米国の大手航空会社が、オンプレミス中心の基幹システムを捨て、クラウドとAIエージェントで運用基盤を作り直す動きが本格化しています。

この記事では、Southwest Airlines(以下Southwest)がAmazon Web Services(AWS)と組んだ技術刷新の全体像と、開発現場で使われているAIツールの中身を整理します。

この記事でわかること

  • Southwestが2028年までに目指すクラウド化とAI活用の方針
  • 2,700人超の開発者が使うAWS Kiroによるサイト刷新の進め方
  • 航空会社の基幹刷新が他業界のDXに示す示唆

2028年までに「クラウドベースのAI対応航空会社」へ

2026年6月17日、SouthwestはAWSを首选クラウドプロバイダーに指定し、2028年までにフルクラウド化とAIエージェント活用を進めると発表しました。現在はオンプレミス環境が中心ですが、座席販売から日々の運航管理、7万人超の従業員支援まで、航空会社の業務はほぼすべてがITに依存しています。基幹の複雑さがボトルネックになり、事業モデルと顧客体験の進化にシステムが追いつかないという課題が背景にあります。

https://www.southwestairlinesinvestorrelations.com/news-events/press-releases/detail/1932/southwest-airlines-partners-with-amazon-web-services-aws-to-accelerate-ai-capabilities-and-technology-modernization

SouthwestのCIOであるLauren Woods氏は、顧客体験・運航・システム開発のすべてをAWS上で統合し、「チームの意思決定を速め、顧客への提供価値を高める」と説明しています。AWS側では、Agentic AI担当副社長のSwami Sivasubramanian氏が、顧客体験・運航・ソフトウェア開発の3領域にAIエージェントを展開し、2025年に1億3,400万人を運んだ旅客へのサービス改善を加速すると評価しています。

KiroでSouthwest.comを刷新する理由

https://kiro.dev/

今回の提携で最も具体的な事例は、顧客向け最大プラットフォームであるSouthwest.comの刷新です。AWSのエージェント型コーディングサービス「Kiro」を使い、長年オンプレミスで動いていたレガシーコードのリファクタリングを進めています。Kiroは自然言語の指示から仕様書・コード・テストを生成する開発環境で、Amazon Bedrock上の複数の基盤モデルを組み合わせて動作します。

Southwestではすでに2,700人超の開発者がKiroを使い、機能開発・テスト自動化・クラウドインフラ生成を担っています。公式発表によると、従来は数時間かかっていた作業が数分で完了するケースも出ており、モダナイズのペースが大きく上がっています。単なるコード補完ではなく、エージェントが実装を進め、エンジニアが検証と責任を持つ「エージェント駆動型」の開発スタイルに切り替えている点が特徴です。

AIDLCとAmazon Quickが担う役割

開発ツールだけでなく、SouthwestはAWSの「AI-Driven Development Lifecycle(AIDLC)」という開発プロセスも採用しています。AIDLCはAIエージェントが開発の各段階を前に進め、エンジニアリングチームが方向づけと成果物の検証を担う枠組みです。AIに任せきりにせず、人間が最終責任を持つ設計になっています。

業務全体のAI活用には「Amazon Quick」も加わります。QuickはSlackやMicrosoft Teams、CRM、データベースなど社内ツールを横断して接続するAIアシスタントで、調査・ダッシュボード作成・ワークフロー自動化を一つの画面で扱えます。Southwestは顧客体験・運航・開発の各領域でエージェント型の能力を広げる方針を示しており、基幹刷新と現場の業務効率化を同時に進める構図です。

航空業界のDXが他業界に示すこと

Southwestの動きは、旅行・物流・小売など大規模オペレーションを持つ業界にとって参考になります。120か所の空港、12か国で運航し、7万人超の従業員を抱える規模のシステムを一度に入れ替えるのは容易ではありません。それでも同社は「2028年までにフルクラウド」を掲げ、すでに最大の顧客接点であるWebサイトから手を付けています。

レガシー基幹の刷新では、全面置き換えより段階的な移行が現実的です。SouthwestはKiroで顧客向けプラットフォームを先に動かし、AIDLCで開発体制ごと変え、Quickで業務横断のAI活用を広げるという三層構造を取っています。クラウド移行だけでなく、開発・運用・顧客対応のそれぞれにAIエージェントを配置する設計は、製造や金融など他の大企業でも検討が進むタイプのDXです。

基幹システムの刷新は数年単位のプロジェクトになりがちですが、SouthwestはAIエージェントを開発の主役の一つに据えることで、移行スピードそのものを変えようとしています。2028年までの残り2年強が、クラウド化とAI活用の実効性を測る期間になるでしょう。