AIでサイトやUIを量産する時代に、アクセシビリティ対応が後回しになる問題が表面化しています。
2026年6月30日、デジタルアクセシビリティのSiteimproveは、Siteimprove.ai Model Context Protocol(MCP)ServerとFigma向けプラグインを発表しました。Claude、Lovable、VS Code、Figmaといった制作環境にAccessibility Agentを直接つなぎ、公開後ではなく制作の途中で監査と修正を行えるようにしたのが要点です(参考)。
この記事では、新機能の全体像と、Web制作・デザイン・AI開発の現場で何が変わるかを整理します。
この記事でわかること
- Siteimprove.ai MCP Serverが接続するツールと主な機能
- 制作中に監査・修正する「上流シフト」の意味
- Figmaプラグインでできること
- agent-to-agent連携が想定するワークフロー
- 背景にある規制とSiteimprove.aiプラットフォームの位置づけ
何が変わったか
https://www.siteimprove.com/platform/accessibility/
従来のアクセシビリティ監査は、サイト公開後やリリース直前に走らせる運用が多かったです。一方でLovableやCursor、Bolt.new、Replit、v0などのAIビルダーが普及し、デザイナーやマーケター、非エンジニアでもデジタル体験を短期間で作れるようになりました。Siteimproveは公式発表で「アクセシビリティがそのスピードに追いついていない」と指摘し、大量の非アクセシブルなコンテンツが生まれる構造を問題視しています(参考)。
今回のMCP Serverは、その対策として制作環境へ監査を埋め込むものです。MCP(Model Context Protocol)は、AIアシスタントが外部ツールやデータに接続するための標準プロトコルで、Claude DesktopやVS CodeなどのMCP対応クライアントから、SiteimproveのAccessibility Agentを呼び出せる仕組みになります。
背景にある課題
AIビルダーの登場で、制作の起点がIDEやデザインツール、LLMのチャット画面へ移りました。Siteimprove CEOのNayaki Nayyar氏は「コンテンツ制作の起点が変わった」と述べ、Claude、Lovable、Figma、VS Codeが新しい制作環境だと位置づけています(参考)。
規制面でも圧力が高まっています。欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act)は2025年6月に発効し、デジタルコンテンツのアクセシビリティ対応が義務化されました。Siteimproveは企業・政府・教育機関向けにWCAG、ADA、Section 508、欧州アクセシビリティ法への準拠を支援してきたベンダーで、今回の発表は規制対応とAI制作の両方を見据えた動きと読めます(参考)。
MCP Serverの主な変更点
Siteimprove.ai MCP Serverは、Accessibility AgentをAnthropic Claude、Lovable、VS Code、Figmaに接続します。エージェントはコンテンツ生成と同時にアクセシビリティ違反をスキャンし、検出だけでなく修正まで行うとされています。公開後の手戻りを減らすため、「違反を見つける」から「閉じる」までを一連のワークフローとして扱う設計です(参考)。
もう一つの柱はagent-to-agent連携です。AIコーディングエージェントがデジタル体験を生成した直後に、Accessibility Agentが自律的に監査・修正を走らせ、本番環境に到達する前に問題を潰すシナリオを想定しています。CMSWireの報道でも、コーディングエージェントが生成した体験を本番前に自動監査する例が挙げられています(参考)。
MCP Serverは既存の40以上のパートナー連携を拡張する位置づけです。AIコーディング環境やデザインツールからCMS、DXPまで、コンテンツワークフロー全体にエージェント接続を広げる狙いがあります。同じMCPレイヤー経由でSearch AgentやContent Agentも接続され、アクセシビリティとAI検索での発見性(AEO)を同一プラットフォームで扱えると説明されています(参考)。
Figmaプラグインでできること
