最上位モデルは限られた人間にしか開放されていない——そんな状況のなか、複数モデルを束ねる仕組みで性能を引き上げる道が開かれました。

この記事では、Nous ResearchがHermes Agentに追加した「MoAプリセットの仮想モデル化」について解説します。何が変わったのか、どう動くのか、ベンチマーク上でどの程度の差が出ているのかを整理します。

この記事でわかること

  • MoA(Mixture of Agents)が仮想モデルとして選べるようになった点
  • リファレンスモデルとアグリゲーターの役割分担
  • HermesBenchにおけるOpus 4.8・GPT-5.5とのスコア差
  • モデルピッカーやCLIからの使い方

最上位モデルへのアクセス制限と、複数モデル合成という選択肢

Nous Researchは2026年6月26日、Xで次のように述べました。「最強のモデルはゲートされており、アクセスは選ばれた少数にしか与えられない」と。一方で同投稿では、Hermes AgentがMoAプリセットを仮想モデルとして公開したことで、「公開されているフロンティアモデルを超える能力」が得られると主張しています。

具体的な数値として、同社の今後公開予定のベンチマークにおいて、Opus 4.8より8%高く、GPT-5.5より11%高いスコアを出したとしています。公式ドキュメントに掲載されているHermesBenchの結果とも整合します。claude-opus-4.8をアグリゲーター、gpt-5.5をリファレンスにした2モデル構成のMoAプリセットは0.8202点で、単体のOpus 4.8(0.7607点)やGPT-5.5(0.7412点)を上回っています。

MoAとは何か

MoA(Mixture of Agents)は、複数のLLM(大規模言語モデル)に同じ質問を投げ、それぞれの回答をもう1つのモデルが統合する手法です。2024年の論文「Mixture-of-Agents Enhances Large Language Model Capabilities」(Wang et al.)で、単一モデルより高い性能が示されています。LLMは他モデルの出力を参考にすると回答を改善する性質(協調性)を持つため、複数の視点を束ねると品質が上がりやすい、という考え方です。

Hermes AgentではもともとMoA機能がありましたが、今回の変更で扱い方が大きく変わりました。

何が変わったか:ツールから仮想モデルへ

GitHubのプルリクエスト#46081によると、MoAは「仮想プロバイダー」として再設計されています。従来のmixture_of_agentsツールとmoaツールセットは削除され、設定済みのプリセット名がmoaプロバイダー配下のモデルとしてモデルピッカーに表示されます。

ユーザーがMoAプリセットを選ぶと、そのプリセットのアグリゲーターが「実際に応答し、ツールを呼び出すモデル」になります。処理の流れは次のとおりです。

  1. 設定されたリファレンスモデルが、会話のユーザー/アシスタント文だけを受け取り分析する(システムプロンプトやツール呼び出し履歴は除く)
  2. 各リファレンスの出力がアグリゲーターへの非公開コンテキストとして渡される
  3. アグリゲーターが通常のHermesツールスキーマ付きで応答を生成する
  4. ツール呼び出しがあれば通常どおり実行され、次のイテレーションでも同じMoA処理が繰り返される

CLI、ゲートウェイ、TUI、ダッシュボード、デスクトップアプリのすべてで、他のモデルと同じモデル選択UIからMoAプリセットを選べます。/model --provider moa --model defaultのように切り替えられます。

デフォルト構成とカスタマイズ

公式ドキュメントのデフォルトプリセットは次の構成です。

  • リファレンス:openai-codex:gpt-5.5
  • リファレンス:openrouter:deepseek/deepseek-v4-pro
  • アグリゲーター:openrouter:anthropic/claude-opus-4.8

config.yaml、ダッシュボード、デスクトップアプリの設定画面、またはhermes moa configure [name]コマンドでプリセットを作成・編集できます。プロバイダーを混在させることも可能で、OpenAI Codex経由のGPT-5.5とOpenRouter経由のOpus 4.8を組み合わせるような構成が想定されています。

enabled: falseにするとリファレンス呼び出しをスキップし、アグリゲーター単体で動作します。1つのリファレンスモデルが認証エラーになっても、他のモデルの結果で処理を続行します。

ワンショット実行とセッション切り替え

/moa プロンプト文は、デフォルトのMoAプリセットで1ターンだけ処理し、元のモデルに戻るショートカットです。セッション全体でMoAを使い続ける場合は、モデルピッカーからプリセットを選びます。/moaだけではモデルは切り替わらず、使い方の説明が表示されます。

ベンチマークの読み方と注意点

HermesBenchはHermes Agent向けの評価スイートです。MoA構成は最強コンポーネントであるOpus 4.8単体より約6ポイント(相対で約8%)高いスコアを記録しています。Nous Researchの主張どおり、単一の最強モデルをそのまま使うより、複数モデルの視点を統合するほうが難しいタスクで有利になる、という結果です。

一方で、Nous Research自身が「今後公開予定のベンチマーク」と表現しており、全指標を網羅したリーダーボードはまだ公開されていません。CryptoBriefingの報道でも、SWE-bench ProではOpus 4.8が69.2%、GPT-5.5が58.6%だったとされ、MoAプリセットが両者を上回ると主張しているものの、詳細な数値は限定的です。性能向上の代わりに、1回のモデル呼び出しあたり複数のAPIリクエストが発生し、コストとレイテンシは増えます。

誰に向いているか

複数のフロンティアモデルへのアクセス権を持つ開発者にとって、MoA仮想モデル化は実用的な選択肢です。個別の最上位モデルへのアクセスが制限されていても、手元で使えるモデルを組み合わせれば、単体より高い性能を狙える、というのがNous Researchの訴求点です。

エージェントのツール呼び出しループ、セッション永続化、プロンプトキャッシュとの互換性も維持されています。公式ドキュメントによれば、MoA選択は通常のモデル切り替えと同程度のキャッシュ無効化にとどまり、会話の安定したプレフィックスは保持されます。

オープンソースのHermes Agentで、複数モデル合成を「ただのツール」ではなく「選べるモデル」として扱えるようになった点が、今回の変更の本質です。