買収で注目度を買っても、AI企業にはなれない。LinkedIn共同創業者のReid Hoffmanが2026年6月のポッドキャストで、こう切り込んだ。
この記事では、Hoffmanが語ったAI業界の勝ち筋と落とし穴を整理します。
この記事でわかること
- xAIとSpaceXのAI戦略をHoffmanがどう評価したか
- OpenAIとAnthropicが共存できるとする理由
- Anthropic規制と若年層雇用への影響
https://fortune.com/2026/06/24/reid-hoffman-spacex-musk-openai-anthropic-gen-z-mistake/
買収では「AI企業」になれない
HoffmanはRana el Kaliouby氏のポッドキャスト「Pioneers of AI」で、Elon Musk率いるSpaceXとxAIへの批判を前面に出した。彼はOpenAIとAnthropicの両方に投資しており、発言には利害の偏りがある。ただし、PayPal共同創業者としてMicrosoft取締役を10年務めた人物の業界観として、投資家が何を恐れているかを読み解く材料になる。
Hoffmanの主張の核は単純だ。企業を買っても、その企業そのものにはならない。SpaceXは2026年6月12日に上場し、AIインフラを成長の柱として売り出した。4日後の6月16日には、AIコーディングツールCursorの開発元Anysphereを600億ドルの全株式交換で買収すると発表した(参考)。
Hoffmanはこの動きを、2000年代初頭のBarry Diller氏によるIAC型の買収合戦に例えた。市場価値を使ってAI企業を次々に買い、注目度だけを確保しようとしている、という見方だ。「市場価値でAI企業を買い、注目度を買いに行く」と彼は語った。
GPUを貸し出す事業については、さらに辛辣だ。「高額なCoreWeaveだ。分かる。でもAI企業ではない」と述べた。CoreWeaveはAI向けGPUクラウドを提供する企業で、計算資源の貸し出しが主業だ。Hoffmanの言い分では、SpaceXはAnthropicなどにインフラを提供する一方で、自社が基盤モデルを築けているわけではない。
xAIは「完全な崩壊」か
xAIへの評価はさらに厳しい。Hoffmanは同社を「基盤モデル構築における完全な崩壊(complete train wreck)」と呼んだ。これはMusk自身が認めた表現を引用したものだと、Fortuneの報道は伝えている(参考)。
数字は批判を補強する。xAIは2023年にMuskと11人の共同創業者で立ち上がったが、2026年春までにオリジナルメンバーは全員離脱した。2月にTony Wu氏が辞任し、3月末には最後の2人であるManuel Kroiss氏とRoss Nordeen氏も去った(参考)。Muskは同社が最初から正しく組まれておらず、基礎から作り直す必要があると認めている。
Grokのベンチマークも、AnthropicやOpenAIのモデルに後れを取り続けている。HoffmanはxAIが「3回目の再出発」にあると指摘した。人材の流出と性能面の遅れが重なり、「買収でカバーできる問題」ではない、というのが彼の論旨だ。
OpenAIとAnthropicは共存できる
一方で、Hoffmanはゼロサムの勝負にはしない。OpenAIとAnthropicはどちらも大きく勝てる余地があると語った。
役割分担のイメージはこうだ。Anthropicはコード生成に強く、法務やデザイン領域へ広げている。OpenAIはChatGPTで消費者向けの検索レイヤーを握り、Codexの実力はまだ十分に語られていない、とHoffmanは評価した。AIが電気のように普及するなら、この2社は主要なインフラ提供者になる、という見立てだ。
ただし、Cursorへの疑問も投げかけた。SpaceXが600億ドルで買おうとしているツールは、すでにピークを過ぎつつあるのではないか、とだ。2026年初頭からClaude CodeやCodexの台頭で、スタンドアロンのAIコーディングIDEの優位性は揺らいでいる。衰退しつつある資産を買っても、AIナラティブは強まらない、という皮肉な構図になる。
規制の不公平さがIPOリスクになる
Hoffmanが最も強い言葉を使ったのは、米政府のAnthropicへの対応だ。2026年6月11日、輸出管理当局はFable 5とMythos 5へのアクセス停止を命じた。きっかけはAmazonのAndy Jassy氏がFable 5のジェイルブレイク(安全制限の回避)を当局に報告したことだと、Fortuneは報じている。
Anthropicは6月12日、外国人(米国内にいる者を含む)のアクセスを遮断するよう命じられたと発表し、国籍をリアルタイムで判別できないため、全ユーザー向けに両モデルを停止した(参考)。サイバーセキュリティの専門家の間では、対応が過剰だという批判が出ている。
Hoffmanはこの対応を「恣意的で一貫性のない」「非常に非効率」と評した。OpenAIには同等の制限が課されていない点が、不公平だと見ている。Anthropicが史上最大級のAI関連IPOを控える中、予測不能な規制介入は新たな投資リスクになる。
若年層雇用への打撃
技術競争だけではない。Hoffmanは若年層の雇用環境にも言及した。
Fortuneの報道によると、大学院修了者の失業率は2019年の3.6%から2026年の5.6%に上昇した。初級ポジションの35%が3年以上の経験を要求するようになったという。Goldman SachsのAIトラッカーは、2026年中期時点でAIが月あたり約1万1000件の米国純雇用を削っていると推計している。知識労働の初級職が特に打撃を受けている。
Hoffmanは若者に対し、AIを脅威ではなく機会として捉え、「主体性のマインドセット」を持つよう助言した。ただし、業界の熱狂的な擁護者たちが「本物の開発者」と「インフラの見せかけ」を峻別し始めた事実自体が、市場の成熟を示している。
統合はこれからではなく、すでに進行中
Hoffmanの発言を束ねると、2026年夏のAI業界は3つの圧力が同時にかかっている。
第一に、技術力の証明。買収とGPU貸し出しだけでは、基盤モデル企業にはなれない。第二に、勝者の選別。OpenAIとAnthropicの二強共存は可能でも、それ以外のプレイヤーは厳しい土俵に立たされる。第三に、規制と雇用。モデルの安全性を巡る政府介入と、初級職の消失が、投資判断とキャリア選択の両方に不確実性を加えている。
「統合が来る」という予測は、もはや未来形ではない。SpaceXのIPOとCursor買収、xAIの人材流出、Anthropicのモデル停止が、同じ週に重なった2026年6月が、その証左だ。