GPUを買ったのに、推論環境の立ち上げに数週間かかる——そんな状況を、Mirantis k0rdent AIとNVIDIA Run:aiの連携が短縮します。
この記事では、両製品の連携で何が自動化されるのか、どのような運用メリットがあるのかを整理します。
この記事でわかること
- k0rdent AIとRun:aiが担う役割の違い
- LLM推論環境を数分で立ち上げる仕組み
- GPUスケジューリングとセキュアなイメージ配信の自動化
- エンタープライズやネオクラウド向けの活用シーン
GPU調達後に残る「運用の壁」
企業がプライベートAIファクトリーを構築する際、GPUノードの調達は最初の一歩にとどまります。実際に学習や推論を走らせるには、Kubernetesクラスターの構築、各種オペレーターの導入、依存関係の順序付け、ネットワーク設定、動作検証といった工程が続きます。
Mirantisの公式ブログでは、経験豊富なエンジニアでもこの組み立てに数日から数週間かかると説明されています(参考)。GPUは揃っているのにジョブが回らない状態は、設備投資の回収を遅らせる要因になります。
k0rdent AIとRun:aiの役割分担
https://www.mirantis.com/software/mirantis-k0rdent-ai/
Mirantis k0rdent AIは、ベアメタルからAIプラットフォームまでのインフラ層を自動化するKubernetesネイティブの基盤です。宣言型の分散コンテナ管理環境(DCME)をベースに、マルチクラスター・ハイブリッドクラウド向けのプラットフォーム構築を担います。
https://www.nvidia.com/en-us/software/run-ai/
NVIDIA Run:aiは、NVIDIA AIファクトリー参照アーキテクチャの中核コンポーネントです。インフラの直上に位置するAIワークロードとGPUオーケストレーション層として、学習ジョブの投入、推論ワークロードの実行、対話型ノートブックの起動をUI・CLI・APIから行えます。利用者はKubernetesクラスターやGPU設定を直接触らずにリソースへアクセスできます。
k0rdent AIが下層のインフラ構築を自動化し、Run:aiが上層のワークロード実行を担う——この二層構造が、今回の連携の要点です。
数分で立ち上がる推論環境の中身
2026年6月22日、MirantisはX(旧Twitter)でデモ動画を公開しました。k0rdent AIとRun:aiを使い、ライブのLLM推論ワークロードを数分で起動する様子を示しています。インテリジェントなGPUスケジューリングとセキュアなイメージ配信が組み込まれている点が訴求されています(参考)。
具体的にk0rdent AIが自動デプロイするコンポーネントは次のとおりです。
- Ingressと外部DNS
- cert-manager(証明書管理)
- NVIDIA GPU Operator
- NVIDIA Network Operator
- Dynamic Resource Allocation(DRA)Operator
- MPI Operator
- Training Operator
- NVIDIA Run:aiプラットフォームテンプレート
これらを正しい順序で設定・検証する作業が、手作業なしで完了します。2026年4月15日のプレスリリースでも、従来は数日から数週間かかっていた工程が数分で終わると発表されています(参考)。
15分デモの実態
AI Infrastructure Field Dayでのライブデモでは、CTOのShaun O’MearaがNVIDIA Run:ai推論クラスターを約15分で起動すると宣言しました。GPU PaaSポータルからGPUノードの選択、Kubernetes設定、ArgoCDやKnativeなどのRun:ai依存コンポーネントの追加までを実演し、完了後はRun:aiのWeb UIから稼働中のワークロードにアクセスしています(参考)。
デモの大半はAWSマシンの起動待ちと認証情報のダウンロードに費やされ、実際の構成作業自体は短時間で済んでいます。cert-managerやGPUオペレーターなど、通常は週単位で設定に悩む依存関係が自動プロビジョニングされる点が、速度の源泉です。
GPUスケジューリングの仕組み
Run:aiはマルチテナント環境向けにGPUリソースの動的割り当て、プール化、優先度ベースのスケジューリングを提供します。k0rdent AI側では、クラスター作成時にGPUノードへラベルを自動付与し、Run:aiがそのラベルを検証してワークロードを適切なノードへ配置します。GPUワークロードはGPUノードへ、それ以外はCPUノードへ振り分ける——一見単純なルールですが、本番環境での障害を踏まえた設計とされています。
推論ワークロードについて、Run:aiはシングルノードとマルチノードの両方に対応します。軽量な推論はKnative Servingによるサーバーレス構成で、大規模言語モデル(LLM)のように1ノードに収まらないケースはLeader-Worker Set(LWS)で複数ポッドを協調させます。NVIDIA NIM、vLLM、カスタム推論コンテナにも対応しており、Run:ai上でスケジューリングと監視を一元管理できます(参考)。
認証済み連携と対応ハードウェア
この連携はNVIDIA Run:aiの公式認証プログラムを通過しています。Mirantisはワークロード投入、スケジューリング動作、マルチテナント運用、プラットフォームライフサイクル管理を含む100件超の機能テストを実施し、パートナー認証済みディストリビューションとして公式ドキュメントに掲載されています。
ハードウェア面では、NVIDIA Grace Blackwell NVL72(GB200 NVL72)へのネイティブ対応も謳われています。NVIDIA NCX Infra Controller(NICo)経由で、ラックスケールGPUアーキテクチャの自動設定に対応します。規制産業や政府向けには、外部ネットワークに依存しないエアギャップ(完全隔離)環境でも同じ自動デプロイが可能です。
誰にとって有用か
ネオクラウド事業者にとっては、需要に応じてRun:ai環境を起動し、アイドル時に停止するオンデマンド型AIファクトリー構築が現実的になります。GPU稼働率の最大化と、ハイパースケーラー並みのセルフサービス体験の提供が目標です。
エンタープライズにとっては、チームやリージョンをまたいだ一貫したAIファクトリーデプロイが可能になります。属人的なノウハウに頼らず、再現性のある本番環境を短時間で用意できます。k0rdent AIのInference Mesh機能と組み合わせれば、トークン単位の課金やテナント分離、データ所在地のポリシー制御といったガバナンス要件にも対応する設計です。
Mirantisは2026年7月8〜9日にパリで開催されるRAISE Summitでもライブデモを予定しています(参考)。
今後のロードマップ
現時点の連携はAIファクトリーのライフサイクル管理の基盤を確立する段階です。k0rdent AIの宣言型モデルを通じたアップグレード、設定変更、デイツー運用の自動化がロードマップに含まれています。AIファクトリーモデルがエンタープライズのプライベートAIとネオクラウドの標準になりつつある中、インフラ構築のボトルネックを外す動きは加速する見込みです。