Alphabet株が一気に売られた。背景には、競合へ続々と移るトップ研究者と、巨額のAI投資への不安が重なっている。
この記事では、2026年6月22日に相場を揺らしたGoogle周辺の動きを整理する。株価急落の直接要因、DeepMindとA24の研究提携、次世代TPU開発の報道、投資家が警戒する資金調達と規制リスクまで、技術と事業の両面から読み解く。
この記事でわかること
- Alphabet株が7%超下落した理由と、終値では約5%安で引けた事実
- Google DeepMindとA24が発表した研究提携の内容と、報道ベースの投資額
- TPU v9「Triggerfish」の未確認報道と、公式に発表済みの第8世代TPU
- Noam ShazeerとJohn Jumperの退社が市場に与えた意味
株価はなぜ急落したか
2026年6月22日、Alphabet株はナスダックで一時7.2%安まで下落した。MSNの報道では、午前11時17分(東部時間)時点で前日比7.03%安の342.16ドルと記録されている。終値ではCNBCの集計どおり約5%安で引け、2025年5月以来の大幅下落となった。
直前の1週間で株価は5週連続の下落を止め、2.3%上昇していた。好調な週明け直後の急落は、投資家の神経を逆撫でした。
下落の引き金は、AI部門からの著名人材流出です。6月18日、Geminiモデル共同リードのNoam Shazeer副社長がOpenAIへの移籍を発表しました。Shazeerは「Attention Is All You Need」でTransformerアーキテクチャを提案した研究者で、2021年にGoogleを去った後、2024年8月にCharacter.AIとの提携を通じてDeepMindに復帰していました。復帰から2年足らずでの再退社です。
続いて6月22日の週末、DeepMind副社長のJohn JumperがAnthropicへ移ると発表しました。JumperはAlphaFoldの共同開発者で、2024年のノーベル化学賞をDemis Hassabisと共有しています。AlphaFoldは2億件超のタンパク質構造を予測し、生物学研究の時間を大幅に短縮したAIです。
Bloombergは、DeepMind社内でAIコーディングツールの製品化が遅れているとの懸念があったと報じています。AnthropicとOpenAIはこの領域で先行しており、投資家はGoogleの人材確保力を疑い始めました。NY Postは、DA DavidsonのアナリストGil Lauria氏のコメントを引用し、「AI最前線での人材戦争でGoogleが負けつつある」という見方を紹介しています(参考)。
同日、マイクロソフトのSatya Nadella CEOがウォール・ストリート・ジャーナルで「AI市場はコモディティ化している」と述べたインタビューも相場を重くしました。Alphabetは2025年10月以降、債務と株式で合計1410億ドルを調達しており、2026年度の設備投資は1800億〜1900億ドル規模と見られます。モデルが安価で置き換え可能になれば、巨額投資の回収が問われます。
DeepMindとA24の研究提携
株安の同日、Google DeepMindは映画スタジオA24との「初の研究提携」を発表しました。公式ブログでは、世界有数の研究ラボと映画制作者重視のスタジオが組み、クリエイターが新しいワークフローと技法を開発する協業だと説明しています。
提携は複数年にわたる研究開発協力で、非独占契約です。A24はDeepMindの研究・インフラへアクセスし、映画制作者が技術の方向性に関与します。制作契約でもIP譲渡でもデータ学習契約でもなく、A24は創作の主導権を保持します。A24側のデジタル担当Scott Belskyがプログラムを率います。
GoogleはA24への投資も実施しましたが、金額は公式には開示されていません。ウォール・ストリート・ジャーナルやDeadlineの報道では約7500万ドル(約110億円)規模とされています。The Vergeは、Googleが映画スタジオへの株式取得を初めて行った事例だと伝えています(参考)。
DeepMind CEOのDemis Hassabisは、「アーティストを支援するツールは、彼らと直接協業して開発するのが最善だ」とコメントしています。初期焦点は最先端技術と次世代エンターテインメントの橋渡しですが、具体的な成果物やマイルストーンは今後決まるとされています。
次世代TPU「Triggerfish」の報道
半導体面では、サプライチェーンアナリストのMing-Chi Kuo氏がXで、GoogleがTPU v9の強化版「Triggerfish」を開発中だと報じました。これは社内コードネーム「Humufish」のTPU v9を基盤とし、台湾のMediaTekが製造を担うとの分析です。GoogleとMediaTekは公式には未確認です。
Kuo氏の分析では、Triggerfishは推論性能を高めた派生版で、オンチップSRAMをHumufish比2〜3倍に拡大し、メモリをHBM4からHBM4Eへ更新、強化学習とAIエージェント向けのシミュレーションダイを追加する設計とされています。量産は2027年末開始、2028年に本格出荷、追加発注は100万〜200万個規模、単価はHumufish比30%高いとの見方です。
一方、Googleが公式発表しているのは第8世代TPU「TPU 8t」と「TPU 8i」です。8tは大規模学習向け、8iは低遅延推論とAIエージェント向けに設計され、年内の一般提供を予定しています。8iはオンチップSRAMを384MB(前世代比3倍)、HBMを288GBに拡大し、推論の性能対コストを80%改善するとGoogleは説明しています。Triggerfishは未発表の報道段階であり、現時点で確定した製品ではありません。
投資家が重視するその他のリスク
人材流出と株価急落以外にも、Googleを押し下げる要因が重なっています。
6月初旬、GoogleはAIインフラ投資向けに800億ドル規模の株式調達計画を示し、希薄化への懸念が広がりました。規制面では、カリフォルニアの裁判所がYouTubeとMetaの再審請求を却下し、ソーシャルメディアが若年層に有害な設計だとする陪審評決(損害賠償600万ドル)が維持されました(Reuters報道)。
Alphabet傘下のWaymoは、高速道路の工事区域に進入した事例を受け、約3900台のロボタクシーを自主回収しました。これは1か月以内の2度目の回収です(CNBC報道)。6月22日にはGmailとYouTubeで障害報告も出ており、サービス安定性への不信も相場に影響しました。
技術投資と人材流出の板挟み
Googleは同日、ハリウッドとの研究提携と次世代チップ開発の報道という「攻め」の姿勢を見せました。同時に、Transformer論文の著者とノーベル賞受賞者が競合へ移る「守り」の弱さも露わになりました。
A24提携は、生成AIで映像を置き換えるのではなく、制作者がツール設計に関与するモデルです。TPU開発は、学習から推論・エージェント運用へ需要が移る流れに合わせた投資と読めます。ただし、どちらも数年単位で成果が出る取り組みであり、株価は四半期内の人材動向と資金調達に敏感に反応しました。
AI業界では、Anthropicが6月30日にAI for Scienceイベントを開催予定で、OpenAIはIPO準備を進めています。Googleが巨額投資で築く垂直統合スタックが優位を保てるか、研究者の流出が製品競争力に波及するかが、今後の焦点です。
