「AIで仕事がなくなる」——この不安、OpenAIのCEO自身が見直しを始めています。一方でゴールドマン・サックスの追跡データは、若手ホワイトカラー層への圧力を示し続けています。

この記事では、Sam Altmanの最新発言とGoldman Sachsの雇用トラッカーを突き合わせ、AIが雇用に与える影響を整理します。

この記事でわかること

  • Altmanが「雇用の大災害」と言わなくなった背景
  • Goldman Sachsが示す月1.1万件規模の雇用減少の意味
  • データセンター建設雇用と若手オフィス職の違い
  • キャリア設計に活かせる読み方

AI雇用論争は「Yes/No」では語れない

2026年5月、Sam Altmanはオーストラリア・シドニーで開かれたCommonwealth Bank of Australia(CBA)のカンファレンスに登壇しました。ここで彼は、ChatGPT公開当初の技術予測は「おおむね正しかった」と認めつつ、社会・経済への影響については「かなり外れていた」と述べています。

具体的には、入門レベルのホワイトカラー職がこれまで以上に削られているはずだ、という自身の見立てを訂正しました。「この点で外れてうれしい(I’m delighted to be wrong about this)」という言葉は、雇用への悲観論を和らげる材料として広く報じられました。

ただしAltmanは「雇用の大災害(jobs apocalypse)は起きていない」と言い切る一方で、リスクが残る可能性にも触れています。雇用の姿は、かつて想定していたものと大きく異なる、という認識です。技術の進化と、それが仕事にどう波及するかは別問題だという点が、議論の出発点になります。

Altmanが訂正した理由——「人間らしさ」が仕事を守った

Altmanは、Slackやメールの返信をAIに任せる実験を行いました。しかし一部は自分で返す運用に戻したと語っています。「人とのやり取りを大切にしている(We really do care about our interactions with people)」という実感が、見通しを変えた要因だと説明しています。

人間同士の接続が仕事の価値になる場面は、生成AI(文章や画像を作り出すAI)だけでは置き換えにくい、という読み方ができます。カスタマーサポートや社内コミュニケーションなど、対人要素が強い業務は、単純な自動化対象になりにくい側面があります。

一方で、TIME誌の報道では、AI業界のIPO(新規株式公開)を控えたタイミングでの発言変更という見方も紹介されています。米国の世論調査ではAIへの否定的感情が強いことも指摘されており、楽観論への転換がナラティブ変更の側面を持つかどうかは、今後の動きを見極める必要があります。

Goldman Sachsが示す数字——月1.1万件の雇用減少

楽観と悲観の間に立つのが、Goldman Sachsの雇用トラッカーです。同社の経済学者は以前、AI関連で米国の純雇用が月あたり約1.6万件減っていると推計していました。最新のトラッカーでは月約1.1万件に縮小しています。

一見、状況は改善したように見えます。しかし背景には、データセンター建設が雇用を押し上げている要因があります。2022年以降、データセンター関連の建設雇用は21.2万件増加し、月あたり約9,000件の新規雇用を生んでいます(参考)。

Goldman Sachs ResearchのJoseph Briggs氏は、データセンター建設に関連する建設雇用が2022年以降21.6万件増えたとも述べています。インフラ投資は雇用を生みますが、マーケティングや文書処理、ソフトウェアの入門職とはスキルセットが異なります。新卒が消えたアナリスト職の代わりに、電気工事や建設現場へ移るのは容易ではありません。施設完成後に建設雇用が減る可能性も指摘されています。

3年間のAI関連レイオフ累計は13.6万件。2026年第1四半期の決算説明会では、Russell 3000指数構成企業の24%が「AI」と「労働」を同時に言及しました。AIは将来の話題ではなく、経営陣が人員・生産性・コストを語る際の現実的な論点になっています。

