6月半ば、ブロックチェーンのMantleが「配信レイヤー(distribution layer)」という立ち位置を、一度に3つの潮流で示しました。トークン化株式、AIネイティブの予測市場、エージェント経済の基盤が、同じネットワーク上で動き始めています。
この記事では、2026年6月にMantleで起きた動きの全体像と、それぞれがどうつながるのかを整理します。
- SpaceXのトークン化株式SPCXxが、伝統市場のIPOと同日にオンチェーン取引を開始した理由
- AIネイティブ予測市場InsightXが担う「InfoFi」とは何か
- ERC-8004やx402など、エージェント経済の基盤がQ1からどう整備されたか
- Mantleが「配信レイヤー」と呼ぶ戦略の中身
Mantleが6月に示した「3つの収束」
2026年6月14日、Mantle公式のXアカウントは、6月の進展をまとめる投稿を公開しました。投稿では、史上最大規模のIPOに伴うトークン化株式、予測市場、エージェント経済(agentic economy)が、いずれも配信レイヤーへ収束していると述べています。
ここでいう配信レイヤーとは、伝統金融(TradFi)の資産や流動性を、オンチェーンの市場へ届ける中継地点という意味です。MantleはEthereumのレイヤー2(L2)として、機関投資家向けの決済基盤と、一般ユーザーが触れるDeFi(分散型金融)を同一ネットワーク上でつなぐことを掲げています。
6月の動きは単発の機能追加ではなく、RWA(Real World Assets、現実資産のトークン化)とAIエージェントの両方を同じ土台で扱う方針の延長線上にあります。
トークン化株式:SPCXxと史上最大IPO
2026年6月12日、MantleはxStocksが発行するトークン化SpaceX株式「SPCXx」の上場を発表しました。SPCXxは、SpaceXが伝統市場でIPO(新規株式公開)を完了した当日から、Mantle上で24時間365日のオンチェーン取引と流動性提供が可能になるとしています。
Mantleの発表では、SpaceXのIPOを「史上最大規模のIPO」と位置づけています。トークン化版が伝統市場の上場と遅延なく同時に届く点が、今回の注目ポイントです。従来の株式市場は取引時間に制限がありますが、xStocksのトークンはオンチェーンでいつでも売買できる設計です。
xStocksは、米国の上場株式やETFを1対1で裏付けとするトークン化トラッカー証券です。2025年6月の提供開始以降、複数のブロックチェーンで取引量を積み上げてきました。Mantleでは2026年4月にxStocksの統合が始まり、TSLAxやNVDAxなど主要銘柄の取引が可能になっています。
SPCXxの取引は、Mantleエコシステムの2つの主要会場で行われます。
Fluxionは、xStocksのAtomic RFQ(リクエスト・フォー・クォート)を使った発行者直接のミントに対応します。AMM(自動マーケットメーカー)のスリッページを避け、原資産の市場価格に沿った執行を目指す仕組みです。
Merchant Moeは、リテール向けの流動性ハブとして機能します。SPCXx上場に合わせて「Project X」を開始し、最大10万MNTの報酬を流動性提供者に配布します。最初の対象プールはSPCXx/USDT0です。今後の高需要銘柄のトークン化上場にも、同様のインセンティブを展開する予定です。
発行はxStocks、執行はFluxion、流動性はMerchant Moeという分担が、Mantleが掲げる配信レイヤーの具体像として示されています。
予測市場:InsightXとInfoFi
同じ6月12日、MantleはAIネイティブの予測市場インフラ「InsightX」の立ち上げも発表しました。InsightXは、暗号資産、マクロ経済、スポーツ大会、現実世界の出来事などに関する予測を、検証可能なオンチェーンポジションとして取引できる仕組みです。
InsightXが掲げる「InfoFi」は、情報(予測・判断)と資本を同一ネットワーク上で動かす層を指します。従来の予測市場では、市場が開いている間も資本が遊休しがちです。InsightXは、流動性提供やプロトコル手数料、ステーブルコイン戦略、担保資産、AIによるマーケットメイクなど複数の経路で、市場期間中も利回りを得られる設計を謳っています。
