エージェント型AIが本番稼働に入ると、GPUの枚数だけでは足りなくなります。2026年6月、CoreWeaveはNVIDIA Vera Rubin NVL72のブリングアップとシステム全体の検証を完了し、AIクラウド事業者として初めてラックスケール基盤を実運用レベルまで引き上げました。
この記事では、Vera Rubin NVL72の構成と性能、CoreWeaveが追加した液冷・ラック制御・ネットワークの仕組み、Dellとの連携までを整理します。
この記事でわかること
- Vera Rubin NVL72が1ラックに収めるGPU・CPU・帯域の規模
- CoreWeave独自の液冷制御「Valvey」とラック管理「Racky」の役割
- マルチテナント運用を支えるBlueField-4 DPUとネットワーク構成
- エージェント型AIワークロードがインフラ設計を変えている理由
検証の意味は「ラボ合格」ではなく本番運用
CoreWeaveの発表は、Vera Rubinチップの試験ではありません。1ラック丸ごとのラックスケール・アーキテクチャについて、システムレベルの厳密な検証を終えたという内容です。CoreWeaveはHopperやBlackwellの各世代をいち早く立ち上げてきた実績があり、今回もAIクラウド事業者として初のVera Rubinブリングアップを達成しました。
背景にあるのは、AIの使い方の変化です。質問に答えるだけの推論から、コードを書き、実験を回し、多段の推論ループを止めずに動かすエージェント型ワークロードへ移行しています。こうした処理は帯域とメモリを継続的に消費するため、断続的なバッチ処理向けの8枚GPUサーバーでは性能の上限に早くぶつかります。
CoreWeaveの製品・エンジニアリング担当EVP Chen Goldbergは、Vera Rubinを「漸進的なアップグレードではない」と述べています(参考)。72基のRubin GPU、36基のVera CPU、ラック内260TB/sのNVLink 6帯域——この帯域は、同氏の説明では「世界のインターネット全体で使われるデータ帯域を上回る規模」と位置づけられています。
Vera Rubin NVL72の中身
Vera Rubin NVL72は、1ラックに72基のNVIDIA Rubin GPUと36基のNVIDIA Vera CPUを収めたラックスケールのAIスーパーコンピュータです。第6世代NVLinkスイッチでGPU同士を接続し、ConnectX-9 SuperNICとBlueField-4 DPUも同一ラックに統合します。
NVIDIAの公式仕様によると、ラック内のNVLink帯域は260TB/s、GPUメモリは合計20.7TBのHBM4、CPUメモリは54TBのLPDDR5Xです。Blackwell世代と比べ、推論あたりの電力効率は最大10倍、100万トークンあたりのコストは10分の1、必要GPU数は最大4分の3に抑えられるとNVIDIAは公表しています。
トレーニング性能は最大4倍、推論性能はワットあたり最大10倍の改善とされています。1ラックに約130万個の部品、約1,300チップが入り、重量は約4,000ポンド(ピックアップトラック1台分)に達します。2026年下半期の出荷を予定しており、CoreWeaveはこの世代をCoreWeave Cloud上で顧客向けに提供する方針です。
「ラックがコンピュータ」になる設計思想
CoreWeaveのコンピュートアーキテクチャ担当シニアディレクター Jacob Yundtは、NVL72がエンジニアリングの前提を変えたと説明しています(参考)。従来は個別サーバー単位で設計していましたが、NVL72では全CPUと全GPUが1ラックに収まり、超高速・超低遅延の相互接続を持ちます。その結果、設計単位がサーバーからラックへ、さらに複数ラックの連携へと段階的に移ります。
Dell Technologies CTO Ihab Taraziも、兆パラメータ規模のモデルや数百万トークンのコンテキストが標準化する中、8枚GPUの従来型サーバーではフル性能を出しきれないケースが増えると指摘しています(参考)。NVL72クラスの高密度ラックが、実運用の推論性能を支える基盤になるという見立てです。
今回のブリングアップでは、DellのPowerEdge XE9812サーバーがアーキテクチャの背骨を担い、Micron 7600 SSDがラックスケールで液冷NVMeストレージとして採用されています。ハードウェア各社の部品を束ね、1つのシステムとして動かす統合作業が検証の中心でした。
ValveyとRackyが液冷とラックをソフトウェア化
ラックスケール基盤をクラウドとして運用するには、冷却と電源・環境監視をソフトウェアから制御できる必要があります。CoreWeaveはCoreWeave Mission Controlの一部として、2つの独自技術を公開しました。
