AIエージェントを本番運用するうえで、サンドボックスの起動待ちと従量課金がボトルネックになりやすい。Rivetが2026年6月25日にリリースしたagentOS v0.2.0は、WebAssemblyとV8アイソレート(ブラウザのタブごとにプロセスを分離する技術)を核にした軽量VMで、この課題に正面から取り組む。

この記事では、v0.2.0で何が変わったのか、従来のSaaSサンドボックスとどう違うのか、どう使い始めるのかを整理します。

この記事でわかること

  • v0.2.0の主な変更点(Rust再実装、対応エージェント、オーケストレーション機能)
  • 公式ベンチマークが示すコールドスタート・メモリ・コストの改善幅
  • 導入方法とデプロイ先の選択肢

https://github.com/rivet-dev/agentos

v0.2.0で変わったこと

Rivetは公式changelogで、v0.2.0を「サンドボックスより速く、軽く、安い」代替として位置づけています。中核はRustへの書き換えです。GitHubのリリースノートでは、Rust製カーネルサイドカーの導入やPyodideのRust再実装、TypeScriptからRustへの移行完了が主要な変更として挙げられています。

公式が公表した数値は次のとおりです。

  • コールドスタート:p99でE2B比516倍速(agentOS 6.1ms vs E2B 3,150ms)
  • メモリ:Piエージェント+MCPサーバー+ファイルシステムマウントで約131MB。Daytona最小構成(1 vCPU+1 GiB RAM)比で8倍少ない
  • コスト:自前ホスト時、Daytona比で最大1738倍安い(Hetzner x86で約$0.0000013/秒)

これらのベンチマークは2026年3月時点の主流SaaSサンドボックス(E2B、Daytona)との比較です。Intel i7-12700KF上で1万回実行した中央値に基づく測定とされています。

なぜ軽量VMなのか

従来のエージェント用サンドボックスは、Linux環境全体を起動します。VMのブート、メモリ確保、ネットワーク接続の確立に数秒かかることも珍しくありません。

agentOSはNode.jsプロセス内でV8アイソレートとWebAssemblyを使い、エージェントごとに仮想ファイルシステム・プロセステーブル・ネットワークスタックを持つ軽量VMを動かします。ホスト上で直接コードを実行せず、カーネル内に閉じ込める設計です。公式READMEでは、中央値のコールドスタートが約4.8ms(p50)と記載されています。

重い処理が必要な場合は、サンドボックス拡張でE2BやDaytonaなどのフルLinux環境をオンデマンドで起動し、VM内にファイルシステムとしてマウントできます。軽量VMとフルサンドボックスの使い分けが可能です。

新機能の詳細

対応エージェントの拡充

v0.1系でサポートしていたPiに加え、v0.2.0ではClaude Code、Codex、OpenCodeが追加されました。いずれもAgent Communication Protocol(ACP。エージェントとクライアント間の標準プロトコル)経由で統一APIから操作できます。レジストリからCodex CLIなどのコマンドパッケージをインストールする方法も用意されています。独自エージェントの持ち込み(BYO agent)にも対応します。

マルチプレイヤーとワークフロー

複数クライアントが同一エージェントセッションをリアルタイムで観察・共同作業できるマルチプレイヤー機能が加わりました。エージェント間のタスク委譲(agent-to-agent)や、リトライ・分岐・再開を備えた耐久ワークフローも組み込まれています。

ファイルシステムとリソース制限

S3、データベース、ホストディレクトリをエージェントのファイルシステムとしてマウントできます。ホスト側でアクセス範囲を制限するため、エージェントごとに認証情報を渡す必要がない点が特徴です。CPU・メモリ・ネットワークにはエージェント単位の上限を設定できます。

パッケージ名の変更

コアパッケージは@rivet-dev/agentos(旧@rivet-dev/agentos-core)、ソフトウェアパッケージは@agentos-software/*に移行しました。移行時はインストールコマンドの更新が必要です。

使い方

agentOSはnpmパッケージとして提供され、Apache 2.0ライセンスで自己ホストできます。クイックスタートは次のとおりです。

npm install @rivet-dev/agentos-core @agentos-software/common @agentos-software/pi

TypeScriptからVMを作成し、セッションを開いてプロンプトを送る基本フローは公式READMEに記載されています。バックエンドの関数はバインディングとしてVM内のCLIコマンドに公開でき、ネットワーク往復やAPIキー注入なしでエージェントから直接呼び出せます。

デプロイ先はローカル、Rivet Cloud、Railway、Vercel、Kubernetesなどを選べます。Rivet Cloudでは1プロンプトでのデプロイに対応し、グローバルエッジ上でフルマネージド運用が可能です。自前インフラでの運用を選んでもベンダーロックインは発生しません。

エージェント向けのツールやファイルシステムはagentOS Registryからワンコマンドで追加できます。

従来版・SaaSサンドボックスとの違い

観点 agentOS v0.2.0 SaaSサンドボックス(E2B等)
実行方式 プロセス内の軽量VM フルLinux環境の起動
コールドスタート(p99) 6.1ms 3,150ms(E2B)
メモリ(Pi+MCP) 約131MB 約1,024MB(Daytona最小)
ライセンス Apache 2.0(OSS) プロプライエタリSaaS
重い処理 サンドボックス拡張で併用 標準機能

v0.1系からの変更点は、Rustカーネルによる性能改善と、Claude Code・Codex・OpenCode対応、オーケストレーション機能の本格追加です。v0.1でPiのみ使っていた場合でも、エージェントの選択肢と運用面の機能が大きく広がっています。

注目すべき背景

Rivetは2026年4月にagentOSを初公開し、エージェントにPOSIX互換のファイルシステムとプロセス環境を与える「エージェント向けOS」というコンセプトを打ち出しました。v0.2.0はその基盤をRustで再実装し、実運用に耐える性能とセキュリティ強化を加えたマイルストーンです。GitHubリリースでは、ブラウザのエグレス制御やセッション分離などセキュリティ修正も多数含まれています。

AIエージェントをプロダクトに組み込む開発者にとって、サンドボックス費用と起動遅延はスケールの壁になります。agentOS v0.2.0は、その壁を下げる選択肢として検討に値するリリースです。