ロケット会社が、史上最大の新規上場で時価総額1.8兆ドル規模のスタートを切った。
この記事では、2026年6月12日にNasdaqで上場したSpaceX(ティッカー:SPCX)の評価額と、Nvidiaを上回るという壁街の試算の根拠を整理します。
この記事でわかること
- SpaceX IPOの規模と初日の株価動向
- Jim CramerとRon Baronが示す6兆ドル・14兆ドルという試算の論点
- オービタルAIデータセンター計画が評価額にどう結びつくか
- 高い株価倍率が示すリスク
史上最大のIPOが示す評価額の水準
SpaceXは2026年6月12日、1株135ドルで新規上場しました。発行済み株式は約131億株で、上場時の時価総額は約1.77兆ドルです。調達額は750億ドルで、過去最大級のIPOとなりました(参考)。
初日は150ドルで寄り付き、高値176.52ドル、終値は約161ドルでした。時価総額は約2.1兆ドルまで膨らみ、Nvidia(約4.9兆ドル)には届きませんが、上場初日だけで約20%上昇しました。個人投資家の買いも活発で、VandaTrackのデータでは初日の個人投資家の純買いはNvidiaの3.5倍以上だったとCNBCが報じています(参考)。
一方で、売上に対する株価倍率は約92倍です。S&P 500で最も高いPalantir Technologiesが約60倍であるのに対し、SpaceXは上場価格の時点で約5割高い水準でした(参考)。
供給不足が6兆ドル試算を後押しする
Nvidia超えの議論のひとつは、株式の供給と需要の不均衡です。SpaceXの浮動株比率は5%未満と小さく、Nasdaq-100銘柄の多くが80%を超えるのとは対照的です(参考)。
2026年時点のNasdaq-100ルール改定では、大型企業は上場15営業日後から指数採用の対象になり、浮動株10%以上という条件も撤廃されました。指数連動ファンドの買い需要が加わると、流通株が少ない状態で株価が押し上げられる、というのがCNBCのJim Cramerの見立てです。Cramerは時価総額6兆ドル到達の可能性を示しています(参考)。
ただし、CFRA ResearchのKeith Snyder氏はIPO時点の1.77兆ドル評価にも懐疑的で、売却推奨と12カ月目標株価115ドルを出しています。初日の高値176.52ドルに対し、目標は上場価格135ドルを下回ります(参考)。
オービタルAIが14兆ドル試算の柱になる
ヘッジファンドのRon Baron氏は、10年程度で時価総額14兆ドルに達する可能性を示しています。根拠は宇宙軌道上のAIデータセンターです(参考)。
SpaceXは2026年1月、最大100万機の軌道上データセンター衛星についてFCC(連邦通信委員会)に申請しました。上場書類(Form S-1)では、2028年を目処に軌道上AI計算衛星の展開を開始すると記載しています。地上のデータセンターは電力と冷却の制約が大きい一方、軌道上では太陽光発電と放射冷却を使える、とElon Muskは説明しています(参考)。
技術面では、初号機「AI1」は全長20メートル、翼幅70メートルで、ピーク出力150キロワット、平均計算出力120キロワットを想定しています。Nvidia GB300やVera Rubin、Google TPU向けの参照設計も用意する方針です(参考)。
Starlinkは約1万機の衛星を運用中で、データセンター衛星は最大100万機まで拡張する計画です。2026年2月に買収したxAIは、地上最大級のAI学習クラスター「Colossus」を持ち、打ち上げ(Starship)、衛星通信、AI計算を一社で担える点が、Baron氏の成長ストーリーの前提になっています(参考)。
Baron氏は10年以内にStarlinkの売上が1兆ドルに近づくと見ており、それが14兆ドルの時価総額につながる、と述べています。投資家向け説明会では2027年末までに軌道上AI計算の実証を目指す、という話もReuters系報道で伝えられています(参考)。
実現にはまだ大きな課題が残る
オービタルAIは計画段階の要素が大きいです。Starshipは完全再利用の実証が遅れており、年間2500トンから100万トンへの打ち上げ能力拡大は3年程度を想定していますが、現状との差は大きいです(参考)。
収益面でも、SpaceXは2002年の創業以来で累計約413億ドルの赤字を計上しています。2025年の売上は約187億ドルで前年比33%増ですが、GAAPベースの純損失は約50億ドル規模と報じられています。利益を出しているのはStarlink部門が中心です(参考)。
過去の大型IPOも、上場時の時価総額が大きいほど初年度にS&P 500を大きく下回る傾向がありました。Motley Foolの分析では、米国史上最大10件のIPOは上場後、S&P 500に対して平均100ポイント以上のアンダーパフォーマンスを記録した、とされています(参考)。
Googleの「Suncatcher」、Blue Origin、Nvidia支援のStarcloudなど、軌道上データセンターを狙う競合も存在します。AmazonはSpaceXの計画に懐疑的な姿勢を示した報道もあり、実現すれば市場は拡大する一方、勝者は一社に限られない可能性があります(参考)。
投資家が見るべき論点
SpaceXのIPOは、宇宙産業とAIインフラが一つの企業価値に束ねられた事例です。供給不足による株価上昇、軌道上AIという長期ビジョン、そして90倍超の売上倍率という高い期待値が同時に存在します。
Nvidia超えの試算は、浮動株の少なさと、100万機規模の軌道上計算という成長ストーリーに依拠しています。一方、損失の継続と大型IPOの過去実績は、初年度の株価調整リスクを示唆しています。AI・宇宙・半導体の交差点を追う読者にとって、SPCXは今後の指数採用、Starshipの打ち上げ実績、軌道上AIの実証スケジュールが、評価額の分岐点になります。