Valveyはラック単位のプログラマブルバルブアセンブリです。流量、温度、圧力、漏液検知をリアルタイムで監視し、共有冷却ループ上の隣接ラックへ影響を与えずに隔離、緊急停止、メンテナンスを実行できます。従来の受動的な機械冷却を、ソフトウェア定義の制御面へ置き換える仕組みです。Goldbergは、バルブをサブ秒単位で制御し、漏液を検知した瞬間に対処できると説明しています(参考)。
Rackyは電源、冷却、環境センサーのテレメトリを集約する統合ラック制御アプライアンスです。GPU、電源系、漏液センサー、ビル管理システム(BMS)のデータをローカルポッド内で統合し、Valveyや上下流システムと連携して判断を下します。CTO Peter Salankiは、各Vera Rubinラックを個別のカスタム構築ではなくクラウドリソースとして管理できる点を強調しています(参考)。
Vera Rubinの計算トレイは100%液冷で、ファンレス設計に移行しています。Blackwell世代のハイブリッド冷却(液冷85%・空冷15%)から一歩進み、より高い熱密度をラック内で処理します。
ネットワークとDPUがマルチテナントを支える
1ラックに多数のCPUとGPUが共存すると、GPU間通信の均一性が性能の鍵になります。NVIDIAのDion Harrisは、NVL72の設計思想として「GPU 1号と72号が同じ速度で通信できる」点を挙げています(参考)。ラック内ではメモリ、計算、ファブリックをフルレートでスケールし、ラック間ではSpectrum-Xのコパッケージ光学ネットワークで効率的に拡張します。
CoreWeaveはマルチレール・マルチプレーンのネットワークを構築しています。NVIDIA Quantum-X800 InfiniBandと、RDMA over Converged Ethernet(RoCE)対応のNVIDIA Spectrum-X Ethernetの両方をサポートし、GPUあたり1.6Tb/sのバックエンド帯域を非ブロッキングで提供します。Spectrum-Xは2段のネットワーク構成で数十万GPU規模まで拡張できるとCoreWeaveは説明しています。
マルチテナント運用にはNVIDIA BlueField-4 DPU(Data Processing Unit、データ処理装置)が使われます。インフラサービスをオフロードし、テナント分離を強化しながら、Vera Rubin基盤全体でワークロードを実行できます。製品ディレクターのHarshdeep Banwaitは、Vera CPU、Rubin GPU、ConnectX NIC、BlueField-4 DPUが連携して1つのシステムとして動くことを検証したと述べています(参考)。
エージェント型AIと推論市場の拡大
theCUBE Researchの分析では、AI投資の焦点がモデル開発から本番推論の運用へ移りつつあるとされています(参考)。CoreWeave製品担当SVP Corey Sandersは、推論市場がここ数年で指数関数的に成長しており、Vera Rubinは大規模トレーニングと低コスト推論の両方を担う役割を持つと説明しています。
CoreWeaveは2025年にWeights & Biases(W&B)を買収し、エージェント型AI向けのツール群をプラットフォームに統合しています。W&B内にモデル訓練とアプリ構築を支援するエージェントが追加され、W&B LaunchはUIからCoreWeaveインフラ上のジョブを起動する機能です。創業CTO Shawn Lewisは、人間の代わりにエージェントが実験をインフラへ投入できるようになったと述べています(参考)。
ハードウェアの検証とソフトウェアのエージェント化は、同じ方向を向いています。推論が24時間止まらないワークロードへ変わるほど、ラック単位の統合設計と運用自動化の価値が上がります。
データセンター設計者が押さえるポイント
Vera Rubin NVL72の検証完了は、AIインフラの設計単位がチップからラックへ移ったことを示すマイルストーンです。72 GPUと36 CPU、260TB/sのNVLink 6、液冷、マルチレールネットワーク、DPUによるテナント分離——これらは個別のスペック表ではなく、1つのクラウドリソースとして束ねて初めて意味を持ちます。
CoreWeaveはValveyとRackyで冷却とラック管理をソフトウェア層に引き上げ、Dell PowerEdgeとMicronストレージでハードウェア基盤を固めました。エージェント型AIが本番で動き続ける時代には、「何枚のGPUがあるか」より「1ラックがどう1台のコンピュータとして振る舞うか」が性能とコストを決める局面に入っています。