの投資はすべてパブリックドメインに入り、納税者である市民と企業に還元される。公共の資金で作られたものは公共のコードであるべきだ、と。この考え方は欧州で広がる「Public Money, Public Code(公共の資金、公共のコード)」の原則に沿ったものです。

GitHubやGitLabとの違い

code.overheid.nlが既存プラットフォームと異なるのは、運用の思想です。

GitHubは世界最大のコードホスティングサービスですが、Microsoft傘下の商用プラットフォームであり、サーバーの所在やデータの取り扱いは利用者側でコントロールできません。GitLabはセルフホスト版がありますが、Enterprise Editionの一部機能はプロプライエタリです。

Forgejoベースのcode.overheid.nlは、完全にオランダ政府のインフラ上で稼働します。コードの完全性を自前で検証でき、外部企業の方針変更に左右されません。また、Forgejoは軽量で動作が速く、GitHubほどの大規模なサーバーリソースを必要としない点も利点です。

一方で、GitHubのような巨大なコミュニティやエコシステムはまだありません。プラットフォームの長期的な成功は、政府機関全体での採用拡大にかかっています。

欧州のデジタル主権と今後の展望

オランダの動きは単独の取り組みではありません。欧州では近年、米国テック企業への依存を見直す動きが加速しています。クラウドサービス、OS、コード管理といったデジタルインフラを自国・自地域で管理する「デジタル主権」の議論が各国で進んでいます。

code.overheid.nlは現時点でパイロット段階であり、すべての政府機関が使える状態にはなっていません。OSPOは開発者に対して、Issueの報告やプルリクエストの作成を通じてプラットフォームの共同構築に参加するよう呼びかけています。今後1年以内に、省庁から地方自治体まで接続範囲を拡大する計画です。

政府が自らGitフォージを運営するという選択は、ソフトウェア開発のあり方に一石を投じるものです。オランダの実験がうまくいけば、他の欧州諸国にも波及する可能性があります。公共のコードを公共のインフラで管理する。その原則がどこまで広がるか、注目に値します。