AIに指示を出しても、思い通りのコードが返ってこない。そんな経験が繰り返されるのは、指示の出し方の問題ではなく、エンジニアリングの基礎が抜け落ちているからかもしれない。

Skills For Real Engineersは、TypeScriptの第一人者Matt Pocockが実際に毎日使っているエージェント向けスキル集だ。GitHubで55,000以上のスターを獲得しており、Claude CodeやCodexなど複数のエージェントで動作する。

この記事でわかること:

  • AIコーディングで起きやすい4つの失敗パターン
  • 各パターンに対応するスキルの使い方
  • npxコマンド1行でできるインストール手順
  • 主なスキルの機能一覧

バイブコーディングとリアルエンジニアリングの違い

GSD、BMAD、Spec-Kitのようなアプローチは、開発プロセスそのものをAIに委ねる方向性だ。便利ではあるが、AIがプロセスを所有するぶん、バグが起きたときの原因追跡が難しくなる。

Skills For Real Engineersは逆の設計思想をとる。スキルは小さく、単独で機能し、組み合わせて使える。エンジニアが制御を手放さずに使えるツールセットとして設計されている。

AIコーディングで起きやすい4つの失敗パターン

意図と違うコードが生成される

「自分が何を作りたいか、正確に伝えられているか」は、実は難しい問題だ。The Pragmatic Programmerでも「誰も自分が何を欲しいか正確に知らない」と指摘されている。

エージェントとのコミュニケーションギャップを埋めるのが、/grill-me/grill-with-docsスキルだ。実装を始める前に、エージェントが設計について深い質問を繰り返す「グリリングセッション」を実行する。意図のずれを事前に解消することで、作り直しが激減する。

/grill-with-docsは同時に、プロジェクト固有の用語集CONTEXT.mdを更新し、設計上の判断をADR(Architecture Decision Records)として記録する。使い込むほど、エージェントとの認識合わせにかかるコストが下がっていく。

AIの出力が回りくどくなる

エージェントはプロジェクトに投入されると、専門用語をその場で推測しながら動く。結果として「1つの単語で済む概念を20語で説明する」冗長なコードや会話が生まれる。

解決策は「共有言語」の文書化だ。CONTEXT.mdにプロジェクト固有の用語を蓄積すると、エージェントはその用語を使ってコードの変数名や関数名を統一する。ファイル間の一貫性が上がり、エージェントが思考に費やすトークン数も減る。

コードが動かない

エージェントとの意図合わせができていても、コードが機能しないことはある。原因はフィードバックループの欠如だ。コードが実際に動いているかどうかのフィードバックがなければ、エージェントは手探りで修正を続けるだけになる。

/tddスキルは、テスト駆動開発のred-green-refactorループをエージェントに実装させる。先に失敗するテストを書き、次にそのテストをパスさせるという手順で、一貫したフィードバックをエージェントに与える。垂直スライス単位で機能を実装するため、変更の影響範囲が小さく保たれる。

バグ調査には/diagnoseスキルが対応する。再現→最小化→仮説→計測→修正→リグレッションテストという体系的なデバッグループを実行し、難しいバグやパフォーマンス問題に対処する。

コードベースが複雑化する

AIを使うと開発速度が上がるため、ソフトウェアのエントロピーも加速する。気づいたときには、変更が難しい複雑なコードベースになっていることがある。

/improve-codebase-architectureスキルは、コードベースの設計上の問題点を洗い出し、改善案を提示する。CONTEXT.mdとADRを参照しながら動作するため、プロジェクトの経緯や用語を踏まえた指摘が返ってくる。数日に一度実行することが推奨されている。

/zoom-outスキルも補助的に使える。エージェントが不慣れなコードセクションを見るとき、コード全体の文脈からそのセクションの役割を説明させる。

30秒でインストールする方法

スキルのインストールにはnpxが使えるため、別途ツールのインストールは不要だ。

npx skills@latest add mattpocock/skills

実行後、使いたいスキルとインストール先のエージェント(Claude Code、Codexなど)を選択する。最初に/setup-matt-pocock-skillsを実行しておくと、イシュートラッカー連携(GitHub・Linear・ローカルファイル)やドキュメント保存先などの設定が一度で完了する。

設定が済めば、あとは各スキルを会話の中でスラッシュコマンドとして呼び出すだけだ。

主なスキル一覧

エンジニアリング系

  • /grill-with-docs — 設計をドメインモデルに照らして精査し、CONTEXT.mdとADRを更新する
  • /tdd — テスト駆動開発でバーティカルスライス単位に実装する
  • /diagnose — バグ・パフォーマンス問題を体系的なデバッグループで解決する
  • /triage — ステートマシン方式でイシューを分類する
  • /to-prd — 会話内容をPRDに変換してGitHub Issueに登録する
  • /to-issues — PRDや仕様を独立して着手できるGitHub Issueに分解する
  • /improve-codebase-architecture — コードベースの設計改善点を発見する
  • /zoom-out — エージェントにコードの全体像を説明させる

プロダクティビティ系

  • /grill-me — コードとは無関係な計画・設計でのグリリングセッション
  • /caveman — トークン消費を約75%削減する超圧縮コミュニケーションモード
  • /write-a-skill — 新しいスキルを構造に沿って作成する

料金と対応エージェント

Skills For Real EngineerはMITライセンスで公開されており、無料で利用できる。Claude Code、Codex(OpenAI)、その他のコーディングエージェントに対応している。

Matt Pocockは約6万人の開発者向けにニュースレター「AI Hero」を運営しており、スキルの更新情報はそちらで配信される。

まとめ

Skills For Real Engineersは、AIコーディングにありがちな「意図のずれ」「冗長な出力」「バグの多発」「コードの複雑化」という4つの問題に対し、それぞれ対応するスキルを提供する。GSDやBMADのようにプロセスをAIに委ねるのではなく、エンジニアが制御を保ちながらAIを使い続けられる設計が特徴だ。

インストールはnpx skills@latest add mattpocock/skillsの1行で完了する。Claude CodeやCodexでのAI開発の品質に課題を感じているなら、試してみる価値がある。