若手層への影響——「減った数字」の裏側

Goldman Sachsは、AI導入率と30歳未満の失業率の間に、業種横断でわずかな正の相関が見え始めたと報告しています。テック業界の若手失業率は全体と同水準に戻ったため、Gen Z(1990年代後半〜2010年代初頭生まれ)全体の構造変化と断定はしていません。ただし、業種をまたいだシグナルは注視対象です。

Goldman Sachs Researchの分析では、AIが人間の労働を置き換えるリスクが高い職種では雇用が減り、AIが人間の能力を補完する職種では雇用が増える傾向があります。生成AIの生産性向上は、AIを使いこなせるシニア層に恩恵が集中しやすく、同じ作業を担っていたジュニア層の価値を相対的に下げる、という懸念が示されています(参考)。

Goldman Sachs Researchのベースケースでは、AIの広範な導入に10年かかり、その過程で労働者の6〜7%が配置転換を迫られると見ています。米国では全労働時間の25%が自動化可能なタスクに該当する、という試算も公表されています。失業率は0.6ポイント上昇する見込みですが、移行が前倒しになれば経済への影響は大きくなります。

業界内でも見解は割れる

Altmanが悲観論を和らげる中、AnthropicのCEO Dario Amodeiは昨年、5年以内に入門レベルのホワイトカラー職の最大半数が消える可能性があると警告しています。Booking HoldingsのCEO Glenn Fogelは、カスタマーサービスの最下層がAIに取って代わられたと述べています。

実際のリストラも続いています。人材コンサルティング会社Challenger, Gray & Christmasの調査では、2026年4月までにAIを理由に挙げた削減は約5万人に達したと報じられています(参考)。Metaは2026年5月に約8,000人、Intuitは3,000人規模の削減を発表しました。個別の職種がAIに置き換わったかは別として、AI投資のための人件費再配分が進んでいる、という指摘があります。

Yale Budget Labの2026年5月の研究は、2026年3月時点ではAI露出の高い職種で失業率に有意な変化は見られない、と報告しています。Brookings Institutionも、AI能力の急速な向上が自動的に経済全体の恩恵や広範な導入につながっていない、と指摘しています。技術は進んでも、企業の導入は遅れがちだという点が、雇用への影響を見通しにくくしています。

読者が取るべき視点

Altmanの発言は「雇用は大丈夫」と言い切るものではありません。大災害は起きていない一方で、雇用の形は想定と違う、という認識です。Goldman Sachsのデータは、純減のペースが緩んでも、若手ホワイトカラー層への圧力は残る、という警告です。

キャリア設計の観点では、3つの軸で情報を整理すると判断しやすくなります。

置き換えリスクの高い業務

データ入力、定型レポート作成、初級的なコーディングやカスタマーサポートなど、AIが単独で処理できる作業は縮小しやすい領域です。Goldman Sachs Researchは、コンピュータプログラマー、会計監査人、法務・事務アシスタント、カスタマーサービス担当などを高リスク職種として挙げています。

補完型スキルの強化

AIの出力を検証し、顧客やチームと対話し、意思決定に結びつける力は、シニア層ほど評価されやすい傾向があります。Altman自身が「人とのやり取り」を重視に戻した事例は、対人スキルの価値を示す材料です。

インフラ側の雇用創出

データセンター建設、電気工事、空調設備などの技術職は増加傾向にあります。ただしオフィス職からの転職は再教育が必要で、建設ブームが終われば需要が落ちる可能性もあります。単純な「AIが仕事を奪う/生む」の二択ではなく、どの職種カテゴリで何が起きているかを見分けることが重要です。

AIと雇用の話は、Altmanの訂正だけを見て安心する段階にはありません。Goldman Sachsのトラッカーが示す月1.1万件規模の純減、若手層への相関、決算説明会での言及増加は、雇用への影響がすでに経営の議題になっている証拠です。技術予測と社会実装のギャップを理解し、自分の職種が「置き換え」側か「補完」側かを定期的に見直す——それが、不確実な雇用環境で取れる現実的な対応になります。