太陽フレアのエネルギーは、どこでどのように粒子を加速しているのか。長年の未解決課題に、南アフリカの電波望遠鏡アレイMeerKATが初めて答えを示しました。

この記事では、2026年2月に発表された太陽フレアの高忠実度イメージング分光の成果を整理します。

この記事でわかること

  • MeerKATが1回のフレアから3つの電子加速地点を同時に捉えた理由
  • 電波・X線・紫外線を組み合わせた多波長解析の仕組み
  • 次世代電波望遠鏡SKAへの観測手法の示唆

https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ae42c1

太陽フレア観測が抱えていた制約

太陽フレアは、太陽コロナ(太陽の大気層)で起きる最も激しい爆発現象です。大量のエネルギーが短時間で放出され、電子などの荷電粒子が加速されます。宇宙天気予報の精度向上にも直結するため、加速の場所と仕組みの解明は太陽物理学の中心課題です。

電波観測は、熱的・非熱的な電子の動きを追ううえで有効な手段です。一方で、従来の電波干渉計(複数のアンテナで電波を受信し、画像を合成する装置)には限界がありました。明るく急激に変化するコヒーレントバースト(電波が位相を揃えて増幅される現象)と、かすかで広がった非コヒーレント放射を、同じフレア内で同時に高解像度で捉えることは困難でした。

MeerKATがもたらした動的レンジ1000超の観測

MeerKATは、南アフリカ北部ケープ州に建設された64面アンテナ(口径13.5メートル)からなる電波干渉計アレイです。次世代電波望遠鏡SKA(Square Kilometre Array)の中周波帯コンポーネントSKA-Midの先行機として位置づけられています。

研究チームは、2024年12月29日11時20分頃(世界時)に発生したGOES M1.3級の太陽フレアを対象に観測しました。活動領域AR 13936の北西部で起きたこのフレアは、同日朝に発生したX1.1級フレアの減衰相に重なっていました。観測周波数はL帯の0.856〜1.712ギガヘルツ、時間分解能は2秒です。

論文(The Astrophysical Journal Letters、2026年2月20日掲載)によると、得られた画像の動的レンジ(最も明るい信号とノイズの比)は1000を超え、ピーク時には1482に達しました。これは、デシメートル波(10〜30センチメートル波長帯)の太陽観測として前例のない水準です。従来のカール・G・ジャンスキー甚大電波望遠鏡(VLA)を用いた研究では、動的レンジは100未満にとどまることが多かったと報告されています。

3つの電子加速地点が示す多重接続の可能性

MeerKATの高忠実度イメージング分光(周波数ごとに空間分布を同時に可視化する手法)により、フレア領域内に3つのコヒーレント電波源が確認されました。

Source 1は南部ループ系の足元付近に位置し、ピーク輝度温度は約6200万ケルビンです。Source 2は3つの中で最も明るく、約11億ケルビンに達します。ハードX線(高エネルギーX線)源に近い位置にあり、Advanced Space-based Solar Observatory(ASO-S)搭載のHXI(14〜40キロ電子ボルト)やSolar Orbiter搭載のSTIX(10〜15キロ電子ボルト)の観測結果とも一致します。Source 3は別のコロナループ上にあり、最大約1億7000万ケルビンです。

3源は空間的に分離しており、周波数帯や時間軸上でも滑らかな連続性を示しません。同一の電子集団が伝播した結果ではなく、異なる加速電子集団に由来する可能性が高いと研究チームは指摘しています。磁場構造の再構成解析(NLFFF外挿)と組み合わせると、各源は異なるコロナループに対応していることが示唆されます。断片化した磁気リコネクション(磁力線が切断・再接続してエネルギーを解放する過程)が、複数地点で同時に進行したシナリオと整合します。

EUVでは見えない高温プラズマの検出

明るいコヒーレントバースト以外にも、MeerKATはかすかな非コヒーレント放射を捉えました。この放射は、Solar Dynamics Observatory(SDO)のAIA(大気成像装置)131オングストローム画像で見えるループ構造の外側まで広がっています。

非コヒーレント放射は、低密度で高温のプラズマから生じる自由自由放射(荷電粒子同士の衝突で生じる電波)と考えられます。発光度(単位体積あたりの放射強度)が小さいため、極端紫外線(EUV)観測では検出が難しい領域です。MeerKATの高感度と広い動的レンジがなければ見逃されていた成分です。

この結果は、フレアのエネルギー配分の見積もりに影響します。EUV観測だけに頼ると、希薄な高温プラズマに蓄えられた熱エネルギーを過小評価する恐れがあります。バースト相では輝度温度が上昇し、30秒未満のスケールで加熱と冷却が進む様子も記録されています。

多波長データとの照合が信頼性を高めた

今回の解析は、電波データ単体では完結していません。同時刻のハードX線画像で電子のブレムスストラールング放射(加速電子がイオンと衝突して生じるX線)を確認し、SDOの磁場データから3次元コロナ磁場を再構成しました。フランスのORFEES(太陽フレア電波観測装置)のダイナミックスペクトル(時間と周波数の2次元スペクトル)も、0.1秒の時間分解能で補完データとして活用されています。

電波源が異なる磁場構造内に位置することを、複数の観測手段で相互検証できた点が、従来の電波フレア研究との大きな違いです。投影効果や画像処理のアーティファクト(人工的なノイズ)ではなく、物理的に独立した加速領域である可能性を裏付けています。

SKA時代の太陽観測への道筋

MeerKATはもともと銀河やパルサー観測向けに設計された施設です。太陽は主ビームの外に向けて観測する運用が基本で、今回のフレア観測でも太陽中心から2.7度離れた位置を指向していました。それでもフレアの明るさとMeerKATの感度が、高精度イメージング分光を可能にしました。

研究チームは、今回の成果がSKA-Midによる将来の太陽フレア研究の基盤になると述べています。SKAは最大150キロメートルのベースラインを持ち、より高い空間分解能が期待されます。周波数帯の拡大と組み合わせれば、非コヒーレント放射のスペクトル解析精度も向上する見込みです。

太陽フレアの粒子加速は、単一地点の爆発では説明しきれない側面が浮かび上がりつつあります。MeerKATが示した「見える化」の手法は、宇宙天気の予測精度を高める観測インフラの進化を象徴する成果です。