GitHubに依存せず、自分のノードでリポジトリを運用しながらAIエージェントと同じワークフローで協業する——そんな開発基盤を掲げるのが、分散型Gitネットワーク「Gitlawb」です。

この記事では、Gitlawbがどんな課題を解こうとしているのか、Rustとlibp2pを軸にした技術構成、そして開発者が今すぐ試せる手順までを整理します。

この記事でわかること

  • Gitlawbが目指す「エージェント時代のセルフソブリン開発」とは何か
  • DID・IPFS・libp2p・Arweaveを組み合わせた3層ストレージの仕組み
  • 公開ノードへの接続からリポジトリ作成・pushまでの流れ
  • GitHubや従来のセルフホストGitとの違い

https://gitlawb.com/

Gitlawbとは何か

Gitlawbは、開発者とAIエージェントが同じGitワークフローでコードを公開・レビュー・マージできる分散型Gitネットワークです。現行バージョンはv0.1.0-alphaで、公式サイトでは「Decentralized Git Network for AI Agents and Developers」と位置づけられています。

2026年6月、Gitlawb公式アカウントはXで「git self-hosting」「分散型インフラ」「Rust」「libp2p」「Arweave」に関心のある開発者コミュニティへの呼びかけを行い、エージェントファーストでセルフソブリンな開発の未来を掲げました。単なるGitホスティングの代替ではなく、AIエージェントが第一級の参加者として動く基盤づくりが明示されています。

従来のGitホスティングが抱える課題

GitHubやGitLabのような集中型ホスティングは、使いやすさの代わりに単一の運営主体への依存が生まれます。サービス障害やアカウント停止のリスクは、セルフホスト型のGiteaやForgejoでも「自分でサーバーを維持する」負担は残ります。

一方、AIコーディングエージェントの普及で「エージェントがリポジトリを作成し、PRを出し、CIを回す」流れが現実味を帯びてきました。従来のGitホスティングは人間向けのOAuthやパスワード認証を前提としており、エージェントが署名ベースで自律的に操作する設計とは噛み合いにくい部分があります。

Gitlawbはこの2点——集中型インフラへの依存と、エージェント非対応の認証モデル——を同時に解くことを狙っています。

技術構成:Rust・libp2p・IPFS・Arweave

GitlawbのコアはRust製です。ノードデーモンはAxumによるHTTPサーバーとrust-libp2pを組み合わせ、Gitのsmart HTTPでclone・fetch・pushを処理します。オープンソースのノード実装はGitHubのGitlawb/nodeリポジトリで公開されており、MIT/Apache-2.0デュアルライセンスです。

暗号学的アイデンティティ(DID)

Gitlawbではアカウント登録やパスワードは不要です。ユーザーとエージェントはEd25519の鍵ペアで識別され、did:key:z6Mk...形式のDID(分散型識別子)がそのままIDになります。書き込みリクエストはRFC 9421のHTTP Signaturesで署名され、UCAN(User Controlled Authorization Network)トークンで権限を委譲します。

libp2pによるピア同期

ノード間の通信はlibp2pが担います。Kademlia DHTでピアを発見し、GossipsubでコミットやPR更新などのイベントを伝播します。公式サイトによると、1つのノードにpushすると30秒以内に他のピアへミラーリングされる設計です。ブランチの先端は署名付きref-update証明書で管理され、中央サーバーが「mainがどこを指すか」を一方的に決める構造ではありません。

3層ストレージ

リポジトリのオブジェクトは3段階で保持されます。

  • ホット層(IPFS):アクティブなリポジトリと直近のコミット。pushのたびにPinata経由でIPFSへピン留め
  • ウォーム層(Filecoin):30日以上アクセスのないリポジトリをディールベースで永続化(ロードマップ上は構築中)
  • パーマネント層(Arweave):リポジトリ状態のMerkleルートをアンカーとして記録。全コンテンツではなく検証用の証明を残す

GitオブジェクトのSHA-256ハッシュはIPFSのCID(コンテンツ識別子)に対応づけられ、ブランチ参照はIPNS風の可変ポインタとして追跡されます。

AIエージェント向けのプロトコル対応

Gitlawbは人間向けCLIだけでなく、エージェント向けのインターフェースを標準装備しています。

各ノードはMCP(Model Context Protocol)サーバーを公開し、リポジトリ作成・PR操作・issue管理など25のツールを提供します。Claude Codeではgl mcp serveをMCPサーバーとして登録するだけで、シェルコマンドなしにGit操作が可能です。加えてJSON-LD/Hydraベースの自己記述型REST APIと、GraphQLサブスクリプションによるリアルタイムイベント配信にも対応しています。

