Eコアをなくすだけで、ゲーム性能は変わるのか。

Intelが組み込み・エッジ向けに開発したCore 9 273PQE(開発コードネーム「Bartlett Lake-S」)が、ドイツのYouTuber「Zed Up」による非公式ベンチマークで注目を集めています。LGA 1700プラットフォームで初めてEコアを持たないCPUであり、12基のPコアのみで構成されています。

この記事でわかること:

  • Bartlett Lake-SとCore i9-14900Kのゲーム性能比較(最大+9.1%)
  • PコアのみのCPUがゲームに有利になる理由
  • このCPUが一般消費者向けに販売されない背景
  • 今回の結果が示すIntelのハイブリッドアーキテクチャへの示唆

Bartlett Lake-SとはIntelの組み込み向け12Pコアプロセッサ

https://www.intel.com/content/www/us/en/products/sku/245724/intel-core-9-processor-273pqe-36m-cache-up-to-5-90-ghz/specifications.html

Bartlett Lake-SはIntelが2026年第1四半期に投入したプロセッサファミリーで、Networking and Edge(NEX)セグメント向けに設計されています。通常のデスクトップ向け製品とは異なり、商用環境で一定の応答性を求める用途が前提です。

LGA 1700プラットフォームのこれまでのCPUはすべてPコアとEコアを組み合わせたハイブリッド設計でした。Bartlett Lake-SのCore 9 273PQEはこの方針を変え、Raptor Lake(第13・14世代)で使われているRaptor Cove PコアをEコアの枠にも充て、合計12Pコアで構成しています。Core i9-14900Kの「8Pコア+16Eコア」と比べると総コア数は少ないですが、すべてのコアが同一スペックです。

主なスペックは以下の通りです。

  • コア/スレッド:12P / 0E / 24スレッド
  • 最大ブーストクロック:5.9 GHz
  • キャッシュ:36 MB
  • TDP:125 W
  • メモリ:DDR5-5600(ECC対応)
  • ソケット:LGA 1700
  • プロセス:Intel 7
  • 参考価格:$589(公式)

Core i9-14900Kとのゲームベンチマーク比較

Zed Upは4時間に及ぶ配信でCore 9 273PQEとCore i9-14900Kを比較しました(参考)。テスト環境はASRock Industrial IMB-X1714マザーボード、メモリはDDR5-5600 CL46のJEDEC定格で、双方とも同条件で計測されています。

タイトル 解像度 Core 9 273PQE Core i9-14900K
Horizon Zero Dawn 720p(上限なし) 310 FPS 294 FPS +5.4%
Monster Hunter Wilds 720p 125.8 FPS 118.8 FPS +5.9%
Shadow of the Tomb Raider 720p 273 FPS 250 FPS +9.1%
Outcast 1.1 4K(CPU処理) 60 FPS 55 FPS +9.1%
Rainbow Six Siege 720p 差なし(最低FPSはi9優位) 約0%
Counter-Strike 2 ランダム計測 325 FPS 330 FPS -1.5%

すべてのゲームで上回るわけではなく、CPUボトルネックが顕著な場面ほど差が出る傾向です。Outcast 1.1はソフトウェアレンダリングのボクセルゲームであり、CPU依存度が特に高いタイトルです。

Pコアのみ設計がゲームに有利になる理由

IntelのハイブリッドCPUでは、OSのスケジューラーがスレッドをPコアとEコアに割り振ります。ゲームエンジンや低レイテンシが求められるスレッドがEコアに割り当てられた場合、応答性が低下することがあります。

Bartlett Lake-SはEコアを持たないため、どのスレッドも同じ性能のPコアで処理されます。この均一性がCPUボトルネックの場面で有利に働き、今回の結果につながっています。一方、EコアはバックグラウンドタスクのCPU使用率と消費電力を下げる役割も担っており、ハイブリッド設計にも明確なメリットがあります。

一般ユーザーには販売されない

Core 9 273PQEは産業向け製品であり、通常の量販店では購入できません。IntelのRobert Hallock氏はBartlett Lake-SをコンシューマーPCに投入する計画はないと明言しています。

今回Zed Upが調達したのは電子部品サプライヤーのMouserからで、価格は725ユーロ(税抜き)。テストに使ったASRock IMB-X1714マザーボードも340ユーロかかり、合計で1,000ユーロを超えます。さらにこのCPUはマイクロコードを持つ専用マザーボードでないと起動しません。Zed UpはASUS PRO WS-W680 ACEに取り付けた際、即座に電源が落ちたと報告しています。オーバークロックも非対応です。

Zed Upは今後Igor’s LabやPC Games HardwareなどのドイツのレビューメディアにCPUとマザーボードのセットを送り、より正確なベンチマークを行う予定です。

ハイブリッドアーキテクチャへの問いかけ

今回のテストはエンジニアリング的な関心から行われたものですが、その結果はIntelの設計判断への問いかけとして読めます。Alder Lakeが登場した2021年から、Pコアのみの構成を求める声はありましたが、IntelはハイブリッドアーキテクチャをデスクトップCPUの軸として維持してきました。

12Pコアが一部のゲームでRaptor Lakeを上回るという事実は、スケジューリングのオーバーヘッドがゲーム性能に影響しているという仮説を補強します。コンシューマー向けPコア専用CPUが存在したならどうだったか——今回のテスト結果はその問いに一つの答えを出しています。