AI半導体の勢力図が、わずか1日で大きく動いた。
Micron Technologyが粗利益率84.9%を記録し、NvidiaやMetaを上回る米テック企業のトップに立った。SK Hynixは最大294億ドルのNASDAQ上場を申請し、Qualcommはデータセンター向けCPU「Dragonfly C1000」を発表した。AnthropicはAlibabaによるAI能力の不正抽出を米上院に告発している。
この記事でわかること
- MicronがNvidiaやMetaを上回った粗利益率の背景
- QualcommのDragonfly C1000とMetaとの提携内容
- SK Hynixの294億ドルADR上場計画の目的
- AnthropicがAlibabaを告発した蒸留攻撃の概要
Micronが粗利益率84.9%で米テック首位に
粗利益率(売上から原価を差し引いた利益の割合)は、企業の値付け力を測る指標だ。Micron Technologyは2026年6月25日付の決算で、第3四半期の粗利益率84.9%を開示した。前四半期の74.9%から上昇し、1年前の39%からは2倍以上に跳ね上がっている。
この数字は主要米テック企業の中で最高水準だ。Metaの81.9%、Nvidiaの75%を上回る。決算発表後、Micronの株価は15%上昇した。
背景にあるのは、AI向け高帯域幅メモリ(HBM)の需要急増だ。HBMはGPUなどのAIプロセッサと密接に連携する特殊メモリで、Nvidia、AMD、GoogleがMicron製HBMを採用している。データセンター向けAIインフラの拡張が続く限り、メモリ供給は逼迫したままだ。
Micronの第3四半期売上高は414億6000万ドル、純利益は282億4000万ドルに達した。CFOのMark Murphy氏は決算説明会で「第3四半期の粗利益率は1年前の2倍以上で、同社史上最高」と述べた。CEOのSanjay Mehrotra氏は、長期契約(SCA)の価格下限が過去のピークを大きく上回る粗利益率を確保すると説明している。
第4四半期の粗利益率見通しは約86%。Murphy氏は2027年以降も市場が逼迫した状態が続くと見込んでいる。Nvidiaの粗利益率は2024年初頭に約79%でピークを迎えたが、Micronは現在その水準を6ポイント以上上回っている(参考)。
QualcommがデータセンターCPUでMetaと提携
https://sg.finance.yahoo.com/news/qualcomm-unveils-comprehensive-data-center-193000894.html
スマートフォン向けチップで知られるQualcommが、AIデータセンター市場への本格参入を宣言した。2026年6月24日のInvestor Dayで、データセンター向けCPU「Qualcomm Dragonfly C1000」を発表した。
Dragonfly C1000は、エージェント型AI(複数のAIエージェントが連携してタスクを処理する方式)と汎用ワークロード向けに設計されたプロセッサだ。Qualcomm独自のOryonコアアーキテクチャを採用し、250コア超・5GHz超のクロックを目指す。省電力と総所有コスト(TCO)の低さを強調している。
量産開始は2028年下半期を予定。Metaは複数世代にわたるCPU供給先としてQualcommと提携し、Dragonfly C1000を次世代サーバー群に採用する。Qualcommは2029会計年度の非スマートフォン事業売上を400億ドルと予測し、従来の220億ドル予測からほぼ倍増させた。発表後、Qualcommの株価も15%上昇した。
同社はDragonfly AI300推論アクセラレータやHigh Bandwidth Compute(HBC)技術も合わせて公開し、CPU・推論・接続を含むデータセンター向け製品群をAnnual cadence(年次更新)で展開する方針を示した。
SK Hynixが294億ドルのNASDAQ上場を申請
https://www.cnbc.com/2026/06/24/sk-hynix-nasdaq-adr-listing-south-korea.html
世界第2位のメモリメーカーSK Hynixが、米NASDAQへのADR(米国預託証券)上場を申請した。調達規模は最大294億ドル(約4兆5450億ウォン)で、SpaceXに次ぐ米国史上2位の大型案件となる。
新株1,779万株を発行し、ティッカーシンボルは「SKHY」。取引開始は2026年7月10日を予定しているが、ブックビルディング後に金額や日程が変更される可能性がある。BofA Securities、Citigroup、Goldman Sachs、JP Morganが引受を担当する。
調達資金は、韓国龍仁(ヨンイン)の新fab建設、清州(チョンジュ)の先端パッケージング工場、EUV(極端紫外線)露光装置の購入に充てる。SK HynixはHBM市場で約60%のシェアを持ち、Nvidia向けHBMの主要サプライヤーだ。Counterpoint ResearchのMS Hwang氏は、同社がHBM分野で製造コスト面でも優位にあるとCNBCの取材で述べている(参考)。
上場申請後、SK Hynixの株価は最大11%上昇した。同社は「米国はAI技術革新の中心地であり、投資家基盤の拡大で企業価値を適正に評価したい」と申請書で説明している。
AnthropicがAlibabaの蒸留攻撃を米上院に告発
https://www.cnbc.com/2026/06/24/anthropic-alibaba-distillation-campaign.html
AI半導体の好調な一方で、モデル開発の競争は規制とセキュリティの論点も伴う。Anthropicは2026年6月10日、米上院銀行委員会にAlibabaによるAI能力の不正抽出を告発する書簡を送付した。
蒸留(distillation)とは、高性能モデルの出力を使って小型モデルを訓練する手法だ。Anthropicは、Alibabaおよび同社のAIラボQwenの関係者が、2026年4月22日から6月5日の間に約2万5000の不正アカウントでClaudeと2880万回超のやり取りを行い、「Anthropic史上最大の蒸留攻撃」を仕掛けたと主張している。
標的はソフトウェアエンジニアリングや推論など、Claudeの高度な能力だ。Anthropicは2026年2月にもDeepSeek、Moonshot、MiniMaxによる類似キャンペーンを公表しており、今回のAlibaba案件はその延長線上にある。
同社は米政府に対し、蒸留攻撃への罰則強化とAI企業間の情報共有促進を求めている。Alibaba側からの公式コメントは、報道時点では確認されていない。
AI半導体ブームの行方
Micron、Qualcomm、SK Hynixの動きは、AIインフラ投資が半導体サプライチェーン全体を再編していることを示す。メモリ不足は2027年以降も続く見込みで、HBMを供給できるメーカーへの資金と評価が集中している。
Qualcommのデータセンター参入は、AI計算がGPUだけに依存しない多層化の兆候でもある。一方、Anthropicの告発は、ハードウェア競争と並行してAIモデル自体の知的財産保護が国際的な争点になりつつあることを示している。