エージェントにはDIDと信頼スコアが付与され、リポジトリの所有やPRレビュー、他エージェントへのタスク委譲が人間と同じAPI面で行える設計です。

ネットワークの現状

2026年6月時点で、公式サイトのライブネットワークダッシュボードには3ノード(米国2、日本1)がオンラインと表示されています。クラスタ全体でリポジトリ数は10,488、登録エージェント数は32,977、レプリケーション率は64%と報告されています。主要エントリーポイントはnode.gitlawb.comで、HTTPとgit smart-HTTPはポート7545、libp2pのgossipはポート7546で待ち受けます。

6月7日にはフィリピン・マニラ向けの次世代ノードがAWS上で稼働開始したとも発表されており、Terraformによるプロビジョニング、RDS Postgres、暗号化EBS、CloudWatchアラートを備えた構成が公開されています。セルフホスト派が自分のインフラでノードを立て、ネットワークに参加する方向性が具体化しつつあります。

使い方の概要

https://gitlawb.com/start

インストールは1コマンドで完了します。macOS(arm64/x86_64)とLinux(x86_64/arm64)向けの静的バイナリが配布されており、Rustツールチェーンは不要です。

curl -fsSL https://gitlawb.com/install.sh | sh

手順の流れは次のとおりです。

  1. gl identity newでEd25519鍵ペアを生成
  2. export GITLAWB_NODE=https://node.gitlawb.comで公開ノードを指定
  3. gl registerでDIDをネットワークに登録
  4. gl repo createでリポジトリを作成
  5. git clone gitlawb://<DID>/<repo名>でcloneし、通常のgitコマンドでcommit・push

git-remote-gitlawbgitlawb://スキームのトランスポートを処理するため、既存のGitワークフローを大きく変えずに移行できます。Docker Composeを使えば、ローカルにPostgres付きのノードをlocalhost:7545で起動することも可能です。

GitHubやGiteaとの違い

観点 Gitlawb GitHub / Gitea
認証 DID + 署名(パスワード不要) アカウント/OAuth/トークン
ストレージ IPFS + Filecoin + Arweave 単一サーバーまたは自己管理ディスク
同期 libp2p gossipでマルチノード複製 中央サーバーまたは手動ミラー
エージェント MCP標準対応、25ツール APIはあるがエージェント特化ではない
ライセンス ノードソフトウェアはOSS GitHubはプロプライエタリ、GiteaはOSS

Gitlawbは「分散型GitHub + 署名ベースのエージェントワークフロー + CDN的なアプリ配信」という長期ビジョンを掲げています。現時点ではv0.1.0-alphaであり、プライベートリポジトリの読み取り制御やUCANの完全な検証など、セキュリティ面では意図的に段階的リリースが進行中です。公開ノードは事実上パブリックインフラとして扱う必要があります。

ロードマップと今後

公式ロードマップでは、基盤(DID・smart HTTP・transport helper)、分散化(libp2p・IPFS pinning・マルチノード同期)、エージェントID(MCP・信頼スコア)はすでに出荷済みとされています。協業機能(issue・PR・GraphQLサブスクリプション)は一部稼働中で、永続化層(Filecoin・Arweaveアンカー・Base L2上のスマートコントラクト)は構築フェーズに入っています。

オープンソースのハーネス「OpenClaude」も同時に公開されており、PlaygroundやSpawn向けのランタイム基盤として開発が進んでいます。エージェントがコードを生成し、そのまま分散ネットワークへpushする一連の流れを、開発者が今日から試せる段階に来ています。

分散型インフラ、Rust、libp2p、Arweaveに関心がある開発者にとって、Gitlawbは「セルフホスト可能なGitノード」と「エージェントネイティブな協業プロトコル」を一つのスタックにまとめた試みと言えます。完全な分散型GitHubの到達には道のりがありますが、アルファ版として動くネットワークとOSSノード実装は、すでに手を動かして検証できる状態です。