OpenAIがテスラの一部門になる未来があった。2026年5月7日現在、連邦裁判所で進行中の「Musk v. Altman」裁判で、シボン・ジリスの証言により、これまで知られていなかった計画の全容が明らかになりつつある。
この記事でわかること:
- OpenAI創設時のマスクの真の意図
- 2017〜2018年に存在した「テスラAIラボ」計画の詳細
- アルトマンへの引き抜きオファーの内容
- アンドレイ・カーパシー採用をめぐる証言の矛盾
- 現在のAI業界の勢力図との関係
https://www.wired.com/story/elon-musk-recruit-sam-altman-tesla-ai-lab-trial/
裁判の背景
OpenAIは2015年12月、Elon Musk、Sam Altman、Greg Brockmanらによって非営利研究機関として設立された。マスクは約3,800万ドルを投資し、共同会長を務めた。
マスクの設立時の主張は、AIがGoogleのDeepMindに独占されないよう、安全性を最優先とする中立的な研究機関が必要だというものだった。だが今、その設立から10年が経ち、OpenAIの企業価値は8,520億ドルに達している。
マスクが起こした訴訟の核心は、「オルトマンとブロックマンが非営利の理念を捨て、3,800万ドルの投資を私的な巨大企業の礎に転用した」という主張だ。一方でOpenAI側は、マスクが「2017年にOpenAIを自分の支配下に置けなかったことへの逆恨み」から訴訟を起こしていると反論している。
証言台に立ったシボン・ジリス
2026年5月7日、シボン・ジリスが証人台に立った。2016年からOpenAIのアドバイザーを務め、後に取締役会のメンバーにもなった人物だ。NeuraLinkやTeslaでもマスクの下で働き、マスクとOpenAI経営陣の間の連絡役として機能していた。
法廷で提示されたメールや証言によると、ジリスはOpenAI取締役として在職中に、マスクとの間に4人の子どもをIVFでもうけていた。この関係は機密保持契約のもとで他の取締役には伏せられていた。
「テスラAIラボ」計画の実態
法廷に提出された証拠が示す2017〜2018年の計画は、単なる構想ではなかった。
2017年10〜11月の時点で、テスラはNeurIPS(AI研究者の最大会議)での発表イベントに向けたFAQドラフトを作成していた。そのドキュメントには「このイベントの目的は、テスラが世界トップクラスのAIラボを構築中であることを示すことであり、Google/DeepMindやFacebook AI Researchに匹敵する存在になる」と記されていた。
FAQには「Who?」の欄があり、マスクとアンドレイ・カーパシーの名前が記載されていた。アルトマンの名前も横に「??」の注釈付きで登場し、別のメモには「NeurIPSでの登壇がサムをTeslaAIへコミットさせる口実になりうる」と書かれていた。
オルトマン引き抜きの経緯
マスクがOpenAIの取締役会を去る数ヶ月前の2018年初頭、オルトマンに対してテスラ内の「世界クラスのAIラボ」への参加を打診していた。テスラの取締役会メンバーの席も提示されたとされる。
法廷外でOpenAIの弁護士ウィリアム・サビットはこう述べた。「マスクがオルトマンを取締役に迎えようとした証拠がある。それはOpenAIを腐敗させ、テスラに吸収しようとする試みの一部だった」。
ジリスが2018年2月にマスクへ送ったメールには、Google DeepMindへの対抗手段として複数のシナリオが並んでいた。そのひとつが「オルトマンにテスラAIラボを率いさせる」案であり、別の案には「デミス(Hassabisを指す)を何とか引き込め。テスラに来るか、DeepMindがスピンアウトする形で」とも記されていた。
カーパシー採用をめぐる証言の矛盾
この裁判でもう一点浮かび上がったのが、アンドレイ・カーパシーの採用をめぐる証言の矛盾だ。
マスクは陪審員に対し「カーパシーはOpenAIを自発的に去った」と証言した。しかし2017年6月のジリスのテキストメッセージには、カーパシーがテスラのオファーにサインした際の興奮したやりとりが残っており、テスラ側が積極的に採用工作をかけていた事実を示している。ジリスの弁護士は「マスクが陪審員に述べたこととは直接矛盾する」と指摘した。
現在のAI業界への意味
この裁判が映し出すのは、現在の生成AI時代の起点にある人間関係と利害の複雑さだ。マスクはOpenAIを手放した後、2023年にxAIを設立してGrokを公開した。カーパシーはテスラを経て、AI教育・研究の分野に転じた。オルトマンはOpenAIをChatGPTと共に世界最大のAI企業のひとつへと育てた。
ジリスは2023年2月にOpenAIの取締役を辞任した。それはマスクがxAIの設立を公表し始めた時期と重なる。彼女は友人へのテキストにこう書き残している。「辞めるしかない。父親のやっていることが広まってしまった。子どもの父親が競合企業を起こし、OpenAIから引き抜こうとしている以上、手の打ちようがない」。
Musk v. Altman裁判は現在進行中だ。5月7日以降も証人喚問が続く予定であり、AI業界の歴史に刻まれた人間ドラマの詳細がさらに明らかになる可能性がある。