6Gの電波帯は、従来のシリコンだけでは扱いきれない高周波数に達します。ベルギーの半導体研究機関IMEC(アイメック)は2026年6月11日、300mmシリコン上にIII-V系化合物半導体のchipletを載せるRFシリコンインタポーザ基板を、システムレベルで統合できる段階まで引き上げたと発表しました。
この記事では、今回追加された3つの技術要素と、325GHzまでの低損失性能が6Gやデータセンターにどう効くかを整理します。
この記事でわかること
- IMECが新たに追加した3つの技術(MIMCAP、パッシブモデル、レーザー接合)の役割
- 140GHzから325GHzへ性能を伸ばしてきた経緯
- NVIDIAのAI-RAN構想との接点と、量産化までの距離
6G半導体が直面する「材料とコスト」の壁
6Gの無線機器は、ミリ波(30〜100GHz)からサブテラヘルツ(100〜300GHz)帯で動く必要があります。通常のシリコンCMOSだけでは、高周波での増幅や出力に限界があり、インディウムリン(InP)、ガリウムヒ素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)といったIII-V系化合物半導体が不可欠です。
課題は、III-V材料が小口径の高価なウェハで作られる点です。300mmシリコン量産ラインのスケールメリットをそのまま活かせません。IMECは「chiplet型ヘテロジニアス統合」でこの矛盾を解きます。性能が必要な部分だけIII-V chipletに任せ、デジタル配線やパッシブ素子はRFシリコンインタポーザ側に載せる方式です。インタポーザとは、複数のチップを中継・接続するシリコン基板のことです。
325GHzまで低損失を維持する基板の進化
IMECの300mm RFシリコンインタポーザ基板は、段階的に性能を伸ばしてきました。2024年には140GHz帯でInP chipletを載せ、挿入損失(信号が配線を通る際に弱まる度合い)をほぼ無視できるレベルまで下げています。2025年5月のIEEE ECTC発表では、325GHzまで0.73dB/mmという低損失を記録しました。
デジタル配線は1µm/1µmの高密度Cu配線、RF信号路は低損失ポリマー上の伝送線、フリップチップ接合ピッチは40µm(20µmへの縮小も進行中)です。InPに限らずSiGeやGaAsなど複数のIII-V chipletを、デジタル・RF CMOSと同一キャリア上で組み合わせられる点が特徴です。
2026年6月に追加された3つの技術
2026年6月の発表では、基板そのものの低損失性能に加え、量産に直結する3要素が揃いました。
高密度MIMCAPでchipletを小型化
III-V chiplet上に置くと面積を食うデカップリングコンデンサを、シリコンインタポーザ側へ移すのが第一の柱です。IMECは高誘電率のアルミニウム・ハフニウム酸化物と3D酸化物スタッド構造を組み合わせたMIMCAP(金属-絶縁体-金属コンデンサ)を開発し、III-Vチップ上の典型値比で10〜100倍の静電容量密度を実現しました。chiplet面積とコストの両方を下げ、電源供給の安定性も改善します。
サブテラヘルツ帯まで使える設計モデル
第二の柱は、RFインタポーザ上のパッシブ素子を300GHz付近まで予測できるモデリングフレームワークです。配線形状を変えるたびに再シミュレーションや再測定を繰り返す必要がなく、開発時間を短縮します。現時点では伝送線性能が中心ですが、インダクタやMIMCAPへ拡張中です。
レーザー接合で温度に弱い層を守る
第三の柱は、III-V chipletを載せるレーザーアシスト接合です。パッシブ素子を多く載せた複雑なスタック上でも、温度に敏感な層を傷つけずに組み立てられます。位置合わせ精度は600nm未満、43デバイス全体で回転ずれ0.05°未満。110〜170GHz帯で反射が-15dB以下に抑えられ、組み立て後もRF性能が保たれることを確認しています。
NVIDIAの6G構想と接する理由
IMECの基板技術は、通信インフラのソフトウェア化とAI化が進む文脈でも注目されます。NVIDIAは2025年10月にノキアへ10億ドルを投資し、2026年3月のMobile World Congressではエリクソン、ドイツテレコム、T-Mobile、SKテレコム、ソフトバンクなどと「AIネイティブ」な6G基盤の構築を掲げました。
ジェンスン・フアンCEOは、6G時代の無線アクセスネットワーク(RAN)がAI推論を担うコンピュータとして動くと述べています。ソフトウェア側のAI-RANが進むほど、高周波RFチップを安く大量に作れるかがボトルネックになります。IMECの300mmシリコン基盤は、まさにその製造コスト問題に向けた回答です。
The Next Webの報道では、325GHzの低損失性能が6G初期帯域だけでなく、超高速短距離リンク向けサブテラヘルツ研究にも触れていると整理されています(参考)。
量産化までの距離
IMEC自身が次の目標として掲げるのは、テクノロジー・レディネス(TRL)の向上と低量産製造への対応です。6Gハードウェアがすぐ市場に出る段階ではありません。半導体業界では研究突破から商用チップまで5〜7年かかるのが通例で、6Gの標準化も2028年以降が目安とされています。
IMECはTSMC、Samsung、Intelを含む600社超のパートナーと共同開発する非営利研究機関です。成果は産業界へ移管され、最終的な製品化は各社が担います。今回の発表は、325GHz帯の性能実証から、MIMCAP・設計ツール・接合工程までを一つの基板に束ねた点に意味があります。6GとAIインフラの両方で、高周波chipletを「作れる」から「量産できる」へ近づく一歩です。