AIデータセンターの「配線」が、次のボトルネックになっている。
GPUは世代ごとに性能が跳ね上がるが、チップ間やラック間のデータ転送が追いつかなければ、その性能はフルに引き出せない。NvidiaはこのボトルネックをCorningと組んで正面から解決しようとしている。
2026年5月6日、Nvidiaとガラスメーカーのコーニング(Corning)は、北米でAI向け光ファイバー製品の製造能力を大幅拡充する多年にわたる提携を発表した。
この記事でわかること:
- NvidiaとCorningが組んだ提携の規模と内容
- AIデータセンターで銅配線が限界に近づいている理由
- 光ファイバーに切り替えると消費電力が最大20分の1になる仕組み
- Nvidiaが光インターコネクト分野に集中的に投資している全体像
- 今後のAI factory buildoutがどの方向に進むか
https://www.cnbc.com/2026/05/06/nvidia-corning-optical-factories-nc-texas-ai.html
発表の概要:工場3棟、雇用3000人超
今回の提携でCorningは、ノースカロライナ州とテキサス州にNvidia向けの光ファイバー製品専用工場を3棟新設する。完成後、米国内での光通信製品の製造能力は10倍、光ファイバー生産能力は50%以上増加する見通しだ。雇用創出は3000人以上と見込まれている。
資金面では、Nvidiaは$500百万をCorningに直接投資するほか、将来的に最大27億ドル分のCorning株を購入できるワラント(新株予約権)を取得した。合計すると最大32億ドル規模の関与になる。
NvidiaのCEO ジェンスン・ファン(Jensen Huang)は「AIは私たちの時代で最大のインフラ整備を引き起こしている。Corningと共に、知性が光速で動くAIインフラの基盤を築く」とコメントした。
なぜ今、配線が問題になるのか
AIモデルのトレーニングや推論を行うデータセンターでは、何十万台ものGPUが密接に連携して動く。GPUの数が増えるほど、チップ間のデータ転送量は爆発的に増大する。
現在のNvidiaのラックスケールシステムには、約5000本の銅ケーブルが使われている。銅は電気信号でデータを伝えるが、GPUの密度が高まるにつれて2つの問題が顕在化してきた。
ひとつは速度の壁だ。銅ケーブルは距離と信号減衰のトレードオフがあり、大規模システムでの高速通信を妨げる。もうひとつは消費電力だ。電子(electron)を動かすのは、フォトン(photon)を動かすより数倍から10倍以上のエネルギーを必要とする。
CorningのCEO ウェンデル・ウィークス(Wendell Weeks)は「フォトンを動かすことは、電子を動かすより5〜20倍電力消費が少ない」と述べている(CNBC取材、2026年1月)。
解決策:コパッケージド・オプティクス
NvidiaがCorningと共同で実現しようとしているのが「コパッケージド・オプティクス(Co-packaged Optics)」という技術だ。
従来の光ファイバーはラック間やサーバー間をつなぐ「長距離配線」に使われてきた。コパッケージド・オプティクスはこれをさらに進め、光変換プロセスをコンピューターチップのすぐ隣に配置する。銅ケーブルが担ってきたチップ間の短距離通信を光ファイバーに置き換えることで、距離を数ミリまで縮められる。
研究機関Omniaのアナリスト、ブラド・ガラボフ(Vlad Galabov)氏は「光変換プロセスをチップのすぐ隣に持ってくることで、基板を横断する必要がなくなり、消費エネルギーが大幅に下がる」と説明する(CNBC, 2026年5月)。
ファン氏は2025年のGTC(Nvidiaの年次開発者会議)で、コパッケージド・オプティクスをAIインフラ整備の「不可欠な要素」と位置づけていた。NvidiaのAIラックシステム「Vera Rubin」での実装が有力視されている。
Nvidiaの光インターコネクト投資の全体像
今回のCorning提携は単独の動きではない。Nvidiaは2026年3月、光コンポーネントメーカーのCoherentとLumentumの2社に対し、合計40億ドルを投資している。CoherentとLumentumは、光変換に必要なレーザーや光学部品を開発する企業だ。今回のCorningへの最大32億ドルと合わせると、光インターコネクト分野だけで総額70億ドル超の投資を短期間に集中させていることになる。
同じ分野では、MetaもCorningと最大60億ドルの光ケーブル調達契約を2026年1月に結んでいる。この契約を受けてCorningはノースカロライナ州ヒッコリーに工場を新設中で、2026年3月31日に起工式を行った。
競合他社もこの動きを見据えている。BroadcomとMarvellも同様の製品を市場投入しており、Intelもコパッケージド・オプティクスの開発を進めている。
AI工場は「GPU調達」から「配線設計」の時代へ
AIデータセンターの競争が「どのGPUを何台持つか」から「どれだけ効率よくGPU同士をつなぐか」に移行しつつある。コパッケージド・オプティクスはその中心技術として位置づけられており、Nvidiaがサプライチェーンの確保に先手を打った形だ。
Corningは今回の発表と同日に投資家向け説明会を開き、2026年末の年間売上高目標を200億ドル、2030年末には350億ドルと引き上げた。175年の歴史を持つガラスメーカーが、AI工場の基幹部品メーカーとして急速に再定義されている現状を示している。