Figma向けには専用プラグインも同時に発表されました。デザイナーが作業中のキャンバス上でアクセシビリティ問題を確認でき、開発に渡す前の段階で対応を進められます。
プラグインの機能は次の3点が中心です。
- 作業中のデザインに対するアクセシビリティ問題の表示
- 監査レポートをFigmaキャンバスへ直接保存
- 色覚シミュレーションの実行と、スクリーンショットのキャンバス保存
Siteimproveは、Figma単体のチェックより多くのアクセシビリティルールをカバーし、企業向けの判断基準をデザイン段階に持ち込めると説明しています(参考)。
各ツールでの使い方のイメージ
具体的な設定手順の詳細はSiteimproveの顧客向けプラットフォーム内で提供される想定ですが、発表内容から読み取れる利用パターンは明確です。
Claude・Lovable(AIビルダー)
MCP対応のAI環境にSiteimprove.ai MCP Serverを接続し、ページやコンポーネントの生成と同時にAccessibility Agentが監査を走らせます。人間がプロンプトでUIを組み立てる場面でも、AIエージェントが自律的にサイトを生成する場面でも、同じエージェントが後段の修正まで担います。
VS Code(開発環境)
コーディング中のHTMLやコンポーネントに対して、エディタ内からアクセシビリティチェックと修正提案を受け取れます。AIコーディングアシスタントと組み合わせたagent-to-agent運用では、コード生成エージェントの出力をAccessibility Agentが横から監査する形になります。
Figma(デザイン環境)
プラグインをインストールし、デザインレビューの一環として監査レポートをキャンバスに残します。色覚シミュレーションでコントラストや色の識別性を確認し、スクリーンショットを共有資料として残せる点が、従来の外部監査ツールとの差になります。
既存のSiteimprove.aiとの関係
Siteimproveは2003年にデンマークで設立された企業で、中堅・大企業や公共部門向けにアクセシビリティ、Webガバナンス、分析、SEO/AEOをまとめたSaaSを提供しています。2025年8月にはAmazon Bedrock AgentCore上でSiteimprove.aiを立ち上げ、「エージェント型コンテンツインテリジェンス」プラットフォームへ転換しました(参考)。
その後、Content Writing & Optimization AgentやPDF Remediation Agent(WCAG・PDF-UA準拠の自動タグ付け)などを追加してきました。2025年9月にはOptimizelyのOpal AIプラットフォームとのagent-to-agent連携も発表しています。今回のMCP Serverは、その延長線上で制作ツール側へ接続点を増やしたアップデートです(参考)。
顧客にはBarclays、Shell、BlackRock、Harvard、GSKなどのグローバル企業が名を連ね、Adobe Experience Manager、Sitecore、Drupal、WordPressなど60以上のテクノロジーパートナーと連携しています。エンタープライズ向けの既存基盤に、AIネイティブな制作環境への接続を足した構成と捉えられます。
注意点と現実的な見方
MCP ServerはSiteimproveの有料プラットフォームの一部であり、個人開発者がすぐ無料で試せるOSSではありません。ClaudeやVS Code、FigmaそれぞれでMCP接続やプラグインの設定が必要になり、導入にはSiteimproveの契約と社内のガバナンス整備が前提です。
また、エージェントによる自動修正がすべてのケースで正しいとは限りません。コンポーネント構造、命名規則、パフォーマンス要件といったチーム固有の基準は、人間のレビューと組み合わせる必要があります。CMSWireは、AIが生成した成果物がアクセシビリティ目標に沿うようガバナンスを設計する難しさを、ヘッドレスCMSの文脈でも指摘しています(参考)。
それでも「公開後に直す」から「作りながら直す」へ監査地点を前倒しする方向性は、AI制作の速度と規制対応の両立に直結します。Siteimproveは「非アクセシブルなコンテンツをより速く直すのではなく、最初から生み出さない」と公式に訴求しており、今回の発表はその方針を制作ツール層まで押し上げたものです(参考)。
Web制作、デザイン、マーケティング、AI開発の境界が薄れるいま、アクセシビリティを各ツールの中に埋め込む動きは、MCPを軸にしたエージェント連携の実用例として注目に値します。