米政府がAnthropicを締め出した騒動に、転機が訪れました。ホワイトハウスがAnthropicの連邦利用を認めるガイダンスを策定中であることが2026年4月29日に報じられています。サイバーセキュリティ特化モデル「Mythos」の存在が、政府の姿勢を変えた可能性があります。

この記事でわかること:

  • Anthropicが連邦政府から排除された経緯と理由
  • ホワイトハウスが方針転換に動いている背景
  • サイバーセキュリティモデルMythosとProject Glasswingの概要
  • 今後のAI政策への影響

そもそも何が起きたのか

https://www.anthropic.com/news/where-stand-department-war

2025年7月、AnthropicはペンタゴンとClaudeの利用契約を締結しました。Claudeは機密ネットワークで使用が承認された初の商用フロンティアAIモデルです。情報分析、作戦計画、サイバー作戦などに活用されていました。

しかし、ペンタゴンは契約条件の見直しを求めました。Anthropicの利用規約にある制限を撤廃し、合法な目的であればすべてにClaudeを使えるようにしたいという要求です。Anthropicはこれを拒否しました。同社が譲らなかったのは2点、完全自律型兵器と国内大規模監視への利用禁止です。

この対立が決定的になったのは2026年2月です。トランプ大統領がTruth Socialで全連邦システムからのAnthropic排除を指示し、国防長官がサプライチェーンリスクの指定を発表しました。米国企業がこの指定を受けるのは史上初の事例です。

Anthropicの法的対抗と裁判所の判断

https://www.cnbc.com/2026/03/05/anthropic-pentagon-ai-claude-iran.html

Anthropicは2026年3月9日、連邦裁判所に2件の訴訟を提起しました。サプライチェーンリスク指定の法的根拠に問題があるという主張です。

3月下旬、カリフォルニアの連邦裁判官が仮差止命令を出し、ペンタゴンの措置を一時的にブロックしました。判決では、関連法令(10 USC 3252)はサプライチェーンの保護を目的としており、政府と意見が異なる企業を罰するためのものではないと指摘されています。政府側は控訴する意向を示していました。

ホワイトハウスが態度を軟化させた理由

https://www.nextgov.com/artificial-intelligence/2026/04/white-house-drafting-plans-permit-federal-anthropic-use/413202/

2026年4月29日、Nextgov/FCWの報道によると、ホワイトハウスはサプライチェーンリスク指定を回避して連邦機関がAnthropicのツールを使えるようにするガイダンスを策定中です。AI行政命令にもAnthropicの扱いを含める方向で調整が進んでいます。

トランプ大統領自身も先週のCNBCインタビューで、Anthropicについて「改善に向かっている」「将来的に大いに役立つ」と発言しました。2月の排除指示からわずか2か月で、明らかなトーンの変化です。

この方針転換の背景には、Mythosの存在があると見られています。

Mythosが変えたゲーム

Mythosは、Anthropicが2026年4月に発表したサイバーセキュリティ特化のAIモデルです。汎用モデルとしても高い性能を持ちますが、セキュリティ分野の能力が突出しています。

具体的には、主要なOS・Webブラウザから数千件のゼロデイ脆弱性を自律的に発見しました。FreeBSDでは17年間見つからなかったリモートコード実行の脆弱性を単独で発見・実証しています。

AnthropicはMythosの発表と同時に「Project Glasswing」を立ち上げました。AWS、Apple、Google、Microsoft、NVIDIA、CrowdStrike、Palo Alto Networksなど主要テック企業が参加する脆弱性対策の連合体です。AIを使ったサイバー攻撃が本格化する前に、重要ソフトウェアの脆弱性を先んじて修正することが目的です。Anthropicは最大1億ドルのMythos利用クレジットと400万ドルのOSSセキュリティ団体への寄付を表明しています。

このMythosの能力は、政府にとって無視できないものでした。退役将軍でNSAとサイバー軍を率いたポール・ナカソネ氏は「Anthropicがサプライチェーンリスクだというのは正確ではない」「国の能力の一部が政府に使われていないのは不安だ」と述べています。

自律兵器をめぐる議論の変化

Anthropicとペンタゴンの対立の核心は、自律兵器への利用制限でした。しかし、軍側の姿勢も変化しています。統合参謀本部議長のダン・ケイン氏は先週、自律兵器が「すべての活動において重要かつ不可欠な要素になる」と公言しました。

Anthropicのダリオ・アモデイCEOは、同社の立場を明確にしています。運用上の意思決定に関与する意図はなく、あくまで完全自律型兵器と国内大規模監視という2つの高レベルな利用領域に限定した制限だと説明しています。軍の作戦判断は軍が行うべきだという原則は変わっていません。

今後の見通し

ホワイトハウスのガイダンスが正式に発表されれば、連邦機関はAnthropicのツールを再び調達・利用できるようになります。特にMythosへのアクセスは、政府のサイバーセキュリティ体制にとって大きな意味を持ちます。

ただし、利用制限に関するAnthropicとペンタゴンの根本的な立場の違いが完全に解消されたわけではありません。自律兵器と監視に関する制限をAnthropicがどこまで維持するのか、政府がどこまで譲歩するのかは、まだ明らかになっていません。

AI企業と政府の関係は、技術力と倫理的立場のバランスの上に成り立っています。Anthropicの一件は、そのバランスがどう揺れ動くかを示す先行事例になりそうです。