AIエージェントに「財布」を渡す話が、具体の実装に入りました。

Nous Researchは2026年6月15日、Stripeとの提携により、オープンソースのHermes Agentに決済系スキル群を追加したと発表しました。エージェントが商品購入、APIの従量課金、SaaSのプロビジョニングを実行できるようになり、各操作には安全制限が組み込まれています。

この記事でわかること

  • Hermes Agentに追加された3つのStripeスキルの役割
  • 購入・API課金・SaaS開設それぞれの仕組みと安全策
  • スキルのインストール方法と対応プラットフォーム

Stripe提携でHermes Agentに何が足されたか

Nous ResearchのX投稿では、Hermes Agentが「Stripe skillsのフルスイート」に対応したと案内されています。エージェントは次の3つの領域をカバーします。

  • 購入 — Webチェックアウトでの決済
  • 従量課金API — HTTP 402(Payment Required)への支払い
  • SaaSプロビジョニング — データベースやホスティングなどのサービス開設

実装はGitHubのプルリクエスト #31343として2026年6月15日にmainブランチへマージ済みです。コアのエージェント本体には手を入れず、オプションのスキルとして追加されています。新しいモデルツールや環境変数も不要です。

なぜエージェントに決済機能が必要か

自律型AIエージェントは、調査やコード生成にとどまらず、外部サービスの契約やAPI利用まで任せたい場面が増えています。一方で、エージェントにクレジットカード情報をそのまま渡すのはリスクが大きく、承認なしの自動課金は現場では受け入れにくいのが実情です。

今回の連携は、このギャップを埋める設計です。Stripe LinkやMachine Payments Protocol(MPP、HTTP 402でAPI利用料を請求する仕組み)、Stripe Projectsといった既存のStripeエコシステムをラップし、Hermesのスキルシステムから呼び出せる形にしています。エージェント本体に決済ロジックを埋め込むのではなく、CLIツールとスキル定義で能力を拡張する方針です。

3つのスキルとそれぞれの役割

https://hermes-agent.nousresearch.com/docs/reference/optional-skills-catalog

追加されたスキルはpaymentsカテゴリにまとめられ、個別にインストールできます。

stripe-link-cli — Web購入とStripe向け402支払い

https://hermes-agent.nousresearch.com/docs/user-guide/skills/optional/payments/payments-stripe-link-cli

@stripe/link-cliをラップするスキルです。エージェントは使い捨てのバーチャルカード、またはShared Payment Token(SPT、API課金用の共有決済トークン)を使って購入を完了します。

重要な安全策は、すべての支出がLinkアプリ内の承認を経由する点です。Hermesは自己承認できず、ユーザーがLinkのモバイルまたはWebアプリで許可しない限り決済は進みません。カード番号(PAN)はエージェントの会話ログやメモリに入れず、--output-fileでファイルに書き出して利用後に削除する手順がスキル定義に明記されています。

対応はLinuxとmacOSに限定され、Linkアカウントの要件から現時点では米国向けです。Windowsは上流のlink-cliが未対応のため、paymentsスキル群全体が同じ制限を共有しています。

mpp-agent — HTTP 402 APIの従量課金

https://hermes-agent.nousresearch.com/docs/user-guide/skills/optional/payments/payments-mpp-agent

Machine Payments Protocol(MPP)に対応したスキルです。APIがHTTP 402を返したとき、エージェントはmppxやTempo Wallet、Privy、AgentCashなどのクライアントを使ってリクエスト単位の支払いを処理します。

402レスポンスのwww-authenticateヘッダにmethod="stripe"が含まれる場合は、stripe-link-cliスキル側のlink-cli mpp payが適切です。Stripe以外の決済方式が指定されている場合はmpp-agentが担当します。ウォレットの秘密鍵もエージェントのコンテキストに載せない設計です。

stripe-projects — SaaSの開設と認証情報の同期

https://hermes-agent.nousresearch.com/docs/user-guide/skills/optional/payments/payments-stripe-projects

Stripe Projects CLIプラグインをラップするスキルです。NeonのPostgres、TwilioのSMS、Vercelのホスティングなど、Stripe Projectsが対応するプロバイダのサービスをプロジェクトに追加できます。

stripe projects add <provider>/<service>を実行すると、プロバイダ側でリソースが開設され、認証情報が.envへ同期されます。プラン変更やキーのローテーション、サービス削除もCLI経由で行えます。課金確認プロンプトが表示されるため、エージェントは実際の請求が発生する操作の前にユーザーへ内容を伝える手順が定義されています。

安全制限の具体的な中身

Nous Researchの発表文にある「configurable safety limits(設定可能な安全制限)」は、スキル定義に組み込まれた不変条件として具体化されています。

  • カード番号やウォレット鍵はエージェントのトランスクリプト・ログ・メモリに入れない
  • Linkアプリ承認、Tempoウォレット承認、Stripe Projectsの確認プロンプトはバイパス不可
  • --request-approval実行前に、ユーザーへ最終金額(セント単位)を確認する
  • 使い捨て認証情報ファイルは利用後に削除する
  • 米国外からのLink利用はリトライせず、一度だけ案内する

スキル方式を選んだ理由も明確です。Hermesの設計方針では、シェルコマンドで足りる能力はコアに新ツールを増やさずスキルで提供します。決済は全ユーザーが使う機能ではないため、必要な人だけhermes skills installで有効化する形が採用されています。

インストールと今後のロードマップ

各スキルは次のコマンドで個別に導入できます。

hermes skills install official/payments/stripe-link-cli
hermes skills install official/payments/mpp-agent
hermes skills install official/payments/stripe-projects

前提として、stripe-link-cliはNode.js 20以上とLinkアカウント、stripe-projectsはStripe CLIとProjectsプラグインのインストールが必要です。stripe-link-cliはMCPサーバーとしても登録でき、hermes mcp add stripe-linkでLink CLIのツール群をHermesから呼び出せます。MCP経由でもLinkアプリでの承認は省略できません。

GitHubのプルリクエストでは、Phase 1として今回の3スキルが出荷済みと記載されています。Phase 2はhermes mcp add stripe-linkのショートカット整備、Phase 3は構造化入出力向けのプラグインツール追加、Phase 4は自前APIに402課金を載せるサーバー側スキルの検討です。

他のエージェント決済動向との位置づけ

エージェント向けの決済連携は、HermesとStripeの組み合わせ以外にも動きがあります。ただし今回の実装の特徴は、既存のStripe決済インフラをそのまま活用し、承認フローを外部ツールに残す点にあります。オンチェーンウォレット型とは異なり、従来のカード決済やSaaS請求の仕組みの延長線上でエージェント運用を組み立てられます。

開発者にとっては、エージェントに「NeonのDBを立てて、有料APIを叩いて、必要ならチェックアウトまで進めて」と指示する一連の流れが、スキル単位で段階的に試せるようになった点が実用的です。商用エージェントを組む場合も、支出のたびに人間承認を挟む設計はそのまま踏襲できます。