自分の名前をGoogleで検索する習慣は、いまや当たり前です。しかし2026年、人々があなたについて知る入口は検索エンジンだけではありません。ChatGPTやClaudeなどのチャットボットが、新しい「情報の正典」になりつつあるからです。

この記事では、複数の大規模言語モデル(LLM)が人物をどれだけ「記憶」しているかを可視化するWebサービス「In the Weights」について解説します。

この記事でわかること

  • In the Weightsが測定している「記憶」の意味
  • 13種類以上のLLMを横断してスコア化する仕組み
  • 開発背景と、類似のバニティ検索との違い
  • 結果の読み方と、批判的な見方

LLM時代のバニティ検索が必要な理由

かつては自分の名前をGoogleに打ち込み、検索結果の上位に何が出るかを確認する「バニティ検索」が、オンライン上の存在感を測る定番でした。ところが、情報の参照先がLLMへ移り始めた今、その方法だけでは不十分です。チャットボットはWeb検索を使わずに人物について答える場面があり、そのときの回答はモデルの学習データに埋め込まれた知識、いわゆる「重み(weights)」に由来します。

元OpenAI社員のThomas Dimson氏とJoey Flynn氏は、デザイン系スタートアップGlobal Illuminationの買収を経てOpenAIに入社した後、同社を退職していました。2人は創作の刺激を取り戻す一環としてIn the Weightsを立ち上げ、Dimson氏は「2026年にはトラフィックがLLMへ移る中、Googleでのバニティ検索は間違った目標だ」と語っています(参考)。

In the Weightsとは

In the Weightsは、LLMが特定の人物をWeb検索なしでどれだけ想起できるかを測るWebサービスです。サイト上の説明では、「重みの中にいる」とは「超人的な人工知能を作る過程で、あなたの存在が重要と判断された」ことを意味するとされています。

大規模言語モデル(LLM)とは、膨大なテキストで学習したAIで、ChatGPTやClaudeの基盤になっています。学習の成果はモデル内部の数値パラメータ、すなわち「重み」として保存されます。In the Weightsは、この重みに人物の情報がどれだけ刻み込まれているかを、複数モデルの回答から推定します。

13種類以上のLLMを同時に問い合わせる仕組み

サービスの動作は次のとおりです。Grok、Gemini、複数バージョンのGPT、Claude、Llamaなど、13種類以上のモデルに対し、「Who is [名前]? Give up to 10 results, each with a short description and confidence.」に近い形式の質問を投げます。返ってきた説明文をクラスタリングし、最終的な「strength score(記憶強度スコア)」を算出します。

結果画面では、どのモデルがどの回答を返したかがモデル別に表示されます。複数の人物候補が混在する場合や、事実と異なる記述が含まれる場合は、ハルシネーション(幻覚)の可能性としてハイライトされます。TechCrunchのAnthony Ha氏が自身の名前で試したところ、スコアは641で上位6%に入りました。一方、GPT-5.4 Miniは同氏の名前を「A.H.A.というイニシャルを持つ複数の人物を指す曖昧な形式」と回答し、名前の一意性が低いケースではスコアが下がることがわかります(参考)。

リーダーボード機能も用意されており、他者との記憶度を比較できます。記事執筆時点ではMacaulay Culkin氏が988点で首位、オペラ歌手Luciano Pavarotti氏が僅差で続いていました。サービス公開直後のリーダーボードでは、Lionel Messi氏が993点、Garry Kasparov氏が987点といった著名人が上位を占めています。

Google検索との決定的な違い

従来のバニティ検索が「Web上に何がインデックスされているか」を示すのに対し、In the Weightsが示すのは「AIモデルの内部に、あなたについてどれだけの情報が圧縮保存されているか」です。リンクの有無ではなく、モデルが自力で人物像を再構成できるかが焦点になります。

AI批評家のAnthony Moser氏は、この仕組みを「13個のチャットボットに自分のことを聞いているのと実質同じ」と批判しています(参考)。確かに、各モデルへの個別質問を手動で繰り返す行為と本質は近いです。ただしIn the Weightsの価値は、回答の集約・スコア化・モデル横断比較を自動化し、数値とランキングで比較可能にした点にあります。Dimson氏は「同じシリーズ内でもモデルごとに結果が異なる理由」「特定の人物タイプへの偏り」「Wikipedia記事を持つべきなのに持たない人物」など、今後の分析テーマを挙げています。

料金と使い方

In the Weightsは無料のWebサービスとして公開されています。登録や課金の案内はなく、サイトにアクセスして名前を入力するだけで結果を確認できます。UIは任天堂のレトロゲームを彷彿とさせるデザインで、遊び心のある見た目が話題を呼んでいます。Dimson氏によれば、公開後の反響は想定を大きく上回り、「超知能の中に永遠に生き続けられるかを確かめたいという欲求に刺さった」と述べています(参考)。

記憶スコアが示すこと、示さないこと

strength scoreは、モデルがWeb検索を使わずに人物を想起できる度合いの目安です。スコアが高いからといって、事実に即した正確なプロフィールが保証されるわけではありません。ハルシネーションの表示が示すとおり、モデルは存在しない経歴や別人の情報を混ぜることがあります。

一方で、LLMが情報源として普及するいま、「検索結果に載っているか」と「モデルの重みに刻まれているか」は別問題です。プライバシーや学習データの透明性を考えるうえで、自分がAIの内部表現にどう写っているかを一目で確認できる点は、個人にとっても研究者にとっても実用的な鏡になります。まずは自分の名前を入れて、どのモデルがどう答えるかを確かめてみる価値があります。