アーキテクチャは3層構成です。最下層の決済・検証層にMantleが入り、高速な執行と透明な決済を担います。その上に予測市場のロジック層、さらにAIインテリジェンス層が重なる形です。2026年ワールドカップを控えたタイミングでの提供開始が示されており、スポーツ予測も主要ユースケースの一つです。
InsightXのCEOは、将来の金融市場は資産の市場だけでなく情報の市場にもなると述べています。Mantle側も、RWAで現実の価値が流れる場所に、現実の情報が続くのは自然な進化だと評価しています。
エージェント経済:Q1に整備された基盤
トークン化株式と予測市場が6月に話題を集める一方、エージェント経済の土台は2026年第1四半期(Q1)にすでに揃っていました。MantleのQ1エコシステム報告(Messari調査に基づく)によると、RWAのTVL(Total Value Locked、ロックされた資産総額)は前四半期比27.4%増の2億4,750万ドルに達しました。
同じQ1に、自律エージェント向けの4要素がリリースされています。
- ERC-8004:エージェントの身元・評判・検証をオンチェーンで管理する標準。身元レジストリ、評判レジストリ、検証レジストリの3つで構成されます
- AI Agent Skills:エージェントが実行できる能力の定義
- Agent Scaffold:DeFi操作をエージェントから呼び出す開発フレームワーク。Merchant Moe、Agni Finance、Fluxion、Aave V3などと連携します
- x402:HTTPネイティブの決済プロトコル。エージェントがAPI利用料などを自律的に支払う用途を想定しています
ERC-8004は2026年2月にMantleメインネットへ展開済みです。エージェント同士が身元を確認し、評判を引き継ぎながら取引する「エージェントのインターネット」を目指す設計です。x402と組み合わせることで、発見から支払い、評価フィードバックまでを人の介入なしに回すループが可能になります。
Messariのアナリストは、多くのL2がスループットや開発者向けツールで競う中、Mantleは資産の配信で差別化していると分析しています。機関投資家向けのRWA配信と、エージェント向けインフラが同一四半期に稼働した点が、戦略の核心だと指摘されています(参考)。
配信レイヤー戦略が意味すること
3つの潮流を並べると、Mantleの狙いが見えてきます。
伝統金融の資産(トークン化株式)をオンチェーンへ届け、情報(予測市場)を取引可能な資産に変換し、AIエージェントがそれらを自律的に操作する基盤を同一チェーン上に置く。これが「配信レイヤー」という自己定義の実装です。
具体的な接点も存在します。Agent ScaffoldはFluxionやMerchant Moeでのスワップや流動性提供をエージェントから呼び出せます。InsightXはエージェントネイティブなアプリの拡大を狙っています。SPCXxのように大型IPO銘柄がオンチェーンに載るたびに、人間のトレーダーとエージェントの両方が同じ市場を使う場面が増える可能性があります。
Mantleはコミュニティ保有資産が40億ドル超、パートナーにEthena USDeやOndo USDY、OP-Succinctなどを挙げています。Bybitとの連携により、xStocksの入出金ゲートウェイも確保しています。
注目すべき点と留意点
今回の動きで押さえるべきは、3領域が同時期に一つのネットワークへ集まったことです。トークン化株式は機関投資家とリテールの両方に訴求し、予測市場は情報取引の新しい形を試み、エージェント基盤はその先の自律取引を見据えています。
一方で注意も必要です。SPCXxの「史上最大IPO」という表現はMantleの発表に基づくものであり、第三者の独立検証ではありません。トークン化株式は裏付け資産の管理や規制の枠組みに依存するため、利用可能な地域や条件は銘柄ごとに異なります。予測市場やエージェントの自律決済も、法制度やセキュリティの議論が続く領域です。
それでも、AI・金融・Web3の交差点で「資産」「情報」「自律エージェント」を一つのL2に載せようとする試みは、2026年上半期のブロックチェーン業界を象徴する動きの一つと言えます。今後、SPCXxに続くトークン化IPO銘柄の上場や、InsightXでの実際の取引量、エージェント基盤を使ったアプリの登場が、配信レイヤー戦略の成否を測る指標になるでしょう。